独立・起業に向いている性格があるとすれば、それは一体どんな性格でしょうか。
自分にとって未知の領域に足を踏み入れようとする好奇心、失敗したままでは終わらない粘り強さ。目的のためにコツコツと頑張る努力家……。
今回お話を伺った、不動産会社、株式会社Shift/人材会社、株式会社and Shiftの2社を経営する星野厳起さんは、自分に嘘をつけない性格の持ち主。
自分に嘘をつけず、課題に感じたことをそのままにできない性格から、事業のヒントを見出し、現在不動産会社と人材会社の2社を経営しています。
星野さんはどのような課題を感じ、起業に至ったのでしょうか。星野さんのキャリアと考え方には、事業の本質を捉えるためのヒントがありました。
星野厳起さん
株式会社Shift 代表取締役
株式会社and Shift 代表取締役
大学時代まで教員志望だったが、教育実習での経験から、教員への道を保留にし、バックパッカーに。
東南アジアや離島などを転々とした後、上京。その際に部屋を一緒に探してくれた不動産担当者の影響で、不動産業界に就職。
営業担当を経て店舗マネージャーまで昇格し、退職後に起業し株式会社Shiftを立ち上げる。
現在は不動産業に加え、2021年から新たに人材業にも着手し日夜、会社の規模拡大に努めている。
本当の意味で「先生」になるために。教員志望から一転、バックパッカーに?
――現在、不動産会社と人材会社を経営されている星野さん。まずは、現在のお仕事について教えてください。
2014年に不動産会社・株式会社Shift(以下、Shift)を創業し、現在9期目を迎えました。不動産の賃貸や売買の仲介業を営んでいます。
そして2021年に人材紹介会社として、新たに株式会社and Shift(以下、and Shift)を創業しました。
現在は主に、その2社の経営を行っています。
――不動産と人材。一見するとあまり関係のなさそうな2つの業種ですが……。まずは1社目にあたる、株式会社Shiftの起業の経緯から教えてください。前職が不動産で、そのまま独立・起業をされたのでしょうか?
ええ、端的に言えばそうなるのですが……でも新卒からずっと不動産業界一筋だったかというと、実はそうでもなくて。
順を追って説明します。
大学時代は不動産業界ではなく、教員を目指していました。教育実習にも行き、採用試験も受けました。
でも直前になって教員になることに対して、自分の中である疑問が生まれてきたんです。
――疑問ですか?
教育実習を経験した時に、生徒1人1人がさまざまな悩みや問題を抱えながら、学校生活を送っていることを目の当たりにしたんです。
勉強や進路、家庭環境、友人関係、恋愛……。ただの教員志望の学生だった当時の僕の経験値では、まだまだ彼らと向き合うことができないなと思ったんです。
教員の仕事は、生徒に勉強を教えるだけではありません。本当の意味で「先生」になるためには、もっと自分が「人間」としてさまざまな経験をして成長しなければと思うようになりました。
そんな葛藤をゼミの先生にぶつけてみたところ「海外にでも行ってみたら?」と提案されて。
とはいえ、いきなり大転換をしてバックパッカーになるわけですから、流石に迷いました(笑)。
でもそれくらい大きなチャレンジをしてみないことには、本当の意味で「先生」になれないんじゃないかと。そこで大学を卒業後、思い切ってバックパッカーとして世界を回ってみたんです。
東南アジアを中心にさまざまな国を周り、帰国後も離島などで働いた後、東京で就職することになり、縁あって不動産業界への就職を決めました。
“普通のキャリアではない道”に進んだからこそ、教員とは真反対の不動産業界に飛び込んだ
――数多くの業界がある中で、なぜ不動産業界を選んだのでしょう?
東京に戻ってくる時、初めて自分で部屋探しをしたのですが、その時にお世話になった担当者の方がとても素敵だったんです。
その方はとにかくヒアリングを大切にしてくださって。
僕にとっても初めての部屋探しでいろいろ不安だったんです。
そんな僕の気持ちを汲んで、とにかく僕の話を聞いて一緒に部屋を選んで、提案してくださった。とても心強かったんですよね。
――バックパッカーから戻って、教員になることは考えなかったのでしょうか?
それはもちろん考えました。
ただバックパッカーを経て「大学を卒業して就職する」という、いわゆる“普通のキャリアではない道”に進んだのなら、逆に可能な限り“普通じゃない方”を突き詰めてみようと思ったんです。
教員免許は取得していましたし、もしどうしても失敗してしまったら、その時にまた改めて考えようと。
加えて読者の皆さんもご存知の通り、不動産業界は数字と成績の世界。その点も教員の世界とは真逆だったので、興味が湧いたんです。
――特に公立の学校の教員(公務員)の方にとっては、売り上げもランキングも縁遠い世界かもしれませんね。
はい、でもだからこそあえて飛び込んでみようと。
とはいえ、僕にはあまり向いていませんでした(笑)。元来、声が小さいのもあり、元気がないように見えてしまったようで……。
でもとにかく上長(または売れている先輩)から言われたことを守り、さらに仕事を始めるきっかけにもなったヒアリングを自分なりに徹底した結果、だんだん売れるようになってきました。
そして気づいたら売り上げトップを取るまでになったんです。その後マネージャーに昇格して、店長として店舗の経営を経て、2014年にShiftを起業しました。
「嘘をつけない性格」だからこそ、事業の本質を捉えることができる
――2021年には、不動産業以外にも人材紹介業を営むand Shiftを創業されました。なぜ人材業という異業種に挑戦しようと思ったのでしょう?
いろんなきっかけやタイミングが重なったから、というのもあるのですが、最大の理由は、かつての自分が就職活動で苦労したからですね。
お話ししてきた通り、新卒で就職することなくバックパッカーとして世界を回っていたので、言うまでもなく不動産会社に就職するまではかなり苦労をしました。
そして今度は自分が会社の経営者として面接をする側になった時、かつての僕と同じようにESや面接で苦労される方が多いことに気がついて。
自分が苦労した経験があったからこそ、今度は誰かの役に立てるんじゃないかと。
そんな思いで立ち上げたのが、and Shiftだったんです。
――星野さんのキャリアとこれまでの行動を振り返ると、自分の気持ちや本音に、どこまでも正直に向き合っていて、それがとても印象的です。
自分の本音に正直、というと聞こえはいいかもしれないですが、昔から自分の中で納得できないと行動できない性分なだけなんですよ(笑)。
大学時代、教員という進路に対して疑問を抱いた時も、迷った挙句にバックパッカーをする道を選びました。
不動産業界に就職してからも、自分の中で腑に落ちなかったり、納得いかないことにはなかなか進んで行動できませんでした。
まぁ確かにこう振り返ると、自分に嘘をつけないところはあるかもしれません。
もう1つ「自分の本音」というテーマでお話をすると、Shiftの創業理由も自分の感じた気持ちから始まったものでした。
――創業理由ですか?
「なんか騙されそう」「売り上げ至上主義」といった、あまり良いとは言えない、世間の不動産業界へのイメージを変えたかったんです。
実際、自分が会社員として勤めていた時代から、世間からそういったイメージを持たれているなと感じる瞬間が多かったので。
だからShiftでは、不動産業界の悪しき風習と言いますか、お客さまが損をするようなご提案は絶対にしないと誓って、運営してきました。
――自分に嘘をつけない性格は、独立・起業を成功に導く1つの才能なのかもしれませんね。
事業のヒントって、誰かの悩みを解決したり、自分自身が困ったことを解決することだったりに隠されているものじゃないですか。
だからこそ「自分に嘘をつけない、臭い物に蓋をできない性格」は、事業の核の部分、本質を見抜くことができるのかもしれません。
というより、問題に対して見て見ぬふりや我慢ができない性質なので……(笑)。
僕もまだまだ道半ばですが、起業してからなんとかここまでやってこれたのは、自分が感じた問題を少しでも解決に導こうとしてきたから結果なのかもしれません。
――最後に、読者の方へメッセージをお願いします。
当たり前な話ですが、独立・起業にはリスクが伴います。故に全ての人におすすめできる選択肢ではないかもしれません。
ですがリスクを背負ってでも、解決したい問題や、事業に対して何か強い思いがあるなら挑戦してみる価値はあると思います。
思いが強いほど、やらなかった時の悔いは、自分の中に大きく残ってしまいます。
リターンもリスクも、自分の頭でよく考えた上で、それでもやりたいと思える覚悟がある人は、ぜひ独立・起業にチャレンジしてみてください。
取材・文・撮影=内藤 祐介