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経営者に必要な「着眼点」の鍛え方 第116回・メニュー設定に隠されたある工夫

独立ノウハウ・お役立ち

起業家、経営者にとって大事なのは、世の中を見抜く力です。1つの事象をどう捉えるかで、ものの見え方も、そこから得られる情報も大きく変わります。そうした「着眼点」、実はトレーニングによって鍛えることができるのです。累計20万部を超えるベストセラーとなった『戦略思考トレーニング』シリーズでおなじみの経営コンサルタント・鈴木貴博氏に解説してもらいましょう。

いきなりですが、クイズです!

昨年12月に外食チェーン「かつや」が感謝祭を実施し、4日間、以下の4つのメニューのみを「どれでも500円」で提供しました。
・カツ丼(通常価格650円→500円)
・ソースカツ丼(通常価格650円→500円)
・ロースカツ定食(通常価格690円→500円)
・カツカレー(通常価格790円→500円)
このメニューの設定には、「お店を運営する側の視点」として大きな工夫があるのですが、さて、その工夫とはどういうものでしょうか?

クイズの答えの中に、着眼点を鍛えるポイントがある

外食チェーン「かつや」が昨年12月に感謝祭を実施しました。感謝祭は4日間で、その間は「カツ丼」「ソースカツ丼」「ロースカツ定食」「カツカレー」の4つのメニューだけを全て500円で提供したのです。

私もお店に足を運んだのですが、お昼時などはお店の外まで行列ができていて大盛況でした。ただ、店内に入って「あれ?」と思うことがあったのです。気になったので、確認も兼ねて翌日もお店に行ってみたところ、やはり同じ状況でした。

しかし、考えてみて「なるほど」と思える仕掛けがあったことに気づきました。

それでは解説します!

「かつや」をよく利用する人はご存知だと思いますが、普段から看板メニューの「カツ丼」を注文する客が圧倒的に多いという特徴があります。実は、私が覚えた違和感はそこで、感謝祭の時は多くの人がカツ丼ではなく「カツカレー」を注文していたのです。

よくよく考えれば、それは値段を見れば納得です。普段は790円するカツカレーと、650円のカツ丼やソースカツ丼、690円のロースカツ定食がどれも500円で食べられるとなれば、「普段は高いけど今日は安いからカツカレーにしよう」と思う人は多いのではないでしょうか?

つまり、メニューに仕掛けられた工夫というのは、「値段の下げ幅が大きい、明らかにお得なメニューが混じっている」ということなんです。カツカレーを頼むように誘導している、ともいえるかもしれません。

では、なぜそんなことをしているのか。そこが今回の話のポイントです。

吉野家の敗北と、そこから学べることとは?

外食業界では割と有名な話で、『吉野家の経済学』という本でも語られた「吉野家の社員が敗北を認め悔しがった日」というエピソードがあります。

まだデフレが深刻になる前、2001年4月に吉野家は、通常400円(当時)で売っていた牛丼を感謝祭として250円で販売するセールを実施しました。すると、普段の3倍超のお客が殺到したのです。

初日には、数十個のお弁当をまとめて買いに来るような人が続出。「これが続いたら売るものがなくなってしまう」と危機感を覚え、2日目以降は店内での提供のみとし、お弁当の販売をやめました。それでもお客がひっきりなしに来て、ついに3日目くらいで売るものがなくなってしまったのです。24時間営業の吉野家が、創業以来初めて「次の商品が届くまで一時閉店」と店を閉めなくてはならなくなりました。

この出来事に対して、最初は「本部の読みが甘かったからだ」と材料の用意が足りなかったことに批判が集まりました。しかし、その後にきちんと分析をしたところ、実はそれ以前の話で、お店のオペレーションがうまく回っていなかったことが分かったのです。

つまり、仮に材料がきちんと用意できていたとしても、ご飯を炊くスピードが商品の提供に追いつかず、十分に蒸らしていないものや芯の残ったお米を出していたりと、完全にお店のオペレーションが破綻していました。

吉野家は大反省し、本部も店舗も含めた「全面的な敗北」を語った…というわけです。

実はこの時の経験が、その後の牛丼一杯280円につながったといわれます。「値段をどれくらい下げるとお客がどのくらい増えるのか」「お客が増えた時にどういうオペレーションが必要になるのか」といった予測を向上させ、同じことが二度と起こらないようにしたわけですね。

ボトルネックを避けるために何ができそうか?

さて、話を「かつや」に戻しましょう。

今回の「かつや」の感謝祭でお店のオペレーションをきちんと成立させるためにはどうするかという話になると、お客が来すぎた場合に明らかにボトルネックになるのは「カツ丼を作ること」です。

カツ丼を作ったことがある人ならお分かりだと思いますが、1つ作るためにはコンロが1つ必要で、専用の鍋にカツと具材を入れて煮込んで、卵でとじて、ご飯の上に盛り付ける…という調理作業が必要となります。

一方、カツ丼以外の3つのメニューは、基本的には「切って盛りつけるだけ」なので、それほど手間はかかりません。

つまり、お店での効率的なオペレーションを考えると、「カツ丼を作る鍋をできるだけ使わないようにする工夫」が必要であり、そのために、メニューの中に明らかにお得なものが混じっているのです。しかも、客層を考えても普段はカツ丼を食べる人が多いからこそ、「今日は違うものを」と他のメニューに流れていくようにうまくできているわけですね。

もちろん、4つのメニューで使われているカツが全て同じグラム数の同じお肉であることなども、大事なポイントであることは間違いありません。そういうことも含め、ボトルネックが何で、それを避けるための「賢い工夫」がしっかり考えられているところが、商売をするうえで参考になるのではないかと思いました。

最後に、もうお分かりだと思いますが、冒頭のクイズの答えは「ボトルネックになる商品をうまく避けるための工夫ができている」でした。いろんなことを想定して工夫するのが商売の面白さ・醍醐味であるのは間違いないので、ぜひ皆さんのビジネスでもできそうなことを考えてみてくださいね。

構成:志村 江

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PROFILE
鈴木貴博

東京大学工学部卒業後、ボストン・コンサルティング・グループに入社し、数々の大企業の戦略立案プロジェクトに従事。1999年にはネットイヤーグループの創業に取締役として参加。2003年に独立し、百年コンサルティングを創業する。大手企業の経営コンサルティング経験を元に2013年に出版した『戦略思考トレーニングシリーズ』(日本経済新聞出版社)が累計20万部を超えるベストセラーに。現在はビジネスをエンタメクイズ化する経済エンタテナーとしても活動中。『パネルクイズ アタック25』(優勝)、『カルトQ』などのクイズ番組出演経験も豊富。近著に『戦略思考トレーニング 最強経済クイズ[精選版]』(日本経済新聞出版社)、『日本経済 予言の書 2020年代、不安な未来の読み解き方』『「AI失業」前夜―これから5年、職場で起きること』(ともにPHPビジネス新書)など。

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