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経営者に必要な「着眼点」の鍛え方 第84回・ホテルの棚の秘密

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起業家、経営者にとって大事なのは、世の中を見抜く力です。1つの事象をどう捉えるかで、ものの見え方も、そこから得られる情報も大きく変わります。そうした「着眼点」、実はトレーニングによって鍛えることができるのです。累計20万部を超えるベストセラーとなった『戦略思考トレーニング』シリーズでおなじみの経営コンサルタント・鈴木貴博氏に解説してもらいましょう。

いきなりですが、クイズです!

ビジネスホテルチェーンの東横インでは、他のホテルだと引き出し付きの棚が置いてある場所に、カラーボックスのような棚が置いてある部屋が多くあります。利用者はものが置けるのにはかわりがないことから特に困らないわけですが、この工夫には実は大きな利点があると考えられます。さて、どんなものが考えられるでしょうか?

クイズの答えの中に、着眼点を鍛えるポイントがある

私は経営コンサルタントなので、いろいろなお店に行くと、何か面白い仕掛けがないかを気にしてしまう癖があります。

今回取り上げるのは、ビジネスホテルチェーンの東横インにある「棚」の話です。

ホテル宿泊時に、置いてある棚のことなどあまり気にしないかもしれません。しかし、そこにはちゃんと理由があることに気づくと、実に東横インらしいなあと感心してしまうはずです。

それでは解説します!

ビジネスホテルは、利用者が快適に過ごせるように限られたスペースの中でいろいろな工夫がなされています。

それなりに荷物を持っている人が多いため、大きなカバンを置いたり、カバンの中身を収納したりする場所が必要であることから、大体のホテルには引き出しが付いた棚が用意されてあります。クローゼットには扉も付いていて、いろいろなものが収納できます。

しかし、私が泊まった東横インの部屋の場合は、引き出しのないカラーボックスのような棚がただ置かれていたり、クローゼットには扉そのものがなかったりするのです。

実はこれには、ホテル側にとって都合のいい理由がいくつかあると考えられます。

1つ目は「清掃が楽になる」ことです。

ホテル経営においては、ルームクリーニングのコストと時間が相当なものになります。繁忙期などは1日に何部屋も清掃しなくてはならず、人件費を抑えるためには効率よく、時間をかけずに済ませることが重要になります。

その時に、引き出しをいちいち1つずつ開けて掃除する手間が省けるだけで、時間短縮になるわけです。つまり、オペレーションの問題です。

もう1つ理由として考えられるのは「忘れ物を減らす」ことです。

引き出しの中にものを入れっぱなしにして忘れてしまった、という経験はないでしょうか? ホテルでは非常によくあることで、部屋を出る時に指差しで確認したとしても、引き出しの中を見落としてしまうことは多いのです。

しかし、引き出しや扉がなく、目視で確認できれば忘れ物にも気づきやすいでしょう。利用者にとってもありがたいことですが、ホテルとしてもその後の手間が省けます。

この工夫の素晴らしいところは、ホテルの常識を取り払っていることです。利用者にしたら確かに引き出しがある方が便利だし、どこのホテルでも大概あるものなので「それが当たり前」になっている部分があるはずです。

しかし、大きな荷物を抱えて長旅をしていた100年前には必要だったかもしれませんが、ほぼ素泊まりのビジネス旅客が中心の今の時代には、いうほど重要なものではないのかもしれません。逆に引き出しがないことの方が、お互いにメリットがあるのかもしれません。

世界に誇る「トヨタ生産方式」が参考になる

作業の無駄を見つけて、その無駄をなくすための方法を徹底的に考える。これはまさに世界中がまねをする「トヨタ生産方式」と同じです。徹底的に無駄を排除した生産方式で、これも小さな工夫の積み重ねだといわれています。

例えばパーツとパーツをとめるネジなどは、必要な強度によって長さや太さが変わってくるものです。しかし、ネジが長すぎるととめるのに時間がかかるため、強度とかかる時間を分析し、効率のいいギリギリのところに決めるのだそうです。

製造ラインも、従業員が作業する高さ(場所)がバラバラだと時間がかかり、作業員の負担も多くなります。必ず同じ高さで作業できるよう、ライン自体が自動で高さを調節してくれたりと、数多くの工夫があります。

こうした工夫にまつわる話は、製造業で語られることが多いのですが、最近はサービス業など他の業種でも取り入れることが増えています。

例えばファミレスチェーンの「サイゼリヤ」では、店内の通路の幅を清掃用のモップの幅に合わせているそうです。清掃時間を短縮し、手間を省くための素晴らしい工夫ですよね。

街の中にあるいろいろな工夫をまねしてみよう

話を東横インの事例に戻すと、ビジネスホテルの経営においては、オペレーションの工夫が避けて通れません。利用者にとっては価値が下がらず、ホテル側にとってはコストが下げられる、そのギリギリのところをいかに考えるかがポイントです。

まさに棚の話はその分かりやすい例で、大げさかもしれませんが、業界の常識をも覆すような取り組みともいえます。

優れた事例から学ぶことはとても大事なことですので、みなさんも他の会社やお店に行った時は、何かまねできることがないかチェックしてみてくださいね。

最後に、もうお分かりだと思いますが、冒頭のクイズの答えは「清掃が楽、忘れ物が減る」でした。ちなみに、この東横インの棚に気づいたのは10年以上前のことですが、今でもそのような部屋があることを確認しています。なぜ他のホテルがまねをしないのか、不思議でなりません。

構成:志村 江

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PROFILE
鈴木貴博

東京大学工学部卒業後、ボストン・コンサルティング・グループに入社し、数々の大企業の戦略立案プロジェクトに従事。1999年にはネットイヤーグループの創業に取締役として参加。2003年に独立し、百年コンサルティングを創業する。大手企業の経営コンサルティング経験を元に2013年に出版した『戦略思考トレーニングシリーズ』(日本経済新聞出版社)が累計20万部を超えるベストセラーに。現在はビジネスをエンタメクイズ化する経済エンタテナーとしても活動中。『パネルクイズ アタック25』(優勝)、『カルトQ』などのクイズ番組出演経験も豊富。近著に『戦略思考トレーニング 最強経済クイズ[精選版]』(日本経済新聞出版社)、『日本経済 予言の書 2020年代、不安な未来の読み解き方』『「AI失業」前夜―これから5年、職場で起きること』(ともにPHPビジネス新書)など。

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