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海外の旅人と食卓を囲む「ホームビジット」でつなぐ“草の根”国際交流 社会起業家からのメッセージ

海外の旅人と食卓を囲む「ホームビジット」でつなぐ“草の根”国際交流 社会起業家からのメッセージ

NPO法人サービスグラント/東京都渋谷区
代表理事

楠 めぐみさん(33歳)

1982年、埼玉県生まれ。立教大学観光学部を卒業後、06年から5年間、訪日外国人旅行者向けウェブサイト「japan-guide.com」にて旅行会社、公的機関等のインバウンドプロモーションに関わる企画・提案に携わる。11年に退職後、食を通じた「ホームビジット」の事業を構想し、大手料理教室の講師を務めつつ、NAGOMI VISITの運営をスタート。13年にNPO法人化し、本格的に事業を展開。国内外のメディアでも多数取り上げられ、現在までに57か国3900人の海外旅行者と日本の家庭とをマッチングした実績を持つ。

世界中から日本にやってくる旅行者を自宅に招き、普段の「おうちごはん」を一緒に食べながら2~3時間交流をする。「ホームビジット」という草の根の国際交流事業を運営するのがNAGOMI VISITだ。世界で和食が注目される中、1人3500円の参加費で日本人ホストに招かれるこのプログラムが、外国人旅行者の間で人気を呼んでいる。
楠めぐみがこの素敵な出会いの仕組みを考えたのは、2つの思いからだ。1つは、外国人とのつながりを持たない一般の日本人に、 海外の人と触れ合い、異文化を知ってもらう機会を作りたかったこと。もう1つは、日本の和食の幅広さと同時に日本人の本当の暮らしぶり、あったかさ、和やかさを経験してほしいという願いだ。
2011年にスタートした活動はやがて国内外のメディアで紹介され、参加者を増やしてきた。現在までに57カ国の旅行者3900人が体験。日本のホスト家庭は42都道府県で650組にも上る。
日本に海外からの旅行者が激増する中、NAGOMI VISIT は「ホームビジット」という新スタイルの異文化交流を通じ、日本と海外の相互理解の絆を、着実に育んでいる。

文化の違う人同士が互いに認め、尊敬し合える“つながり”を作る。個々人の小さな変化が世界を動かす“てこ”になる

━ 活動を始めたのは、ご自身の個人的な体験からだそうですね。

  海外旅行者のための情報サイトの仕事をしていた時から、旅行者にエキサイティングなアクティビティを提供できないかと思っていました。そこで、自分が旅行者だった時に一番、エキサイティングだったことは何かと振り返ると、真っ先に思い浮かんだのが、私のパートナーのデンマーク人の実家を訪ねた時のことでした。

初めての欧州旅行で一般家庭に入って暮らしぶりを見たり、ごはんを食べる体験は、驚きと感動の連続でした。この体験を日本に来る旅行者にも、味わってもらいたいと思ったのがきっかけでしたね。

━ 事業としては、どんな形でスタートを切ったのでしょうか?

 最初は前職を辞めた時期に、「ちょっとやってみた」という感じでした。知人の家庭にホストになってもらい、一方でご縁のあった旅行社にゲストを紹介してもらって、試験的に4組のホームビジットをセットしたんです。ゲスト側は大喜びでしたが、気がかりだったのはホスト側の反応。実施後にヒアリングしたところ、意外にも「視野が広がった」とか「外国に対する見方が変わった」など、人間的な成長につながったとの声をいただけたんです。

実は私が「ホームビジット」に込めた期待もそこにあったので、これを自分の事業にしたいと思うようになりました。

━ 期待とはどんなことですか?

 日本の、特に地方では、外国人に遭遇すると、見てはいけないものを見たような反応をしたり、子供は「ガイジンだ!」と騒いだりします。見た目の違いによる偏見や特別視する光景を見る度、寂しさを感じていました。

職場の外国人社員から「なぜ日本人は外国人に過剰反応するのか」と聞かれることも多かったんです。考えてみると、日本人はただ外国人に不慣れなだけなんですよね。だから外国人と関わりを持たない一般の人に、直接、海外の人と触れ合うことで、異文化に対する見方を変えてもらいたいと思っていました。

━ そこからの事業展開は?

 まず「ホームビジット」の仕組みとルールを作り、実績を積んでいきました。当初は全て手作業で、1組のリクエストが入ると、数人のホストにプロフィールや日程のメールを送り、誰かが手を挙げてくれたらゲストにメールして、という具合ですね。その後、前職で同僚だった女性がメンバーに加わったことで、13年にNPO法人を設立。

幸いメディアにも多く取り上げられ、次第にゲストもホストも増えていきました。規模が増えるにしたがって少しずつシステムを導入し、ようやく決済やマッチングをシステム上でほぼ完結できるところまできました。

━ ゲストとホストが長い付き合いになることも多いそうですね。

 「同じ釜の飯を食う」とはよく言ったもので、たった数時間でも、食卓を囲めば心が通い合うんです。旅行者が再び同じホストを訪ねたり、反対にホスト側が海外のゲストの家に行くといった交流が生まれています。それも、対等な関係で付き合える仕組みにしているからでしょう。

サービスを受ける側と提供する側に分けないために、ゲストは低料金で参加でき、ホストはその中から食材費をまかなう形にしたのはそういう理由です。

━ 今後、成し遂げたいことは?

 ビジョンとしては文化の異なる国の人同士が相手の立場に立って接することのできる社会を作ることを掲げています。でも声高に訴えるつもりもありません。それよりも偶然旅先で知り合ったような、自然な出会い体験をたくさん作っていきたいです。

今は1か月に100組前後のペースですが、今後は事業の採算ラインとなる250組、500人を目指します。

取材・文/大島七々三 撮影/井出真 構成/天田幸宏

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