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経営者に必要な「着眼点」の鍛え方 第123回・需要は作り出せる

独立ノウハウ・お役立ち

起業家、経営者にとって大事なのは、世の中を見抜く力です。1つの事象をどう捉えるかで、ものの見え方も、そこから得られる情報も大きく変わります。そうした「着眼点」、実はトレーニングによって鍛えることができるのです。累計20万部を超えるベストセラーとなった『戦略思考トレーニング』シリーズでおなじみの経営コンサルタント・鈴木貴博氏に解説してもらいましょう。

いきなりですが、クイズです!

「土屋鞄」でおなじみの土屋鞄製造所では、あらゆる鞄の企画・製造・販売を行っています。そんな同社の定番商品の1つである「ランドセル」が、最近意外な売れ方をしているそうです。それは同社が新たな仕掛けのもとで商品化し、ヒット商品となったわけですが、さて、それはどのような商品でしょうか?

クイズの答えの中に、着眼点を鍛えるポイントがある

最近は、鞄があまり売れないといわれます。

厳密にいうと、スマートフォンが普及したことにより、「いつでもスマートフォンを触れるように常に両手を空けておきたい」というニーズから、手で持つタイプの鞄が売れにくいのだとか。

そのかわりに人気なのが、肩から下げたり背負ったりできるタイプの鞄です。ビジネスシーンでも、リュックサックのような背負えるものを活用する人が増えていますよね。

それでは解説します!

土屋鞄製作所はランドセルメーカーとしてスタートしたこともあり、職人が1つずつ手がける同社のランドセルは、人気が高いといわれます。ものによっては発売開始からすぐに売り切れてしまうのだそうです。

ただ、少子高齢化が進む中でランドセル市場は全体として縮小傾向にあります。ランドセルを使用しなくてもいい学校もあるようですし、同社のような鞄専門メーカーだけでなく量販店などが手広く扱い始めるなど、顧客獲得競争も激しくなっています。

そこで同社が考えたのが、子ども向けのイメージが強いランドセルを、新たに「大人に」売ることでした。「ビジネスシーンで使える商品を」と考えて2017年に発売した『OTONA RANDSEL(大人ランドセル)』です。

ビジネスシーンではカジュアルなものは敬遠されるため、シンプルで機能的なデザインにこだわりつつも、ランドセル特有の形を踏襲しています。同社の職人が一つ一つ手がける高級感あふれるランドセルは、子どもが背負うあのランドセルの雰囲気を残しており、しかも軽くて丈夫で使いやすいため評判になりました。

ちょうど「背負うタイプの鞄」を求め始めた世の中の流れともうまくマッチしたわけですね。加えて、最近はコロナ禍で自転車通勤をする人が増えたことで、背負えるタイプが重宝がられたことも人気を後押ししたといわれます。

この『OTONA RANDSEL』のヒットがきっかけで、他の鞄メーカーもランドセル型のビジネスリュックを次々に発売し始めました。今ではすっかり、1つのジャンルとして注目を集めています。

ついついほしくなってしまう「大人向け」商品の数々

この大人向けのランドセルのトレンドは、ビジネス用語としては「需要創造」ということで説明ができます。つまり、何かしらの理由で売り上げが止まってしまっているものを、別のユーザーに向けて売るようにすることで新たな需要を生み出すのです。

今回のような「子どもを対象にしていたものを大人に向けた商品として新たに企画する」という例は、他にもあります。

例えば、最近話題になっているのが「大人レゴ®️」といわれる大人向けのレゴ®️セットです。いわゆる子ども向けのラインナップとは別の、難易度の高い商品で、自動車やバイクなどを細かい部分までブロックで再現できるものや、プログラミングによって動かせるものもあるのだとか。

ただ作って楽しむだけでなく、手や頭をフル回転して組み立てていく工程がマインドフルネスの実践にもつながるとして、ストレス軽減や集中力を高めるものとしても注目を浴びているようです。

あとは、大人向けの「塗り絵」も、書店でコーナーが作られるほど人気ですよね。塗り絵は子供の定番の遊びでしたが、今や脳トレ効果があるなどといわれ、すっかり大人の趣味の1つとして幅広く楽しまれるようになりました。

大人向けといえば、学研の『大人の科学』も、大人たちの学びたい意欲や知的好奇心を刺激するものとして人気が高いです。

個人的には、「はずる」という商品に注目しています。要は大人向けの「知恵の輪」なのですが、そのデザインがなかなか洗練されていて、遊ぶだけでなくオブジェとして飾っておいても良さそうなくらい、ついついほしくなってしまいそうな商品なのです。

このように商品が大人向けになると、売り方も価格設定もそれまでとは違ってきますので、いろんなアプローチができそうですよね。

あなたのビジネスでどんな「需要創造」ができそうか?

「大人○○」と表現されているこれらのものは、大人たちの好奇心を刺激し、「ついついほしくなってしまう」という共通点がありそうです。同時に、どこか懐かしさもあるため、気がついたら財布の紐も緩んでしまうかもしれません。

今回は「大人」に向けて需要を生み出すお話でしたが、需要創造には色々な可能性が考えられます。皆さんのビジネスでも何かできないか、ぜひ考えてみてくださいね。

最後に、もうお分かりだと思いますが、冒頭のクイズの答えは「大人向けのランドセル」でした。ちなみに、土屋鞄製作所では自社のランドセルを買った子ども向けに、愛用したランドセルをリメイクするサービスを行っています。使わなくなったランドセルから「ペンケース」や「フォトフレーム」「ミニランドセル」などを作ってくれるのだとか。ランドセル自体はなかなか使い回すものではないので、「思い出」を大切にしたすごくいい企画だなあと思いました。

構成:志村 江

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PROFILE
鈴木貴博

東京大学工学部卒業後、ボストン・コンサルティング・グループに入社し、数々の大企業の戦略立案プロジェクトに従事。1999年にはネットイヤーグループの創業に取締役として参加。2003年に独立し、百年コンサルティングを創業する。大手企業の経営コンサルティング経験を元に2013年に出版した『戦略思考トレーニングシリーズ』(日本経済新聞出版社)が累計20万部を超えるベストセラーに。現在はビジネスをエンタメクイズ化する経済エンタテナーとしても活動中。『パネルクイズ アタック25』(優勝)、『カルトQ』などのクイズ番組出演経験も豊富。近著に『戦略思考トレーニング 最強経済クイズ[精選版]』(日本経済新聞出版社)、『日本経済 予言の書 2020年代、不安な未来の読み解き方』『「AI失業」前夜―これから5年、職場で起きること』(ともにPHPビジネス新書)など。

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