起業家、経営者にとって大事なのは、世の中を見抜く力です。1つの事象をどう捉えるかで、ものの見え方も、そこから得られる情報も大きく変わります。そうした「着眼点」、実はトレーニングによって鍛えることができるのです。累計20万部を超えるベストセラーとなった『戦略思考トレーニング』シリーズでおなじみの経営コンサルタント・鈴木貴博氏に解説してもらいましょう。
経営者に必要な「着眼点」の鍛え方 第100回・2℃が肝心
いきなりですが、クイズです!
クイズの答えの中に、着眼点を鍛えるポイントがある
今回取り上げる航空業界は、コロナによって大きな影響を受けた業界の1つです。 昨年には、大幅な減便を余儀なくされたことから「人あまり」状態になってしまい、希望する社員に対してグループ会社への派遣・出向などを行ったというニュースも報じられました。
「やっぱり航空業界は苦しいんだな」と多くの人は感じているはずですが、今回、日本航空が新たに取った一手は、その逆ともいえるものでした。つまり、「厳しいはずなのに、こんな投資をするんだな」と驚かせるものだったわけですが、それは一体どのようなものだったのでしょうか。
それでは解説します!
5月の連休明けに日本航空が発表したのは、中国のLCC(格安航空会社)の日本法人である春秋航空日本の株式を追加出資し、子会社化することでした。
もともと日本航空はLCCとの連携をほとんどしてきておらず、積極的に進めてきた全日空と比べて「出遅れている」と評価する向きがありました。一方で、コロナ禍においてはLCCを抱えている方が経営を圧迫するのではないか、とも言われたりしています。いずれにしても、そんな中での日本航空によるLCC買収のニュースでした。
今、航空会社各社は利用客の激減により資金繰りはものすごく厳しい状況です。それはLCC側も同じでしょう。であれば、どこかに買い取ってもらうのが得策だと考える企業が出てくるのは自然な流れです。
今回のような日本航空の買収の動きは、アフターコロナを見据えた一手で間違いありません。コロナが収束すれば観光需要は戻るだろうと見込み、収益改善策としてLCCの事業に力を入れるための準備を始めたというわけです。
経営が苦しいLCCを、安く手に入れられるときに買収する。これはセオリーに則った判断です。言い方は悪いかもしれませんが、欧米のハゲタカ・ファンドがかっさらっていきそうなところを、日本企業にしては珍しく戦略的に判断し実行した点は、高く評価できると思います。
それ以前に私がこのニュースに着目した理由は、「潮目が変わり始めた」と感じたからです。つまり、ずっと我慢が続いていた業界において、「攻めの経営」に変わっていく転換点となる出来事だと、私はこのニュースから感じたというわけです。
中国の富裕層が高級車を爆買いし始めた!?
5月末の時点ではいくつもの都道府県で緊急事態宣言が出されており、「この第4波はいつまで続くのだろうか」という空気感はまだまだなくなりそうにありません。
しかし、この状況は間もなく大きく変わると思われます。それは「ワクチン」です。
実際に海外ではワクチン接種率が高まるにつれて普通の生活が戻り始めています。過去のこの連載でも紹介していますが、ワクチン接種が進むイスラエルや欧米の国々では海外旅行が解禁されたり、マスクを外しての生活が認められたりするようになっています。
結果として日本はワクチン接種が遅れてしまっていますが、予定通りだと7月には一般の人へのワクチン接種がスタートします。それが実現すれば、冬あたりからグローバルの人の流れが日本においても戻ってくるはずです。当然、インバウンドも急激に回復するでしょう。
すでに中国の富裕層の間では「爆買い」への意欲が回復していて、やたらと高級車が売れ始めたなんて話も出始めています。
こうした流れから考えると、日本のインバウンドはもうすぐ戻ってくるだろうという予測ができ、いろんな意味で日本の経済が元に戻り始める時期に来ていることが分かります。日本航空のニュースは、その兆しを感じさせてくれたわけですね。
経済回復にともなって「攻めの一手」が増えるかもしれない
元に戻り始める「兆し」といっても、まだまだ私たちの生活の中ではそれを実感しにくいですよね。海外の動きに目を向けると分かることはいろいろありますが、国内のニュースでもそうした動きが一部で感じられるようになってきたということです。
今回の日本航空における買収のニュースは、まさに攻めの経営に変わる転換期の一つと捉えることができます。こうしたニュースは今後、他の業界でも出てき始めるでしょうから、ぜひ気にしてみてくださいね。
最後に、もうお分かりだと思いますが、冒頭のクイズの答えは「LCCの買収」でした。今後は業界の枠にとらわれず、「コロナで大打撃を受けた飲食業界や小売業界を、○○大手が救済目的で資本注入」みたいなニュースが増えるかもしれませんね。
構成:志村 江