新卒で入社してから16年間、楽天株式会社に勤めた中西功さん。彼は電子商取引(以下、EC)のコンサルや出店者向けイベントの企画運営として働いてきたが、この夏、吉祥寺のビルを一棟借り切って書店を軸にした複合店舗をオープンする。
インタビューの際、中西さんの口から出た最初の言葉は「こんな生活もあるんですね」だった。「楽天が大好きで、辞めるなんて思っていなかったんですけど」と語る表情は実にさわやか。胸中は新しい環境に接する楽しさと、これから起こることへの期待で満ちているのだろう。
実は中西さんは、会社員時代に複業として無人本屋を経営していた。今回の独立はその延長線上にあるようだ。彼がなぜ本屋を開いたのか? これから何をしようとしているのか? 話を伺ってみた。
中西 功(なかにし こう)
無人古本屋BOOK ROAD店主。1978年11月19日生まれ。立教大学法学部を卒業後、楽天株式会社に入社。ECのコンサルタントやイベントの企画運営に携わる。
2013年4月に東京都武蔵野市に無人古本屋BOOK ROADを開店。6年間特に問題なく運営を続けている。2019年3月に同じ武蔵野市の吉祥寺駅徒歩5分のビルを借り7月のオープン目指して準備中。
「自分で商いをしてみたい」そんな思いで始めた無人本屋
– 中西さんは今年退職して、本屋を開くとお聞きしました。なぜ独立を考えたのでしょうか?
いやー、なんででしょう(笑)。楽天はすごく大好きで、働きやすい会社だったので、辞めようと考えたことがほぼなかったんです。
– 不満からの独立ではなかったんですね。大きな会社ですし、勤続年数も長いので待遇も良かったのでは?
それが特に役職は付いていなくて、自由にやらせてもらっていました。在職中に結婚し、こどもも生まれて、このまま働き続けるのだろうなと考えていましたし。
– 具体的にはどのようなお仕事をされていたんですか?
入社からしばらくはECのコンサルティングをしていました。楽天に出店されている企業の方にお話を聞いてアドバイスをさせていただいて。その後、ECのノウハウを伝える講座づくりや、出店者向けリアルイベントの企画運営をしていました。
思えばそれらの業務が独立のきっかけになったのかもしれません。企業の方々は手を動かし、課題を解決するために実践していました。そんな姿を見て共感が生まれ、「いつか自分で商いがしたい」と思うようになっていました。
– その思いが形になったのが、2013年4月に開業した無人本屋「BOOK ROAD」だったのでしょうか?
引用:https://readyfor.jp/projects/x4
そうです。大学時代から本が好きで、蔵書は1000冊以上。いつかは本屋をやりたいと考えていました。そんな折、商店街を歩いていたら、偶然空き物件を見つけて。問い合わせてみると家賃もそんなに高くない。無人店舗ならサラリーマンと兼業しながらできるかもと思い、開店してみることにしました。
– 以前、お店にお邪魔させてもらいましたが、見事に無人でしたね。壁際の棚に本が並んでいて、お客さんは本の後ろに貼られたシールを見て値段を確認し、店に置かれたガチャガチャにお金を入れて清算していく。出てきたカプセルには持ち帰り用のビニール袋が入っていました。あのアイデアはどのように生まれたのですか?
引用:https://readyfor.jp/projects/x4
田舎で見かける無人の野菜売り場から思いついたんです。あれは善意で成り立っていますよね。きちんとお金を支払ってくれると信じているからできる。
それと、無人にしたのは「全国に本屋を増やしたい」と思っているからです。いまは書店がどんどん潰れています。
でも、本との出合いを求めている人も多いと思うんです。無人本屋が成り立つことを証明できれば、ノウハウをシェアして誰でも本屋を開ける。
ここを起点に全国に本屋が増え、開店した本屋を繋いで「本の道」を作りたい。そんな思いをこめて、店名は「BOOK ROAD」と名付けました。
たとえ本が盗まれても、売り上げが少なくても、ある種の社会実験になればいいんじゃないかと。オープン前はそう考えていましたね。
– 壮大な計画ですね。ちなみに、本はどこから仕入れているのでしょう?
通常の古本屋さんの場合は買取をすると思いますが、ここでは特にしていません。店内に木箱を置いているのですが、お客さんがそこに本を寄贈してくれることが多くて。
そうして頂いた本の中から選書して、お店に並べているんです。お店は現在6年目。取材されることも増え、県外からのお客さんも増えてきました。