稲葉茂文さん(30歳)
VOL.237東京下町の商店街にある古書店
勤めをしないで生きていく方法はないかしらと考えていたわけです。哲学科で2年もダブっていましたし、就職難も重なりました。それで在学中から始めたのが「せどり」です。古本屋に通い、100円均一の棚から掘り出しものを見つけてネットで売っていました。大学卒業後はせどり専業に。JR乗り放題のきっぷを買って、東京中の古本屋を巡るのは楽しかったですよ。でも次第に分かってくるんです。100均の棚にある本はやっぱり理由があって安い。そこばかり狙っていると一流の仕事はできません。東京中を歩き回るのも体力的にきつい。それに結局、いい本を仕入れるにはお客さんから仕入れるのが一番なんです。となるとお店を構えるのがいい。
この物件は、商店街の空き店舗活性化の取り組みの一環で、若い出店者を募集していたものです。ネット通販もやっているから売り上げの最低保証があります、客が入らなくても逃げません!と訴えて面接に通りました(笑)。初期の棚に並べたのはせどり時代に買い集めた本とかわいい自分の蔵書。それでも半分しか棚が埋まらず焦りましたけどね。接客も初めて。でも僕が好きな落語に出てくる商人をまねして「ありがとう存じます」とやっているうちに慣れてきました。本が好きでやっている仕事。待っていても次々新しい本が来るというのはいいものです。
撮影/刑部友康、片桐 圭、阪巻正志
アントレ2019.春号 「金も人脈も経験もなかった『まるごし企業 7人の勝ち方』」
より