中野章三さん(81歳)
啓介さんの急逝後も現役続行。17年にはデビュー70周年記念公演も。
近年は後進の指導や一般社団法人中野ブラザーズタップダンス連盟とともに「座タップダンス健康法」の普及に努める。
VOL.205デビュー70周年公演も大成功。現役最高齢のタップダンサー
習うだけ、まねるだけじゃダメ。
自分のステップを作らなきゃ
大衆芸能の家に生まれて、3歳で初舞台を踏みました。10歳の時に兄貴と2人、フレッド・アステアの映画を見たら「もう1回、もう1回」でとうとう6回も見ちゃった。帰り道にはもうステップを踏んでました。僕、ものを見て覚えて、自分で作るという才能はあるみたいです。今も生徒にいうんですよ。習うだけ、教わるだけじゃだめ。そのあと、自分の踊りを作らなくちゃ身にならないって。いい、悪いは別にしてね。
その兄貴と「中野ブラザーズ」を名乗って上京してから、もう70年。なんでこんなに長く踊ってるのって、これはもう仕方ないんですよ。僕にとって踊ることは生きること。踊らなくていいといわれたら、1日たりとも生きていられません。スタジオ経営がうまくいかなくて40代で借金を抱えたこともありますけど、踊ってるうちになくなりましたねぇ。何もしてなくても足だけは勝手に動く。そのせいかずっと健康。最近は「座タップダンス健康法」といって、座って踊れる健康法を考案したんですよ。皆さんもぜひどうぞ。
何しろ踊るのは楽しい。楽しいから踊りたい。舞台に出たくないということは1回もなかったですね。兄貴とケンカしたって1曲うまく踊れたらもう仲直り。そう、1人だったら絶対続けられなかったと思います。僕が嫌なことは兄貴が引き受けてくれたし、兄貴が嫌なことは僕が引き受けた。苦しいことは何でも1/2。出演料も半分なのは損だけどね(笑)。
若い頃の踊りと、81歳になった今の踊り、同じというわけにはいきません。でも若い頃のビデオを見ると「味がない」ですね。ただガムシャラで、トンボ返りなんかしちゃって。今では、お客さんに「味がある」といってもらえます。こどものころ見たアステアは「踊ってますよ」という踊りじゃなかった、ちょっとした動き、ちょっとしたポーズがもう絵になるんだ。追いついたとは思いませんけど、まあ少しはね。引退は考えませんが、踊れなくなったら仕方がない。死んだって棺桶の中から叩いてやるつもりです。「どうもリズムがいい棺桶だな」なんてさ。
撮影/刑部友康、阪巻正志
アントレ2018.春号 「平均年齢81歳、『働く』を楽しむ 稼ぐ! 老後天国」より