昨今、働き方改革によって、さまざまなライフスタイルに合わせた多様な働き方が注目を集めています。
「もっと自由な時間を!」「組織に縛られない仕事をしたい!」というライフスタイルが望まれている中、月に10日~12日勤務という特殊な勤務形態ができるタクシー運転手がにわかに注目さています。
個人タクシーの運転手となると、〝好きな日の好きな時間に仕事ができる“という点に惹かれる方も多いようです。
個人タクシーの運転手になるには何が必要なのか、また稼げる仕事なのかを探ってみましょう。
また、脱サラ後に目指す選択肢として、一人でビジネスの開業をするという方法もあります。
ビジネスアイディアが浮かばないという方は、リスクや初期投資の低いフランチャイズでの経営からスタートするというのもおすすめの方法です。失敗しないためのフランチャイズ経営の方法について実際の事例をもとにこちらの資料にまとめているので、脱サラをしたいと思っている方は一度目を通しておくと参考になるでしょう!
タクシー業界が抱える運転手の高齢化問題
タクシー業界でも運転手の高齢化が進み、近年は70代以上の運転手が約3割を占めています(2022年3月)。これは、新卒者がタクシー運転手になる割合が低く、中高年の他業種からの転職組が多いことが原因の1つです。
また、新型コロナの影響によりリモートワークが普及したり外出を控えるようになったりしたことで、タクシー利用者が激減しました。そのため、多くのタクシー運転手や会社そのものが引退・撤退してしまいました。
タクシー業界は慢性的な人不足状態に陥っていますが、これはタクシー運転手を目指す人にとっては、またとない絶好の機会といえます。コロナ禍を経て、再びビジネスや旅行などで人々が積極的に活動するようになった今、タクシー運転手は都市部でも、地方の観光地でも引く手あまたになっているのです。さらには、社会の高齢化が進むにつれ、危険な自動車事故や、免許返納による交通弱者が問題になっています。タクシーはこれらの解決策の1つであり、その需要は、今後ますます高まっていくでしょう。
そして、タクシー業界にとっての IT革命といっていい「配車アプリ」の登場は、タクシーに乗りたい利用者と運転手とを迅速に結びつけてくれるようになりました。利用者にとっては順番待ちの時間や支払いの手間が省け、タクシー運転手にとっては、効率よく収入を得られるだけでなく、ガソリン代や心身にかかる疲労の削減になっています。
脱サラ後に個人タクシーの運転手になるには、どうすればいい?
残念ながら脱サラ後に、個人タクシーの運転手になろうと思ってもすぐにはなれません。
何より、まず第二種運転免許、すなわち公道でお客さんを運送するための免許を取得しなければなりません。この資格は、バス・タクシーなどだけでなく、運転代行業についても必要です。
さらに、個人タクシーの運転手になるためには、第二種運転免許取得のほかにも、さまざまな条件があります。
法人で10年以上経験を積まないと、個人タクシーの運転手にはなれない
第二種種運転免許を取得したからといって、すぐ個人タクシーの運転手になることはできません。
具体的には、個人タクシーの運転手になるには、年齢によって異なる部分もありますが、下記の条件を満たしている必要があります。
1.申請日現在の年齢が65歳未満であること
2.タクシー・ハイヤー事業に運転手として法人雇用期間が10年以上あること(年齢により緩和されることもある)
3.申請日以前に3年間無事故無違反であること
4.200万円以上の資金を準備できること。
つまり、10年以上タクシー運転手としてタクシー会社に勤めて、そこで経験を積み、安全運転など諸条件を満たして初めて個人タクシー運転手として独立する資格が得られるのです。
この4つの条件を達成することは、決して楽な道のりではありません。しかし、人の命を預かる仕事だと考えると、当然のことともいえるでしょう。
条件を満たしたうえで、初めて開業許可を取得するための個人タクシー試験の受験資格ことができます。
試験は国土交通省の各地の運輸局が年3回行い、法令と地理の2分野から出題されます。
「個人タクシー試験講習会」((日個連)個人タクシー 第一事業団協同組合)
個人タクシーの開業に必要な資金
先に挙げた、4つ目の条件でもありますが、個人タクシーを開業するには、大まかに見積もって最低でも約200万円程度の開業資金が必要です。
【開業にあたり必要な資金例】
・設備資金
・運転資金
・自動車車庫に要する資金
・自賠責保険・任意保険料 など
営業区域にも縛りがあるので要注意
法人であっても個人タクシー運転手であっても、好き勝手な場所で営業することはできません。タクシー業は、運輸局によって決められた営業区域内での営業が原則となります。
【タクシーの営業区域】
法人:会社の所在地
個人:居住地のあるところ
例えば東京であれば、営業区域は下記の3つに分けられています。
1.特別区・武三交通圏
東京都特別区、武蔵野市および三鷹市
2.北多摩交通圏
東京都立川市、府中市、国立市、調布市、狛江市、小金井市、国分寺市、小平市、西東京市、昭島市、武蔵村山市、東大和市、東村山市、清瀬市および東久留米市
3.南多摩交通圏
東京都八王子市、日野市、多摩市、稲城市および町田市
個人タクシーの場合、居住地=自分の住んでいるところで営業区域が判断されるため、タクシーの需要が多い23区内で営業したい場合には、23区内・武蔵野市・三鷹市のいずれかに自宅と車庫がある必要があります。例えば、立川市に住んでいる個人タクシーの事業主は、23区内で営業ができないのです(2023年12月時点)。
このように、個人のタクシーの運転手として生計を立てるには、営業区域や居住地のことも考慮に入れる必要があります。
個人タクシーを開業するにあたっては、上記のような検討すべき事項や、用意する書類・手続きがさまざまあります。
これらについては、各地域の個人タクシー協同組合、専門の行政書士、個人タクシーの先輩運転手に相談・アドバイスをもらうとよいでしょう。
個人タクシーと法人タクシーの運転手の違い
個人タクシーの運転手になるにはさまざまな条件を満たす必要があることを説明してきましたが、もちろん法人タクシー運転手として働く道もあります。
どちらもタクシーの運転手であることには変わりありませんが、個人タクシーと法人タクシーの運転手にはどのような違いがあるのでしょうか。それぞれがどのようなものなのか解説していきます。
法人タクシーの運転手とは
法人タクシーとは、タクシー運転手の中でも会社に所属し、会社員として働く人を指します。
法人タクシーの運転手になるために必要な資格は「第二種運転免許のみ」ですが、タクシー会社の中には、昨今の人材不足から、未経験者を募集し、第二種運転免許の取得費用を負担してくれるケースもあります。普通自動車免許とやる気さえ持っていれば、誰でも働ける職種といえます。
法人タクシーの給料は歩合制で、営業収入の約40%~50%が収入として得られます。
個人タクシーの運転手とは
法人タクシーの運転手に対して、個人タクシーの運転手は、名前の通り会社に所属せずに個人で事業を運営しているタクシー運転手を指します。このような説明を聞くと、個人タクシーの運転手を単なる〝自営業“だと思ってしまう方も少なくはないでしょう。
しかし、個人タクシーは誰でもなれるものではなく、上でも述べた通り、法人で自動車を運転する仕事を10年以上経験していたり、3年間無事故無違反であったりと、いくつかの厳しい条件をクリアした人しか許可されない狭き門なのです。
ただし、自営業なので、売り上げはすべて自分の収入になります。そのため、長年、法人タクシーで運転手をしていた方が収入アップを目指して個人タクシーの運転手に転身するケースも少なくありません。
脱サラして個人タクシー運転手として働くメリット4選
脱サラをして個人タクシーの運転手になる人の中には、さまざまな想いや希望を抱えて転身する人が多いでしょう。個人タクシーの運転手になりたいと思うのには、どのようなメリットがあるからなのでしょうか。個人タクシーの運転手として働く主なメリットは以下の4つです。
1. すべての売り上げが自分の収入になる
2. 自由な働き方を実現できる
3. 好きな車両で仕事ができる
4. 定年退職までが長い
以上の4つのメリットについて、詳しく解説していきます。
1. すべての売り上げが自分の収入になる
個人タクシーの運転手として働く最大のメリットは、なんといっても売り上げがすべて自分の収入になる点です。
ただし、個人タクシーの運転手は自分で車両の購入や点検・整備、ガソリン代などの維持費を払う必要があります。しかし、歩合制の法人タクシーの運転手に比べると、手取りから差し引かれる額は少なく、より大きく稼ぎやすいといえるでしょう。
もちろん、仕事ができないと法人よりも給料は低くなってしまいますが、同じだけの時間きちんと働いてお客さんを獲得することができれば、収入はアップするでしょう。
2. 自由な働き方を実現できる
個人で運営する個人タクシー運転手は、シフトや働く時間を自由に決められます。法人タクシーも歩合制のため自由度が高いイメージを持っている方もいるかもしれません。しかし、あくまで会社員であるため、働く日や時間は決められています。たくさん働きたい!と思っていても、厚生労働省により勤務体系が定められています(2024年4月1日より)。
【日勤の場合】
・1月あたり288時間、1日の拘束時間(労働時間+休憩時間)は原則として11時間以内(延長する場合でも最大15時間)
・休息期間(次の勤務までのプライベートな時間)は継続11時間(9時間を下回らないこと)
【隔日勤務の場合】
・1月あたり262時間(最大270時間、ただし年6回まで)
・休息期間(次の勤務までの時間)は継続24時間(22時間を下回らないこと)
これらは、運転手の勤務見直しにより、それまでのものより1日の拘束時間が2時間短くなっています。
タクシーは出来高制、つまりどれだけお客さんを乗せて走ったかで収入が決まるので、運転手には収入の減少、会社にとっては新たな運転手の確保が問題となっており、いわゆる「2024年問題」と呼ばれています。
タクシー運転手として、これらの問題を解決するには、配車アプリの利用や、営業区域内での稼げるエリア・稼げる時間帯を把握し効率よくお客さんを獲得することが挙げられます。
その反面、個人タクシーは縛りがないため、自分の好きな分だけ働いて稼ぐことが可能です。それ以外にも、大雪・台風などの厳しい天候のおそれがあれば休業することを選べます。時間を自由に使えるためプライベートの時間も作りやすく、今後タクシー運転手として働こうと思っている方であれば、思い切って個人タクシー運転手を最終目標としてみるのもよいかもしれません。
※リンクの遷移先はPDFファイルです。ダウンロードに大量の通信費がかかる可能性があります。
3. 好きな車両で仕事ができる
平成27年までは道路運送車両の保安基準により車両(車種)の規制がありましたが、現在は廃止されました。そのため、個人タクシー運転手の場合、自分の好きな車両で仕事ができるというのが3つ目のメリットとしてあります。
特に車が好きな方だと、自分の好きな車で仕事ができるのは大きなモチベーションにもつながるのではないでしょうか。
4. 定年退職までが長い
個人タクシーの運転手は定年退職までが長く、より長期間働き続けられるというメリットがあります。法人タクシーの運転手はあくまで会社員です。そのため、60歳や65歳で定年退職を迎えて離職しなくてはいけません。その反面、個人タクシーの定年退職は75歳で、最大15年も長く現役でい続けられるのです。
近年「人生100年時代」といわれるほど平均寿命が伸びたり、年金の受給年齢が引き上げられたりといった社会的背景があり、長く働きたいという人は増加傾向にあります。個人タクシーの運転手になれば高齢でも働けるため、多少なりともお金の不安が解消されるでしょう。
脱サラして個人タクシー運転手として働くデメリット2選
個人タクシーの運転手にはさまざまメリットがあり、脱サラをして自分も個人タクシーの運転手になりたい!と思った方もいるのではないでしょうか。しかし、何事にもメリットがあればデメリットもあります。個人タクシーの運転手として働くデメリットには、どのようなものがあるのでしょうか。主なデメリットは以下の2つです。
1. ガソリン代や車両整備などの維持費は全額自己負担
2. 自分が働かないと収入が得られない
それぞれのデメリットについて、詳しく解説していきます。
1. ガソリン代や車両整備の維持費は全額自己負担
個人タクシーの運転手になる1つ目のデメリットは、当然ではありますが、ガソリン代や車両整備の維持費が全額自己負担である点です。個人タクシーの運転手は自営業です。そのため、ガソリン代、車両メンテナンス代、車検代などの維持費用は全額自己負担となります。
特に個人タクシーの場合、 車検は年に1回、定期点検は3か月に1回義務付けられています。当然そのあいだは自分の車が使えないので、代車を用意する必要があります。
個人タクシー運転手として開業を目指したいのであれば、ある程度の資金がないと難しいのが現実です。
法人タクシーの運転手の場合、このような維持費用はすべて会社が負担してくれます。そのため、自分で車両点検のスケジュールを把握したり費用を捻出したりする必要がなく、運転に集中でき、精神的な負荷が少ないと思う方もいるでしょう。
しかし、個人タクシーは自営業であるが故に売り上げが全額収入になります。そのため、維持費などを差し引いてもトータルで計算すれば残るお金は法人タクシーの運転手よりも多いでしょう。
2. 自分が働かないと収入が得られない
個人タクシー運転手は、売り上げが全額自分の収入になるメリットがある反面、働かなければ収入は得られないことを意味します。万が一、体調不良や事故などでケガをしてしまい働けない期間があると、収入はゼロになってしまいます。万が一にそなえ、日ごろから貯えも、しっかり用意しておきましょう。
もちろん、運転業務以外にも、日々の経理や事務、車両の清掃・点検などを怠ってはいけません。
法人タクシー運転手の場合は基本給が保証されています。そのほかにも労働者である以上、有給休暇や社会保険もあるため、どちらの働き方が自分にとってよいのか考えてみてください。
個人タクシーの運転手は副業にできる?
以上のように厳しい条件をクリアして無事、個人タクシーの運転手になれれば、業務形態は自由です。
もちろんタクシー運転手を本業とし、ほかの仕事をしながら副業でタクシー運転手をすることだってできます。
法人タクシーの運転手の方にも、隔日勤務で、週の半分を運転手として働き、もう半分を別の仕事に充てているという方もいるようです。
人それぞれの働き方が当たり前になりつつある世の中、好きな日に好きな時間に、空いた時間に、いつでもできる個人タクシー運転手の仕事は、副業にもできるでしょう。
個人タクシーの運転手の確定申告について
多くの個人タクシー運転手は、個人タクシーの組合に加入しています。
個人タクシー協会に加入していれば、煩雑な事務的仕事の助言などを求めることができます。
もちろん確定申告も組合専属の税理士や会計士が処理にあたってくれます。
個人で営業するに当たってほかにもいろいろとメリットがあるため、個人タクシー運転手のほとんどが加入しています。
タクシー運転手はやりがいのある仕事
タクシー運転手は、一期一会の世界。
孤独な仕事と思われがちなタクシー運転手ですが、誰よりも多くの人と接することができるサービス業です。
ただ、人を場所だけに届けるのではなく、乗客の心もいろいろなところに届けているのかもしれません。
そんな思いで仕事をすると、タクシー運転手という仕事の幅がもっと増えるのではないでしょうか。
<文/ちはる>