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経営者に必要な「着眼点」の鍛え方 第152回・SDGsで水素が注目される理由

経営者に必要な「着眼点」の鍛え方 第152回・SDGsで水素が注目される理由

起業家、経営者にとって大事なのは、世の中を見抜く力です。1つの事象をどう捉えるかで、ものの見え方も、そこから得られる情報も大きく変わります。そうした「着眼点」、実はトレーニングによって鍛えることができるのです。累計20万部を超えるベストセラーとなった『戦略思考トレーニング』シリーズでおなじみの経営コンサルタント・鈴木貴博氏に解説してもらいましょう。

いきなりですが、クイズです!

SDGsを実現するためのエネルギーとして「水素」に注目が集まっています。水素は水からつくることができるため無尽蔵で、しかも炭素を排出しないことから、クリーンなエネルギーであるとよくいわれています。でも冷静に考えると、水素をつくるためには電気分解しないといけないため、電気が必要であり、なんだか不思議な話のような気もしてきます。そこでクイズです。SDGsの文脈の中では、水素は何の代わりとして使われることを期待されているのでしょうか?

クイズの答えの中に、着眼点を鍛えるポイントがある

「究極の未来エネルギー」などともいわれ、水素に注目が集まっています。SDGsの文脈の中でも、当然、水素への期待は高くなっており、そこにビジネスチャンスを見出せそうな雰囲気があります。

水素は大きく2つに分けられます。再生エネルギーを使って作ったグリーン水素と、天然ガスや石炭などの化石燃料から作ったグレー水素です。

実は日本の水素の大半が、グレー水素だといわれています。

それでは解説します!

日本が脱炭素社会に向かうためには、主流となっているグレー水素がグリーン水素にならないといけません。つまり、太陽光発電や風力発電などの自然エネルギーを使って水素を作らなくてはいけませんよね。

ここまでの話で考えたら、水素というものは発電するための代替物ではないことがわかります。つまり、火力だろうと風力だろうと、何かしらの電気を作ってから水素ができるので、電気の代わりにはなり得ないのです。

もう1つ、水素で注目されるものがあります。よくテレビなどのニュースで見かける水素運搬船です。この水素運搬船の意味を考えることが、このクイズの答えを見つける大きなヒントになります。

さて、その水素運搬船が注目されているのはどういうことかというと、日本は水素を輸入することになるわけですね。何を輸入するのかをもう少し冷静に分析すると、他の国で再生可能エネルギーで作った水素を輸入する、ということになります。

輸入先として有望視されているオーストラリアとインドネシアは、日本よりも土地が広く、日差しも強いことから、大量の太陽光発電が可能です。国内だけでは使い切れない分をどうしようかとなった時に、送電線で遠くまで送ろうとすると減退してしまう。だったらその電気でグリーン水素を作り、液化して日本に運搬する……というわけですね。

何をいっているのかというと、グリーンエネルギーの時代においては、水素は「電池」と同じ役割になるのです。太陽光発電などの再生可能エネルギーで作られた大量の電気を運ぶには、水素にして運搬する方が効率がいいかもしれない、ということで水素が注目されているのです。

水素の流通や利活用は日本の技術が世界の中心になる!?

日本でグリーンエネルギーを突き詰めていくときにいつも問題となるのが、「日本は資源が足りなさすぎる」ということです。国土の面積が小さいため、太陽光パネルを設置する場所が足りない。それに、それほど日差しも強くない。

だから原子力に頼らないとエネルギーが足りなくなるという議論になるのですが、そこにはいろいろと社会の抵抗がある。そうなると、もう1つの解決策が、太陽光発電で作った電気を海外から輸入することとなるわけで、そこを水素が担っていけると、SDGsの実現が近づくということです。

1つ、ボトルネック要因を挙げておくと、水素というものは融点が非常に低く、マイナス253℃まで冷やさないと液体にはなりません。液化技術が非常に難しいうえに、液体のまま輸送するのもものすごく大変だそうです。

ただ、日本は世界の国々に比べて水素にまつわる特許をたくさん持っています。水素の輸送や利活用のところにおいては、日本はものすごくたくさんの技術を持っていることから、未来の水素の流通は日本が主力として活躍できる分野になるかもしれませんね。

今のところ、水素を使った電池として実用化が近いといわれるのが、自動車に搭載されている燃料電池です。日本に運ばれてきた水素を電池に変えていくには、まだまだコストの壁をぶち破らないといけませんが、今後は水素発電というものが少しずつ増えていくのでしょうね。

水素を取り巻く状況をしっかりチェックしておこう

SDGsの周辺にはたくさんのビジネスチャンスがあります。特に未来のエネルギーといわれる水素は、脱炭素社会の実現に向けては1つの重要なキーワードになり得るため、アンテナはしっかり張っておいた方がいいでしょう。

ただし、これをいうと身もふたもないかもしれませんが、水素はもう少し未来のビジネスチャンスだと思った方がいいのかもしれません。大企業が持つ特許や技術力を活用して、これからいろいろなことが少しずつ実用化していくと考えられるからです。しばらくは状況を見ながら情報収集を進めていくのがいいと思います。

1つ言えるのは、水素を取り巻く状況は、今後間違いなく加速するということです。しっかりと目を向けておき、情報収集し続けておくことが、広く未来を読む力を養うことにもつながるのではないでしょうか。

最後に、もうお分かりだと思いますが、冒頭のクイズの答えは「電池」でした。最近は「水素を燃料として使うことがクリーンである」という間違ったニュースが多いことから、整理する意味でこのテーマを取り上げてみました。今回は苦手な人にはちょっと難しい話だったかもしれませんが、たまには…ということで。


PROFILE
プロフィール写真

経営戦略コンサルタント
百年コンサルティング株式会社
代表取締役
鈴木貴博

東京大学工学部卒業後、ボストン・コンサルティング・グループに入社し、数々の大企業の戦略立案プロジェクトに従事。1999年にはネットイヤーグループの創業に取締役として参加。2003年に独立し、百年コンサルティングを創業する。大手企業の経営コンサルティング経験を元に2013年に出版した『戦略思考トレーニングシリーズ』(日本経済新聞出版社)が累計20万部を超えるベストセラーに。現在はビジネスをエンタメクイズ化する経済エンタテナーとしても活動中。『パネルクイズ アタック25』(優勝)、『カルトQ』などのクイズ番組出演経験も豊富。近著に『戦略思考トレーニング 最強経済クイズ[精選版]』(日本経済新聞出版社)、『日本経済 予言の書 2020年代、不安な未来の読み解き方』『「AI失業」前夜―これから5年、職場で起きること』(ともにPHPビジネス新書)など。

構成:志村 江

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