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経営者に必要な「着眼点」の鍛え方 第138回・新しい接客のカタチ

経営者に必要な「着眼点」の鍛え方 第138回・新しい接客のカタチ

起業家、経営者にとって大事なのは、世の中を見抜く力です。1つの事象をどう捉えるかで、ものの見え方も、そこから得られる情報も大きく変わります。そうした「着眼点」、実はトレーニングによって鍛えることができるのです。累計20万部を超えるベストセラーとなった『戦略思考トレーニング』シリーズでおなじみの経営コンサルタント・鈴木貴博氏に解説してもらいましょう。

いきなりですが、クイズです!

コンビニエンスストア「ローソン」の実験店舗「green Lawson(グリーンローソン)」が話題です。食品ロスやプラスチックの消費を減らすなど、「地球に優しいお店」を目指しており、2022年11月に都内にオープンしました。そのグリーンローソンの取り組みで、「アバター店員」という面白いものがあります。店内に設置されているタブレットから、アバターの店員が商品について説明するというもので、新しい接客の形として注目が集まりそうです。このアバター店員について実はもう1つ、ローソンがアピールしていることがあるのですが、さてそれは一体何でしょうか?

クイズの答えの中に、着眼点を鍛えるポイントがある

ローソンが都内に「グリーンローソン」という実験店舗をオープンしました。

食品ロスやプラスチックの消費を減らすなど、「地球がいつまでも続くためにできることを考えていくお店」というコンセプトだそうで、地球に優しい取り組みがいろいろと盛り込まれています。

例えば、冷蔵・冷凍ケースにCO2排出削減のために扉を設置したり、ペットボトルのキャップから作られた買い物カゴを使用したり、店頭の看板も再生プラスチックが約80%使われているのだとか。

品揃えは基本的に普通のローソンと同じだそうですが、食品ロスを減らすために工場で作って陳列するお弁当を扱わず、お店で調理したり、冷凍弁当を解凍して提供したりしています。

まさにSDGsの理念にも沿った面白いお店ですよね。

それでは解説します!

そうした地球に優しい取り組みとは別に、面白い接客のカタチとして「アバター店員」というものが導入されています。

店内にコールセンターとつながったタブレットが設置されていて、画面上でアニメーションで作られた店員のアバターがいろいろと接客をしてくれるのです。

例えば新しいスイーツを発売した時に、手にとって迷っているお客さんがいたら「ちょっといいですか」という感じでアバター店員が商品の説明をしたりするわけですね。また、お客側からの質問に対しても受け答えします。

もともとコンビニエンスストアという業態では、個別対応の接客は難しいと思われていましたが、これなら可能です。しかも、他の小売店でも容易に展開できそうですから、まさに新しい接客のカタチといえるかもしれません。

このアバター店員は、接客の新しいスタイルを示しただけでなく、実はもう1つ重要なポイントがあると思っています。

それは、「雇用機会の多様性」を実現できることです。

「DXによる働き方改革」の新しい可能性

アバター店員の裏側を考えると、対応する店員役の人はお店に常駐する必要はありません。接客できそうな人が来た時だけ画面を通じて対応すればいいため、いくつものタブレットや店舗を同時に担当することも可能です。

そうなると、いろいろな事情で働けなかった人たちが、その役目を担うことが可能となります。例えば障害者の方や、在宅介護や育児で仕事ができない人などの新たな雇用の受け皿になり得るのです。実際にローソンも、介護などで仕事ができない人を積極的に採用していく考えなのだとか。

商品知識は研修などで事前に学べばいいわけですし、働く場所は自宅など場所を選ばないため、まさにいろんな人に働く機会を提供できます。これまでは働きたくても働けなかった人たちが、働けるようになるかもしれません。

そしてこの優しさは、グリーンローソンのテーマである「サステナブル」にもつながってくる…というわけですね。

アバター店員を一言で表現すると、「DXによる働き方改革」でしょう。ただ、DXの恩恵が語られる場合、これまでは「生産性をどう上げていくか」に目が向きがちでした。

しかし、働き方改革においては「雇用機会を多様化させていくこと」も大事になってきます。このグリーンローソンの取り組みは、まさにDXでそれを実現した事例であり、その意味でも、非常に大きな可能性があることを示した意義のある取り組みではないかと私は考えています。

技術を活用することで人材採用のチャンスを広げる

実は障害者は、雇用市場ではある側面に限っていえば引く手数多だといわれます。障害者が地域の一員として共に生活できる「共存社会」を実現する理念のもと、民間企業では障害者の雇用義務が法律で定められているからです。障害者雇用の法定雇用率は、平成30年までに0.2%、その2年後にはさらに0.1%引き上げられ、大企業になればなるほど障害者の雇用人数が多くなります。障害者雇用はこのような側面からもニーズがあると考えられるのです。

ただ、いいことばかりではなく、これまでは企業の側からも障害者の側からもどうしても仕事を見つけることができなかった人たちが存在していたのは事実です。そういう人たちにもスポットを当てられる可能性があるわけですから、今回紹介した取り組みは、いろんな可能性を含んでいますよね。

最近は、「人が採用できない」と困っている経営者がすごく多いです。そういう時は、技術を活用して戦力を増やすのは理にかなっています。せっかくローソンがこのような新しいことを始めたのですから、皆さんの会社でも何かできないかを一度考えてみてもいいかもしれませんね。

最後に、もうお分かりだと思いますが、冒頭のクイズの答えは「雇用機会の多様性を実現できる」でした。2022年12月時点で、まだ店舗は都内に1つだけですが、今後どのように展開するのか引き続き注目したいと思います。


PROFILE
プロフィール写真

経営戦略コンサルタント
百年コンサルティング株式会社
代表取締役
鈴木貴博

東京大学工学部卒業後、ボストン・コンサルティング・グループに入社し、数々の大企業の戦略立案プロジェクトに従事。1999年にはネットイヤーグループの創業に取締役として参加。2003年に独立し、百年コンサルティングを創業する。大手企業の経営コンサルティング経験を元に2013年に出版した『戦略思考トレーニングシリーズ』(日本経済新聞出版社)が累計20万部を超えるベストセラーに。現在はビジネスをエンタメクイズ化する経済エンタテナーとしても活動中。『パネルクイズ アタック25』(優勝)、『カルトQ』などのクイズ番組出演経験も豊富。近著に『戦略思考トレーニング 最強経済クイズ[精選版]』(日本経済新聞出版社)、『日本経済 予言の書 2020年代、不安な未来の読み解き方』『「AI失業」前夜―これから5年、職場で起きること』(ともにPHPビジネス新書)など。

構成:志村 江

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