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経営者に必要な「着眼点」の鍛え方 第119回・タクシー禁止令

経営者に必要な「着眼点」の鍛え方 第119回・タクシー禁止令

起業家、経営者にとって大事なのは、世の中を見抜く力です。1つの事象をどう捉えるかで、ものの見え方も、そこから得られる情報も大きく変わります。そうした「着眼点」、実はトレーニングによって鍛えることができるのです。累計20万部を超えるベストセラーとなった『戦略思考トレーニング』シリーズでおなじみの経営コンサルタント・鈴木貴博氏に解説してもらいましょう。

いきなりですが、クイズです!

今回は私自身がコンサルティング業界でずっと働いてきて、感じている変化についてのクイズです。コンサルタントは時間に対して意識が高い人が多く、隙間時間も効率的に仕事をしようと考えて、やたらとタクシーで移動する人がたくさんいます。しかし、私はこの習慣はもう時代遅れではないかと考えています。それはあることが時代の変化とともに変わったからなのですが、さてその私の考えの根拠にある「変化」とは、どういったことだと思いますか?

クイズの答えの中に、着眼点を鍛えるポイントがある

今回は「ずっと当たり前だったこと」が「時代が変わる中で当たり前ではなくなっていく」という話をしたいと思います。

私自身はずっとコンサルティング業界で仕事をしていますが、コンサルタントの中には「移動でタクシーを使わないなんてありえない」という人がすごくたくさんいます。

それは、ちょっとの隙間時間でも効率よく仕事をしたいからなのですが、私はこの業界の常識に非常に疑問を感じ始めています。

もし私が大きなコンサルティング会社の経営者なら、タクシーでの移動を禁止にしてもいいと思っているほどなのですが、コンサルタントとして働くならなおさら、今の時代には合わないことだと考えています。

コンサルタントの仕事を理解していないとちょっと難しい問題かもしれませんが、「タクシーの中で仕事をする」という観点から、いろいろと想像を巡らせてみてください。

それでは解説します!

さて、コンサルタントの多くがタクシーをよく使うのには理由がありました。それはコンサルタントの仕事内容に大きく関係します。

その1つが「電話」です。移動する隙間時間を使って、お客さんに電話をかけまくるのです。それは、メールで届いた問い合わせについての進捗を伝えるものだったり、客先での打ち合わせ内容をもとに何か指示を出したりするような連絡です。

しかし、この20年くらいで「相手にいきなり電話をかけること」への考え方が変わってきました。もちろん連絡手段として電話は欠かせないものですが、「相手の時間を奪うことになるのでいきなり電話をするのは失礼だ」という風潮になってきていますよね。私は、これは“謎マナー”だと思うのですが、いきなり電話をしないという人が増えているのは事実でしょう。

あとは、コンプライアンスの考え方も変わってきています。タクシーは密室ではありますが、運転手に話を聞かれます。昔はそれもしょうがないことと片付けていましたが、今ではそれは良くないと考えられています。

つまり、時代の変化として、タクシーの中で電話をかける仕事が激減しているわけです。

では、働き方はどう変化しているのか。これはどの仕事に従事する人でも同じだろうと思いますが、スマホを使って仕事をしているわけです。スマホでメールを打ち、スマホで情報収集し、スマホ内でいろいろなタスクを処理していきます。

つまり、スマホで仕事をするのにわざわざタクシーに乗る必要があるのか?というのが、私がタクシー禁止でもいいと考えている根拠なのです。

確かに「タイムイズマネー」という考え方は理解できます。タクシーを使えば早く移動できる場合も多いからです。しかし、早く着いて何をするかといえば、次のアポイントまで喫茶店などに入って時間を潰すわけです。それなら、次の予定に合わせて時間通りに到着するよう電車で向かう方がよっぽど効率的です。電車内でスマホを使ってタスクを処理すればいいわけですし、パソコンを使って仕事をする場合でも、「揺れ」の観点から電車の中の方がよっぽど仕事はしやすいはずです。

SDGsの観点からも変えられるオフィス環境がある

この話は、実はすごく本質的な話だと思っています。つまり「昔の当たり前が、今も変わらず当たり前か?」という話は、意外と身の回りにたくさんあるからです。

例えば、事務所には当たり前に入れることが多い「固定電話」や「FAX」は、携帯電話や便利な複合機が普及している今、本当に必要でしょうか。

ハガキで年賀状を毎年出しているとしたら、それは本当に役に立っているのでしょうか?

ペーパーレスが進んでいる会社を見ると、パソコンモニターが増えている傾向があると感じます。手元で紙を確認する作業を、デュアルモニターでの仕事に置き換えていることが多いからだと思うのですが、モニターの値段が下がっている今、そういう方が地球に優しい働き方かもしれません。

地球に優しいといえば、オフィスでは速く大量に刷れるレーザープリンターが当たり前でしたが、最近はメーカーや機種によってはインクジェットプリンターの方が速くて安い場合もあります。レーザープリンターは維持費がかかり、印刷時に熱が多く排出されることから地球には優しくないわけで、SDGsの観点からも、当たり前は変わってきているのかもしれません。

また、やるかやらないかは別にして、20ギガなどの大容量のスマホプランが出てきていることを考えると、事務所にインターネット回線を引かなくても仕事はできるような気もしています。

オフィス内で普通に事務作業をしているだけだと、一人あたり1カ月に10ギガもあれば十分足りるといわれます。セキュリティの問題などもあるので、スマホのテザリングで全て済ませることに抵抗がある場合もあるでしょう。ただ、可能性としては、事務所全体でインターネット回線は引かず、スマホの支給や契約プランの変更だけで成立させることは十分にできる時代になっているわけですね。

時代の変化に目を向けるきっかけにもなる

こうして挙げた以外にも、身の回りには「今の常識に照らし合わせたら置き換えられそうな無駄なもの」は意外にたくさんあると思います。

ものの見方を少し変えることと、時代の変化に目を向けることの両方が鍛えられるトレーニングになりますので、ぜひ皆さんも自分の周りを見渡してみてくださいね。

最後に、もうお分かりだと思いますが、冒頭のクイズの答えは「電話をかける仕事が減ったから」でした。今回の話でつくづく思うのは、最近の我々の行動は「全てがスマホに集約される」ということです。スマホがいかに人々の行動を変え、習慣までも変えたのか、あらためてすごい発明だったのだと痛感しています。


PROFILE
プロフィール写真

経営戦略コンサルタント
百年コンサルティング株式会社
代表取締役
鈴木貴博

東京大学工学部卒業後、ボストン・コンサルティング・グループに入社し、数々の大企業の戦略立案プロジェクトに従事。1999年にはネットイヤーグループの創業に取締役として参加。2003年に独立し、百年コンサルティングを創業する。大手企業の経営コンサルティング経験を元に2013年に出版した『戦略思考トレーニングシリーズ』(日本経済新聞出版社)が累計20万部を超えるベストセラーに。現在はビジネスをエンタメクイズ化する経済エンタテナーとしても活動中。『パネルクイズ アタック25』(優勝)、『カルトQ』などのクイズ番組出演経験も豊富。近著に『戦略思考トレーニング 最強経済クイズ[精選版]』(日本経済新聞出版社)、『日本経済 予言の書 2020年代、不安な未来の読み解き方』『「AI失業」前夜―これから5年、職場で起きること』(ともにPHPビジネス新書)など。

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