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経営者に必要な「着眼点」の鍛え方 第118回・大量にある硬貨の行き先

経営者に必要な「着眼点」の鍛え方 第118回・大量にある硬貨の行き先

起業家、経営者にとって大事なのは、世の中を見抜く力です。1つの事象をどう捉えるかで、ものの見え方も、そこから得られる情報も大きく変わります。そうした「着眼点」、実はトレーニングによって鍛えることができるのです。累計20万部を超えるベストセラーとなった『戦略思考トレーニング』シリーズでおなじみの経営コンサルタント・鈴木貴博氏に解説してもらいましょう。

いきなりですが、クイズです!

今年の1月17日より、ゆうちょ銀行への硬貨の預け入れには、枚数に応じて手数料がかかるようになりました。これにより、硬貨を使った決済が多い事業者や、お賽銭で硬貨が大量に集まる神社やお寺などは、悲鳴をあげているといいます。そんな中、大阪府交野市にある住吉神社が、集まった硬貨の在庫を減らすためのいい方法を編み出したことが話題となりました。さて、それはどういった方法でしょうか?

クイズの答えの中に、着眼点を鍛えるポイントがある

ゆうちょ銀行に硬貨を預け入れる際、枚数に応じて手数料がかかるようになりました。

これまでは、窓口での手続きであれば枚数を問わず無料で預け入れができました。それが、窓口では50枚までは変わらず無料ですが、51枚からは枚数に応じて手数料が加算されていく仕組みとなったのです。ATMの場合は、1枚の預け入れから手数料がかかるため、いずれにしても大量の硬貨を持ち込めば高額な手数料がかかることになります。

背景としては、ATMや硬貨を数える専用機器に古くなって変形した硬貨や異物が紛れ混んでしまうと、機器が故障しやすく、そのコストや維持費が相当な負担になっていたからだそうです。

子どもがコツコツと貯めていたおこずかいを、ゆうちょ銀行に預けにいったら、手数料の方が高くなってマイナスになってしまった…なんて話があるとかないとか。

「小銭貯金」を続けてきた人たちにはショックな出来事だったでしょう。他にも、硬貨が集まりやすい事業者や、寄付を募るボランティア団体、大量の硬貨がお賽銭として集まる神社やお寺も、今回の変更に対して相当頭を悩ませているはずです。

それでは解説します!

そんな中、大阪府にある住吉神社が画期的な対策をとったことが話題となりました。

お賽銭として集まった大量の硬貨を一括で預け入れれば、相当な額の手数料を取られるはずです。だからといって、小分けにして何度も預けにいくのも限界があるでしょう。

困ったその神社が思いついたのが、近所の商店街のお店に向けた「両替ビジネス」でした。

よく考えてみると、多くの商店は「お釣り」を確保するために、銀行などで手数料を払ってわざわざ硬貨に両替していました。ならば、硬貨の扱いに困っている在庫を抱えた神社と、硬貨が必要な店舗との間で手数料なしで両替すれば、お互いにメリットがあると考えたわけです。

神社としては、そのおかげでご近所の商店街が商売繁盛となれば、御利益も上がるでしょう。両替のついでに参拝してくれれば神社としてもありがたいわけですし、地域の結びつきが強くなるなどいいことづくめです。

大量にある硬貨をさばくためのあの手この手

今回のゆうちょ銀行の手数料の話をきっかけに、たくさんの硬貨の取り扱い方法にについていろいろと話題になっています。

よくいわれるのが、「セルフレジで積極的に使う」という方法です。通常、硬貨での支払いについては、同じ種類の硬貨を20枚を超えて支払った場合、お店側は受け取りを拒否できるという法律があるのです。しかし、一部のセルフレジではそうした規制はなく、20枚を超えても普通に支払いができるそうです。そうやって少しずつ使って減らすわけですね。

あとは、元国税庁の知人に聞いた話だと、税務署は硬貨で税金を納付されても受け取りを拒否できないのだとか。つまり、大量の硬貨で税金を払うという方法です。

しかし、問題があるとすれば、数えるのにものすごく時間がかかるだろうということです。その間はこちらも待たされるわけですから、お互いに手間のかかる面倒な方法かもしれません。

逆に硬貨の流通を減らすための取り組みとしては、キャッシュレスが普及し始めた時に「電子マネーで払えるお賽銭」というのが話題になったのを覚えているかもしれません。神社やお寺によっては、そういう仕組みを導入することで集まる硬貨を減らすことはできるかもしれません。

しかし、そもそもお賽銭というものは「投げ入れる」という行為そのものに意味があり、チャリンと音がすることによって神様が気づき、ご利益がもたらされるという説があります。だとすれば、電子マネーでお賽銭を払うことに意味があるのかどうかは、なんとも微妙に思えて仕方がありません。

困った状況も、アイデア次第で乗り越えられる!

今回のお話は、キャッシュレス化が加速する中で、「お金の扱い方」についてあらためて考える1つのいいきっかけになるかもしれません。「小銭貯金を増やしても困るだけ」だと諦めて「だったら積極的に使おう」と方向転換する人も増えるでしょう。硬貨そのものへの認識が「面倒なもの」に変わってしまうと、よりキャッシュレスへと向かう人が増える可能性もあります。

住吉神社の取り組みについては、両替ビジネスができるほど大量の硬貨が集まるからこそ成り立つビジネスであるわけですから、なかなか個人がまねするのは難しい部分はあるのかもしれません。しかし、困った状況をアイデアで乗り切ったという点では、大いに参考になる話でしょうか。

アントレの読者の皆さんとしては、逆の立場として、神社に出かけた際に「大量に硬貨があるなら引き取りますよ」などと持ちかけてみると、意外と両替コストが下げられるかもしれませんね(笑)

最後に、もうお分かりだと思いますが、冒頭のクイズの答えは「両替ビジネスを始めた」でした。今回の手数料の話には「銀行が儲からなくなっている」という背景があると思います。ゆうちょ銀行の前に、すでにほとんどの銀行では硬貨の預け入れに手数料を取っていましたし、最近はコンビニエンスストアのATMでお金を預ける際にも、手数料がかかることが増えています。海外では一般的ですが、そのうち日本でも口座を持っているだけで管理費としての手数料を取られるような時代になるのかもしれませんね。


PROFILE
プロフィール写真

経営戦略コンサルタント
百年コンサルティング株式会社
代表取締役
鈴木貴博

東京大学工学部卒業後、ボストン・コンサルティング・グループに入社し、数々の大企業の戦略立案プロジェクトに従事。1999年にはネットイヤーグループの創業に取締役として参加。2003年に独立し、百年コンサルティングを創業する。大手企業の経営コンサルティング経験を元に2013年に出版した『戦略思考トレーニングシリーズ』(日本経済新聞出版社)が累計20万部を超えるベストセラーに。現在はビジネスをエンタメクイズ化する経済エンタテナーとしても活動中。『パネルクイズ アタック25』(優勝)、『カルトQ』などのクイズ番組出演経験も豊富。近著に『戦略思考トレーニング 最強経済クイズ[精選版]』(日本経済新聞出版社)、『日本経済 予言の書 2020年代、不安な未来の読み解き方』『「AI失業」前夜―これから5年、職場で起きること』(ともにPHPビジネス新書)など。

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