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経営者に必要な「着眼点」の鍛え方 第93回・一流シェフが負けを認めた400円の料理

経営者に必要な「着眼点」の鍛え方 第93回・一流シェフが負けを認めた400円の料理

起業家、経営者にとって大事なのは、世の中を見抜く力です。1つの事象をどう捉えるかで、ものの見え方も、そこから得られる情報も大きく変わります。そうした「着眼点」、実はトレーニングによって鍛えることができるのです。累計20万部を超えるベストセラーとなった『戦略思考トレーニング』シリーズでおなじみの経営コンサルタント・鈴木貴博氏に解説してもらいましょう。

いきなりですが、クイズです!

ミシュランで一つ星を獲得したイタリアンレストランのオーナーシェフが、自身のお店をもっと良くするためにと、チェーン店「サイゼリヤ」でアルバイトをする話が話題になっています。彼がプロの料理人の目でサイゼリヤのメニューを見た時に、「高級レストランでもこの値段でこんなに美味しいものは出せない」と評価したものすごくお得なメニューがあるそうですが、さてそれは一体何でしょうか?

クイズの答えの中に、着眼点を鍛えるポイントがある

今回クイズに取り上げたのは、東京・目黒にある「L`asse(ラッセ)」というイタリアンレストランのオーナーシェフである村山太一さんの話です。

村山さんはもともと、ミシュランで三つ星を獲得した本場イタリアの有名店で副料理長を務めた方で、自身のお店もミシュランで一つ星を獲得するほどの実力者です。そんな彼が、自分のお店をもっと良くするための方法として考えたのが、チェーン店「サイゼリヤ」でアルバイトをしてみることでした。

彼が悩んでいたのは、お店の生産性を上げようと努力すればするほど、確かに効率は上がるものの、反対に職場の雰囲気がギスギスしてしまい、サービスが低下してしまうのではないかということでした。そこで、効率化や生産性向上のためにいろいろと独自の取り組みを行っているサイゼリヤで学び、それをもとに自分のお店の経営改善をはかろうと考えたわけです。

ちなみに、この実体験はそのまま本として出版されています(『なぜ星付きシェフの僕がサイゼリヤでバイトするのか? 偏差値37のバカが見つけた必勝法』(飛鳥新社))ので、もしかしたら知っている人も多いかもしれませんね。

それでは解説します!

さて、そんな村山さんがサイゼリヤで働いて驚いたことの1つが、あるメニューだそうです。

彼曰く、どの高級店で出す料理よりも、サイゼリヤのそれの方が「間違いなく安くて美味しい」とのこと。

実際にイタリアンレストランで同じものを食べようと思ったら、2000円はくだらないそうですが、サイゼリヤではなんと400円(税抜364円)で食べられます。

そのメニューとは、「エスカルゴのオーブン焼き」です。エスカルゴ、つまりカタツムリを使った料理です。

普通のイタリアンレストランの場合は、エスカルゴは水煮されたものをフランスから輸入するルートしかないそうで、それを使うとどう頑張って調理しても硬い食感になってしまうのだとか。

一方でサイゼリヤの場合は、エスカルゴを自社で生産しているため、柔らかくて香りも豊かで粒の大きいものを潤沢に用意できるのだとか。

これはセントラルキッチンを持っているチェーン店だからこそできるワザであり、食材に徹底的にこだわる同社ならではの経営努力の1つともいえるでしょう。

効率化を実現させたら、その次は?

著書の中で村山さんは、サイゼリヤで働いて分かった効率化・生産性向上のための取り組みについて、いろいろな話を紹介しています。

例えば、食材は全てセントラルキッチンで下処理済みのものがお店に届くため、店舗では包丁を使う必要がなく、調理技術がないアルバイトでも簡単に料理が提供できる仕組みが整っているそうです。

また、お店から出る油を処理するための「グリストラップ」という機械を独自に開発したのだとか。通常の飲食店ではその機械を掃除するだけで毎日数時間を要するそうですが、サイゼリヤの場合はわずか7分で済むため、手間がかからず仕事を早く終わらせることができます。

その他については本を実際に読んでもらえればと思うのですが、今回お伝えしたいのは、こうした効率化によってできた「時間の使い方」についての話です。

サイゼリヤでの学びを自分のお店に持ち帰った村山さんですが、経営改善により効率化が進んだことで増えた時間を、彼はお店のスタッフとのコミュニケーションにあてたといいます。

それにより、スタッフの戦力化が早くなり、お店の雰囲気も良くなり、チーム力が上がって、結果として収益も上がったのだそうです。

いろいろなところで効率化の議論はされますが、大事なのは「効率化によって何を実現したいのか」ということでしょう。彼の目的は「効率化を目指すことでギスギスしてしまいがちなお店の雰囲気を変えたい」ということでしたが、まさにそれをコミュニケーションの力で乗り越えたというわけですね。

学んだことは、自分のお店で生かしてみよう

いろいろと画期的な取り組みを考え続けるサイゼリヤは、本当にすごいですよね。しかし、そのサイゼリヤのすごさに気づき、自ら飛び込んでいろいろなことを学ぼうとした村山さんはもっとすごいなと思いました。

しかも、学んだことを自分のお店に取り込んで、結果にもつなげているわけですから、本当に頭が下がります。個人的には村山さんの著書は2020年に読んだビジネス書の中で一番面白かったです。気になった方は、手に取ってみてください。

最後に、もうお分かりだと思いますが、冒頭のクイズの答えは「エスカルゴ」でした。ちなみに、「エスカルゴのオーブン焼き」は残念ながらテイクアウトメニューの中には入っていませんので、食べたことがない人はお店に足を運んで楽しんでみてくださいね。


PROFILE
プロフィール写真

経営戦略コンサルタント
百年コンサルティング株式会社
代表取締役
鈴木貴博

東京大学工学部卒業後、ボストン・コンサルティング・グループに入社し、数々の大企業の戦略立案プロジェクトに従事。1999年にはネットイヤーグループの創業に取締役として参加。2003年に独立し、百年コンサルティングを創業する。大手企業の経営コンサルティング経験を元に2013年に出版した『戦略思考トレーニングシリーズ』(日本経済新聞出版社)が累計20万部を超えるベストセラーに。現在はビジネスをエンタメクイズ化する経済エンタテナーとしても活動中。『パネルクイズ アタック25』(優勝)、『カルトQ』などのクイズ番組出演経験も豊富。近著に『戦略思考トレーニング 最強経済クイズ[精選版]』(日本経済新聞出版社)、『日本経済 予言の書 2020年代、不安な未来の読み解き方』『「AI失業」前夜―これから5年、職場で起きること』(ともにPHPビジネス新書)など。

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