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事業承継はカッコ悪くない! 【第2回】ベンチャー型事業継承を成功に導くための考え方

事業承継はカッコ悪くない! 【第2回】ベンチャー型事業継承を成功に導くための考え方

平安伸銅工業株式会社のオフィス

前回は平安伸銅工業(株)社長の竹内香予子さんの入社経緯から入社後に知る会社の危機までを伺いました。今回は平安伸銅工業(株)の復活に向けて、どのように歩み始めたのかを伺います。

PROFILE
竹内香予子さん
“突っ張り棒”のトップシェアメーカー、平安伸銅工業(株)の3代目社長。代替わりを期に、新マーケット創造とブランド力強化を目指し、組織改革や新製品開発に取り組む。当初“突っ張り棒”は“オワコン”(流行が廃れてしまったもの)だと思っていたので、お片付け専門ウェブメディアを立ち上げたり、思い出の品専用の収納ボックスを開発したり、果敢に新事業に挑戦するが成功に至らなかった。しかし、今一度、自分たちの強みに立ち返ってみると、“突っ張り棒”がいかに機能的で生活に役立つものか魅力を再認識する。現在は、“突っ張り棒”の特長を活かした新製品「ラブリコ」や「ドローアライン」の開発に携わる傍ら、“突っ張り棒博士”として“突っ張り棒”の正しい使い方や意外な活用術をメディアにて発信している。元産経新聞記者。

商品にワクワク感がない…でも課題を共有できない苦悩

——前回の最後に話が出た“アントレプレナーファイナンス実践塾(以下、実践塾)”では、結果的にどんな学びがありましたか?

「中小企業が再生できる8つのノウハウ」という本が課題図書だったこともあり、期待を持って参加しました。でも、参加してみたら、新規事業を作りましょうというのが主眼でした。弊社はもっと手前で事業再生が課題だったので、既存事業をどう整えて、次の可能性を発見するところまでどう引き上げていくか? というのがポイントだったんです。

事業は真綿で首を絞めるようにジリ貧の状態だったし、社内は危機感がなく組織もぬるくなっていたし、財務もいわゆるファミリー企業という感じで公私がごちゃごちゃの状態だったので、何か新しいことに踏み出そうと思っても、人もお金もサービスも何も糸口がないという状況で、授業初日は半泣きになりました(笑)。

でも結果として、“実践塾”での学びはすぐに活きました。弊社の“突っ張り棒”のサービスをアトリビュート分析(※)に、はめ込んでみた時に、ユーザーの“興奮する”要素が何もなかったんですよ。競争優位が何も見つからない。たまたま今、“突っ張り棒”がコモディティ化して利益率が下がり、競合である大手が撤退したから、結果的に弊社がシェアを維持できているだけで、自分たちがシェアを取れている要因がなかったんですよ。今、売り上げや利益があっても、今後5~10年と事業がもつ状況ではないだろうと気付いて、そこで事業面で何をすれば良いのか考え始めました。

注:コロンビア大学ビジネススクールのRita McGrath教授とペンシルバニア大学ウォートンスクールのIan MacMillan教授によるビジネスモデルの分析ツール。製品・サービス設計の変更ポイントを見極め、再構築することを目的にする。その中で製品・サービスの「興奮する」特性、つまり顧客に対して買わずにいられないという感覚を与えることができる特性をもっていれば、競合に対して強い優位性を持つ

——まずは社内で何をしたんですか?

最初は黒字で事業が回っているし、社内で危機感を共有できる状況ではありませんでした。今回、取材のお話をいただいてから思い出したのは、経営コンサルタントの冨山和彦氏の本で紹介されていた、「負け戦が確定する前に社内の空気を変えるのは難しい」という話でした。

日産自動車の元CEOのカルロス・ゴーン氏のように外部から来た人があれだけ立派に事業再生をできたのは、会社がつぶれる瀬戸際まで追い詰められていて社内の危機感がものすごくあったから、大規模なリストラを含めた社内改革が成り立ったんだろうと。でも、ジリ貧の状態でも、そこそこ安定している会社の場合は外部から来た経営者がいくら社内に危機感をあおっても、なかなか協力を得られないんです。実際に私もそうだったと思います。

もちろん、社内のみんなも自分たちの事業を良くしたいと思っている。会社がどうでも良いとは思っていない。だけど、変化を求めるということは現状の否定になります。自分たちが頑張ってきたことを否定するのは辛いじゃないですか。だから、なかなか同じレベルの危機感は共有できませんでした。結局は私1人でワーワー叫んでいるという状態でした。

——その状況を打破できたきっかけは何でしたか?

主人が前職の滋賀県庁を離れ、平安伸銅工業(株)に入社してくれたことですね。きっかけはたまたまで、2013年4月に主人も“実践塾”へ通うことになったんです。“実践塾”に通う中で私が感じる事業の課題を主人に共有できて、かつ、ウェブメディアの「cataso」(カタソ)を始めるきっかけとなるビジネスモデルの素案を一緒に企画し、主人が“実践塾”のアウトプットとしてプレゼンをしました。そこで、これだけサポートしてくれるのであれば、「入社して欲しい」と頼んだんです。

中小企業の経営はリスクがあるので、夫婦で一緒に仕事をするべきではないという認識で結婚していたので、はじめは主人に断られたんですけど、何カ月もかけて説得しました。主人も私の入社を後押しした責任を感じた部分もあったようで、2014年春に入社してくれることになったんです。その結果、社内で新しいプロジェクトが立ち上がり、少しずつ風向きが変わり始めることになります。

採用を通じて理解者を増やす。そして攻めの姿勢へ

——さらに風向きを変えるために、採用なども始められたのですか?

採用はその前からやっていました。採用は第1フェーズ、第2フェーズとあります。主人の入社以降が第2フェーズです。第1フェーズは私が「会社が変わらなあかん」と言い出して、それに対して抵抗を感じて辞めていく従業員がいたので、その補充が目的でした。コテコテの“突っ張り棒”のみの既存事業を改善するため、少しでも優秀な人を補いたい、もう少しスキルのある人が欲しいと思っていました。でも中小企業はやはり知名度がないので、なかなか良い人材を集めづらい。

そこで第1フェーズでは、「弊社は中小企業だけどブラックではない、ワークライフバランスを重視していて、社内の雰囲気はアットホーム。オーナー企業独特の理不尽なルールがまかり通るような会社とは違う。若い後継者がいるので、未来はもっと良くなっていく会社だ」という発信を始めました。

その結果、第1フェーズではブラックな中小企業で働いていたけれど、「オーナーに振り回されるのはもう嫌だ」という、真面目で良い人たちが入ってくれたんです。その人たちがまずは会社の状態を一歩変えていく協力をしてくれました。そして、主人の入社以降、「ブラックではないけれど安定した中小企業のままではダメ。今度は新しいビジネスにチャレンジしていきます」という路線に変えることにしました。

安定していることで居心地が良かったのに、「新しいプロジェクトを立ち上げるから考えろ」と言われたら、「ちょっと話が違う」ということになるので、そういう人たちが今度は辞めることになり、次は私たちがやっている未来の投資に対して共感してくれる人、例えばこれまでいなかったプロダクトデザイナーが入社してくれました。彼らがコンセプトの立案や外観設計、ブランドストーリーの構築をして、エンジニアにバトンをつなぐ開発工程に変わり、開発チームは既卒者4名/新卒2名の体制になりました。弊社にはグラフィックデザイナーもいませんでしたが、3名入社してくれましたし、海外に商品を売っていくプロジェクトも始まり、大手メーカーから脂が乗った30~40代の男性スタッフ2名がチームに加わってくれました。

——社内の雰囲気が変わりつつある中、2015年に大阪府のベンチャー企業成長プロジェクトである「Booming! - 大阪府ベンチャー企業成長プロジェクト」に選出されましたね。

もともとコンペには出た方が良いと思っていたんです。何故かと言えば箔が付くから。自分たちの会社のPRを自分たちでやれば宣伝になるので、外部の機関からの認証はすごく重要だと思っていたから、そういう場に出ていこうと意識してやりました。

実際、2015年1月に女性起業家などを支援する「【LED関西】女性起業家応援プロジェクト」にも選ばれていて、採用にも効果がありました。そして、次に何に応募しようかと考えたときにFacebookで「Booming! - 大阪府ベンチャー企業成長プロジェクト」の募集があって、「無理だろうな」とは思ったのですが、出してみたら通ったという感じです。

その時は「ラブリコ」の原型どころか、まだウェブメディアの「cataso」しかなかったんです。しかも全然マネタイズが出来ていなかった。業績につながらないことへの焦りは凄くありました。「cataso」に加え、既存の“突っ張り棒”、さらに並行して「ラブリコ」や「ドローアライン」など4つの製品開発プロジェクトをばーっと走らせていて。どのプロジェクトを残すか、限られた予算の中で見定めていくという感じでした。

「cataso」が一番早く事業化したものの、新規プロジェクトを収益化させないと、私や主人の社内での立ち位置を失うと思い始めていました。必死になってやる中で「cataso」のマネタイズよりも、モノづくりの立ち上がりのほうが可能性は高いと段々わかってきて、その結果、「ラブリコ」や「ドローアライン」の開発に集中することになりました。

かつてのオフィスの雰囲気

新商品ヒットの鍵は「ユーザー目線」と「人とのつながり」

——製品開発に集中する中で、ついに2016年に「ラブリコ」や2017年に「ドローアライン」など新しいヒット商品が誕生します。ポイントは何だったんでしょうか?

開発に関しては、「自分が欲しくなるもの」を作るということです。何故かと言えば、私が今35歳で(※取材時)ターゲットとしている客層と世代観が重なるんですね。競争優位を保ちやすいんです。と言うのも、日用品の業界はまだ父と同世代の方々が経営の中心にいる会社が多い。一昔前のライフスタイルや事業の勝ちパターンを引きずっている。これは“突っ張り棒”もしかりで、使い勝手や価格は良いけど、今の家のライフスタイルに合わないということも多い。

例えばホームセンターもオシャレ感がなく、女性は欲しいものがないということになります。私はその違和感を感じられる世代なので、その違和感を大事にしながら自分の暮らしにすぐに取り入れられるもの、自分と同世代が感じる違和感を敏感に嗅ぎ取るようにしています。

そして私の場合、やはり人とのつながりが大きいです。私は入社した瞬間からそうなんですが、この会社で役に立てる専門的知識・経験がほぼないんですよね。強いて言えばプロモーションは新聞記者だった経験もあり多少上手くいったかなとは思いますが、本当にそれくらいで。それも商品が良くなければ絶対にメディアも取り上げてくれないので、そういう意味では私は何もできないんですね。

例えば「ラブリコ」が誕生したのは1人の女性デザイナーが入社したことがきっかけです。私は「こういうコンセプトの商品が欲しい」と言ってはいたのですが、それをカタチにすることができていませんでした。エンジニアと上手くコミュニケーションができていなかったんですけど、そのデザイナーが上手くスケッチに落とし込んでくれたことで、エンジニアが構造を考え、商品化されたんです。だからこそ、キーとなる人材を招き入れることは大事です。

一方で、じゃあ、できないなりに私には何ができるのかを考えたら、わらしべ長者的チャンスの寄せ術かなと。まだ長者にはなっていないのですが(笑)。どういうことかと言うと、「こういうことをやりたい」「こういうことに困っているんだよ」と色んな方々に相談して、もちろん私自身もその方の役に立つ情報を出せるように真摯に向き合って考えていたら、誰かがその都度「あなたの欲しいのはこれじゃない?」という感じで、ヒントを持って来てくれたりするんですね。それが積み重なって今があるという感じです。

例えば、メディアに取り上げられるようになったきっかけも“実践塾”が縁でした。株式会社スマートバリューという上場企業で、同じく事業承継を経験されビジネスも転換されている渋谷社長との出会いがあり、渋谷社長に色々相談していたんです。

ある時、大阪産業創造館の機関紙「Bplatz」が渋谷社長に「後継者の人に取材したいんだけど、何か面白い事業承継をしている人はいない?」という相談をされたそうで、渋谷社長が「平安伸銅工業(株)の竹内さんていう面白い女の子おるよ」と紹介してくれました。「Bplatz」の表紙に載ったら、その後に読売テレビから頑張っている後継者として取り上げていただいたり、色んなメディアに取材されるようになり、最終的に全国放送のテレビ番組で取り上げられるようになりました。

——テレビ番組「あさイチ」(NHK)や「スッキリ」(日本テレビ)に取り上げられましたよね。良いものを作っているという自負があっても、世の中に広めるのは難しいという人も多いと思います。

報道は積み重ねの部分もありますが、プレスリリースの配信サービスである「PR TIMES」を使って拡散を図ったりしつつ、いかにニュースになる切り口を作るかに気を遣っています。「良いものでしょ」という宣伝をしてはダメなんです。メディアはニュース性を求めているので、いかに社会問題と結びつくか? っていうのがとても大事です。

例えば、「ラブリコ」というDIYの商品だと「空き家問題」と重ねて発信したり、「ドローアライン」だと老舗のメーカーが「自分たちの強みを活かして打って出た」というのが面白い切り口です。私自身の話だと「後継者不足」「中小企業の廃業が多い」といった中で、もともとあった会社をリノベーションすることによって、企業価値を高めることができる事例として、あるいは「女性の社会進出」で取り上げていただいたり、上手く重ねて仕掛けています。


「ラブリコ」を活用すれば、難しそうなDIYへのイメージが一変

(最終回に続く・2018/8/16(木)公開予定)

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