新宿・歌舞伎町。
「東洋一の歓楽街」として有名なこの街で、2017年10月、ホストが店員を務める本屋「歌舞伎町ブックセンター」がオープンしました。
今回お話を伺ったのは「歌舞伎町ブックセンター」のオーナーであり、歌舞伎町にホストクラブをはじめ、10以上の店舗を構える「Smappa! Group」の会長を務める、手塚マキさん。
ホストクラブを経営する手塚さんがなぜ、本屋を立ち上げようと思ったのでしょうか?
その理由は、手塚さんが「Smappa! Group」を経営する「目的」にありました。
手塚マキさん
「歌舞伎町ブックセンター」のオーナー兼、ホスト書店員。
大学中退後、歌舞伎町のホストクラブで働き始める。
2003年に「Smappa! Group」を立ち上げ、現在までにホストクラブやバー、飲食店、サロンなど、10以上の店舗を歌舞伎町に構える。
ホストの仕事を通じて、立派な大人になって欲しい
―現在に至るまでの経緯を教えてください。
今はホストクラブなどを運営する会社の経営者として仕事をしていますが、以前は私も現場で働く1人のホストでした。
大学を中退してホストクラブで働きはじめ、接客技術の経験をある程度積んで、水商売独特の常識にも徐々に慣れていきました。
周りの人が世間でイメージするような、夜の世界の感覚に流されていってしまう中、僕は普通のビジネスと変わらず戦略的に数字を作るということを考えていたんです。
すると、安定した数字を作れるようになりました。
その「勝利の法則」を実践した結果、今のようにホスト業界のマーケットが大きくなかったので、数字も仕事の内容も天井が見えてしまったんですよね。
さらに当時、「ホスト」という仕事である程度稼ぐことはできていても、それ以外の仕事のノウハウなんて何も持っていなかった。
そんな「世の中のことを全然知らない自分」に焦りを覚えはじめた時に、当時の周りの人に「今度はホストクラブの経営をやってみないか」と誘われました。
その誘いがきっかけで、深く考えずノリで経営者の道を歩み始めました。
―では「独立してやる!」といったご自身の強い野心があって独立したのではなく、どちらかというと、状況と周囲の誘いがあって、それに乗る形で独立をしたんですね。
はい。なのでもともと「経営者になりたい!」といった、強い意志みたいなものは全くなかったですね。
周りの勧めで独立してみたものの、最初は経営もあまりうまく行きませんでした。
そんな中、独立時からついてきてくれて、一緒に頑張ってきた、ナンバーワンホストが店を辞めることになったんです。
― 一緒に仕事をしてきた仲間が去ってしまうのは、とても悲しいですよね。手塚さんは、その局面をどう乗り切ったのでしょうか?
当時は「僕のことを理解して受け入れてくれているから、頑張ってくれているんだ」と、勝手に10歳近く年下の子に甘えていたんでしょうね。
正直、そんな自分の不甲斐なさに店を畳んでしまおうかとも考えていました。
店の経営は上手くいかないし、後輩は離れていく。結局「なんのためにお店の経営をやっているのか」が自分の中であまりしっくりきていなかったんです。
そんなことをモヤモヤ考えている時に、あるホストから「店を潰さないで欲しい」と懇願されました。
「ここは自分にとって、やっと見つけた居場所なんです。店がなくなってしまったら、居場所もなくなってしまうから」と。
その時にようやく、自分のお店を経営することの目的が見えてきました。
それは「居場所」。
僕にとっても、彼らにとっても、お店は自分の居場所になっていたんだと。
かっこいいビジョンやミッションなんかなくたって、僕らにとっての居場所であることが大事なんだ。
どうせだったら楽しい居場所にしよう。一緒に成長できる場所にしよう。そう思うようになりました。
―手塚さんはその時、自分のお店をどんな居場所にしようと思ったのですか?
さまざまな事情を抱えて歌舞伎町に来るホストたちを受け入れてあげられて、彼らが働き、成長していけるための居場所、ですね。
何らかの事情を抱えた彼らが、このホストという仕事を通して、立派な社会人になれるような、そんなお店づくりをしていこうと心に決めました。
その後徐々に売り上げが上がっていき、なんとかお店を持ち直すことができました。