起業家、経営者にとって大事なのは、世の中を見抜く力です。1つの事象をどう捉えるかで、ものの見え方も、そこから得られる情報も大きく変わります。そうした「着眼点」、実はトレーニングによって鍛えることができるのです。累計20万部を超えるベストセラーとなった『戦略思考トレーニング』シリーズでおなじみの経営コンサルタント・鈴木貴博氏に解説してもらいましょう。
●経営者に必要な「着眼点」の鍛え方 第12回・AIでなくなる仕事、なくならない仕事
いきなりですが、クイズです!
まずは「売れなくなっている理由」を考えてみるのがいいかもしれません。そこから思いを巡らせていけば、「その日に買うのがベストな理由」が見えてくるはずです。
クイズの答えの中に、着眼点を鍛えるポイントがある
お肉と並び、日本人の主食として欠かせない「魚」ですが、最近はあまり売れなくなっているようです。
その理由はいくつかあると言われています。1つは、料理のレパートリーとして苦手な人が増えているという話です。おろす、さばくといった技術的なことだけでなく、どうやって食べたらいいのかという点で、「どうも苦手」と感じている人が増えているのだとか。
そしてもう1つ、大きな理由があります。それが、まさに今回のクイズの答えに直結する、多くの人からしたら非常にやっかいな問題なのです。
それでは解説します!
魚が嫌われている一番の理由は「生ゴミが出ること」です。
お肉と違って、食べた後に骨や皮、内蔵などが生ゴミとして出やすいため、「面倒でやっかいな食べ物」だと感じる人が増えているのだそうです。そしてそれが、魚離れが進んでいる大きな理由だと言われています。
たしかに、夏の暑い日などは、臭いや衛生面の観点から生ゴミをちょっとでも放置したくありませんよね。そうした背景から、その地域の「生ゴミの日」の前日は、スーパーなどで魚が売れやすいのだそうです。魚を食べて出た生ゴミがすぐに捨てられるので、面倒なことを気にせずに済むというわけですね。
この魚離れ、実はかなり深刻のようです。スーパーによっては「鮮魚コーナーはいらないのでは」という議論が進んでいるところもあるようですし、総菜と同じ扱い、つまり「加工品だけを扱えばいい」という声もあるのだとか。
このままいけば、我々の食生活そのものが変わってしまう可能性もあるかもしれません。
「どうすれば生ゴミが出ないか」を考えてみる
1つポイントなのは、必ずしも「魚が嫌いになったわけではない」ということです。
外食では変わらず人気です。しかし、家庭では不人気。ここにビジネスチャンスがあるのではないか…そんなふうに考えてみてはどうでしょうか。
たとえば、生ゴミを出さない工夫が今以上にできれば、安心して魚を買う人は増えるに違いありません。皮や骨をキレイに取り除いて“三枚おろし”にするほかに、新しい方法を見つけられれば、人々の魚に対する印象は変わるはずです。
鮭などの焼き魚の場合、皮を取ることで見栄えが悪くなるのであれば、食べやすい皮を他の食材で作って貼り付けるといった新たなアプローチができるかもしれません。
レパートリーの問題をクリアするなら、“新しい食べ方”の提案をしてあげましょう。たとえば昔は「西京焼」という料理はありませんでしたが、その登場によって食べ方のバリエーションが1つ広がったわけですよね。「クックパッド」のようにレシピを提供するのではなく、「フライではなくパイ包みにする」といったような新しい食べ方のアイデアを生み出すことができれば、それこそがビジネスチャンスになるはず。
お刺身だって、「切って売っているものは鮮度が落ちている」という印象を持つ人が多いのであれば、鮮度をよくするための方法を考えてみればいいわけですね。
変化が起こっている時ほど、ビジネスチャンスは見つけやすい!
魚のように、誰しもが「安定して需要がある」と思っているものであっても、ちょっと目を離しているうちにこのような深刻な事態に陥ってしまいます。
最近では、漁獲量の問題でマグロやサンマが食べられなくなるかもしれないなどのニュースがありますが、こうした変わり目こそ、ビジネスチャンスが見つかりやすいタイミングであると言えるかもしれませんね。
最後に、もうお分かりだと思いますが、冒頭のクイズの答えは「その地域の生ゴミの日の前日」でした。魚の場合は生ゴミの問題が大きな理由ですが、このように消費者の心理を分析することで売れ筋商品を見つけていくことは、世の中を見抜く目を養うのにもってこいの方法の1つです。ぜひ身近なところでやってみてくださいね。
経営戦略コンサルタント
百年コンサルティング株式会社
代表取締役
鈴木貴博