起業家、経営者にとって大事なのは、世の中を見抜く力です。1つの事象をどう捉えるかで、ものの見え方も、そこから得られる情報も大きく変わります。そうした「着眼点」、実はトレーニングによって鍛えることができるのです。累計20万部を超えるベストセラーとなった『戦略思考トレーニング』シリーズでおなじみの経営コンサルタント・鈴木貴博氏に解説してもらいましょう。
経営者に必要な「着眼点」の鍛え方 第152回・SDGsで水素が注目される理由
いきなりですが、クイズです!
クイズの答えの中に、着眼点を鍛えるポイントがある
電気自動車であるテスラを走らせるためには、充電が必要です。独自の急速充電設備であるスーパーチャージャーは全国80カ所に396基設置されていますが、少ない割に、ユーザーにとって便利な場所に設置されていることから評判がいいそうです。
今回クイズにしたものも含め、テスラはユーザーに対して色々な工夫を提供しています。
例えば、テスラユーザーである私がよく利用するのは新宿NSビルの駐車場内に設置されているスーパーチャージャーなのですが、それを使うときは駐車料金がかかりません。
ちょっとしたことですが、とてもありがたいのです。
それでは解説します!
それ以外にも、例えば他の自動運転車の電気スタンドと違って、充電設備が埋まっていても割とすぐに空くことで有名です。
そのための工夫が2つあります。1つが、とにかく充電時間が短いことです。これは技術があってできることなのですが、30分あれば半分くらいの充電が可能です。
もう1つはちょっと面白くて、充電完了のお知らせがオーナーのスマホに届く仕組みなのですが、連絡が来てから5分以内に車をどかさないと、高額な課金が発生するのです。
こうしたちょっとした工夫のおかげで充電設備の回転が速くなり、ユーザーにとっては非常に使いやすい環境が整えられているのです。
設置場所についても、例えば東京から東名高速に乗って西に向かう際、途中の御殿場や浜松など、割と電気がなくなりそうな絶妙な距離の場所に便利なスーパーチャージャーが設置されています。おかげで長距離移動も安心で、それが使い勝手の良さにもつながっています。
さて、クイズの答えですが、こうしたいろいろな工夫の1つとして、テスラは3カ月に一度、スーパーチャージャーの設置場所について投票を実施しています。つまり、「ここに作ってほしい」という声を人気投票のようなかたちで集め、要望が多い場所に設置するようにしているのだそうです。
「ファンにサポートしてもらう」という戦略
よく、「お客様の声を聞く」という話を耳にしますよね。このテスラのやり方は、まさに「ユーザーと一緒にサービスを作り上げていく」という感覚でしょう。
このようなやり方を取り入れているもので最近多いのが、クラウドファンディングです。新製品を出すにあたり、先にクラウドファンディングで初期ユーザーとなる出資者を募り、彼らから改善点などを聞きながら商品やサービスを改良して仕上げていくことが増えていますよね。
こうした、ユーザーをサポーターとして使っていく戦略は昔からあり、会社を成長させるうえではすごく重要なやり方の1つです。
日本におけるテスラのユーザー数は、国内の有名メーカーに比べたら圧倒的に少ないのは間違いありません。だからこそ、ユーザーの心をつかむことでファンになってもらい、サポートしてもらう流れを作っているわけですね。
その1つの施策としてユーザーの声を集め、それを実現させることで利便性を上げて顧客満足度を上げるというのは、すごく「いいやり方」だと感じます。
ユーザーの声、聞けていますか?
自社の商品・サービスのファンを増やすことが会社を成長させる大きなカギになることは、ファンマーケティングを導入する企業が増えていることからも明白です。
ユーザーの声を聞くのは大事なことだと分かっていながらも、なかなかうまくできないものですよね。ぜひみなさんも自分の事業でできることがないか、あらためて考えてみてくださいね。
最後に、もうお分かりだと思いますが、冒頭のクイズの答えは「設置してほしい場所の人気投票を行っている」でした。ちなみに、SNS上ではファンの人たちが新たなスーパーチャージャーがどこに設置されるかを予想したり、工事の様子を共有してみたりと、いろんな盛り上がりをみせているようです。それも車を乗るだけではない、1つの「お楽しみ要素」なのかもしれませんね。
構成:志村 江