起業家、経営者にとって大事なのは、世の中を見抜く力です。1つの事象をどう捉えるかで、ものの見え方も、そこから得られる情報も大きく変わります。そうした「着眼点」、実はトレーニングによって鍛えることができるのです。累計20万部を超えるベストセラーとなった『戦略思考トレーニング』シリーズでおなじみの経営コンサルタント・鈴木貴博氏に解説してもらいましょう。
経営者に必要な「着眼点」の鍛え方 第108回・需要を作れる
いきなりですが、クイズです!
クイズの答えの中に、着眼点を鍛えるポイントがある
最近は、コンビニエンスストアやファミリーレストランなどの売れ筋商品や人気メニューをその道のプロが採点したり、ランキング形式で紹介したりするテレビ番組が人気ですよね。
それを見ていて思い出したのですが、最近、コンビニエンスストアチェーンの「ローソンストア100」が発売したお弁当が非常に話題となっています。
そのお弁当は、一人の社員の熱意が受け入れられて10年越しの提案が実り商品化したそうです。2021年6月に関東エリア限定で発売したところ、SNSや口コミなどで人気となり大ヒット。それを受けて8月より全国展開され、爆発的な売り上げを記録しているそうです。
それでは解説します!
なぜそのお弁当が商品化するまでに10年もかかったのかというと、実は「おかずが1種類だけ」で、「見た目のバランスが悪い」という理由から反対され続けてきたからです。
少しヒントを出すと、その1種類のおかずがお弁当には5つ入っており、200円(税抜き)で売られています。値段はさておき、他のチェーンでもまねしようと思えば簡単にできるでしょう。
分かりましたか?そのお弁当とは、「ウインナー弁当」です。容器の半分にはごまのかかったご飯が、もう半分にはウインナーが5本並んでいて、その上にケチャップがかかっている、それだけのシンプルなお弁当です。
提案し続けた社員は、「好きなおかずだけを思う存分食べたい」というニーズが必ずあるはずだと考えていたそうです。また、お弁当のおかずの定番でありながら主役にはなれないウインナーだからこそ、他には絶対にない商品になると勝算を見込んでいたのだとか。
「お弁当とはいろいろなおかずを楽しむものだ」「彩りや見た目のバランスが大事」と言われ続け、「こんなものが売れるわけがない」と反対された商品が、まさかの大ヒットとなったわけですね。
もちろん、お弁当として美味しいウインナーの調達にもこだわったそうですが、「このシンプルさが逆に良い」「時間がない朝に母親が作ってくれた弁当を思い出す」といった声が集まっているそうですから、何がヒットするかはわからないものですね。
今では定番のあの商品も、「売れない」と反対されていた
「ウインナー弁当」のように、「売れないと思われていてなかなか世に出なかったヒット商品」は他にもあります。
例えば、花王の「クイックルワイパー」シリーズです。1980年代に床をフローリングにする家が増え始めたことから、簡単に拭き掃除ができる商品があれば売れるはずだと何度も提案されたそうです。しかし、最終的には「そんなものが売れるわけがない」と反対され、商品化に至るまでに時間がかかったのだとか。
有名なのがソニーの「ウォークマン」ですね。1979年に発売するまでは、「録音機能のない再生機なんて誰が買うんだ」と反対されたそうです。ところが、発売してみたら大ヒットしたのはご存知の通り。
このように、今となっては当たり前にあるものでも、実現する過程では反対され続けていたり、売れるとは誰も思っていなかったりするケースがあるんですね。
実は「偏食家マーケット」の最新トレンドでもある
今回の「ウインナー弁当」の商品開発をちょっと別の視点から考えみると、テレビなどで取り上げられるような人気商品の多くは、「足し算の発想」で商品化されたものが多いように思います。つまり、いろんな工夫を重ねていくことで、見栄えのいい商品ができ上がり、それが多くの人に支持されてヒットしているといった感じです。
一方の「ウインナー弁当」は、その真逆の「引き算の発想」によるものです。「好きなものだけをとことん楽しみたい」という思いが出発点であり、他を徹底的に排除しています。また、その結果として、世の中にある「偏食家マーケット」にも刺さり、結果的に大ヒットしているところもすごく面白いなあと感じざるを得ません。
最後に、もうお分かりだと思いますが、冒頭のクイズの答えは「ウインナー弁当」でした。ちなみに、当初提案していた「ウインナー弁当」は、ウインナーにはケチャップではなく「粗挽きコショウ」をかけたものだったそうです。最低限の見栄えをと考えてケチャップで赤を彩ったそうですが、粗挽きコショウの方が美味しそうだなあ・・・と思ってしまいました。
構成:志村 江