起業家、経営者にとって大事なのは、世の中を見抜く力です。1つの事象をどう捉えるかで、ものの見え方も、そこから得られる情報も大きく変わります。そうした「着眼点」、実はトレーニングによって鍛えることができるのです。累計20万部を超えるベストセラーとなった『戦略思考トレーニング』シリーズでおなじみの経営コンサルタント・鈴木貴博氏に解説してもらいましょう。
経営者に必要な「着眼点」の鍛え方 第159回・音を鳴らす電気自動車
いきなりですが、クイズです!
クイズの答えの中に、着眼点を鍛えるポイントがある
今回は、日本マクドナルドが今年10月に発表した9月分の月次動向の数字にまつわる話を取り上げたいと思います。
ある施策により、店舗利用者の行動の仕方が変わっているのではないかという話です。今後どういう変化が起こっていきそうかも含めて、考えてみてください。
それでは解説します!
既存店全店の売り上げは10%以上伸びているものの、客数は0.7%マイナス。このような結果になったのは、ある施策が関係していると思われます。
それはマクドナルドが多くの店舗で導入している「モバイルオーダー」で、専用アプリで事前に予約注文と決済ができ、店舗で待たずに購入できるというもの。
モバイルオーダー自体は以前から導入されていて、マクドナルドのようなファストフード業界では一般的でしたが、最近はこれで「グループ買い」する人たちが増えている、ということなのだそうです。
つまり、マクドナルドに行こうかとなったらアプリで先にまとめて注文しておき、支払いも済ませておく。店舗についたら待つことなく商品を受け取り、席についたら皆で割り勘するわけです。
確かにこの買い方だと複数人でお店に足を運んでも来客数としては1人のカウントになってしまいます。逆にいえば、この施策をするとどうしても来店客数は減ってしまうわけですから、「それは仕方がない、むしろこの数字ほど減ってはいない」という認識なのでしょう。
Z世代の消費スタイルが世の中の新しい流れをつくる
DXの流れとして考えると、これは割と主流の話でしょう。DXの影響により、日本に限らず世界中で「タイパ(タイムパフォーマンス)」が重要視されるようになっていて、それは間違いなくコロナ禍が大きく後押ししました。
有名なのが、アメリカのスーパーマーケットチェーンであるウォルマートが導入したサービスで、オンラインで注文した商品を店頭で簡単にピックアップできるというものです。このサービスはコロナ禍で急激に伸びました。
アメリカで買い物をするとよく分かるのですが、レジの行列がすごく長く、お店によっては店の外まで行列が続くこともあります。そんな中でこうしたサービスやアプリが登場し、事前に注文も会計も済ませることができるようになると、飲食店や小売店の生産性が大きく上がるのは間違いないですよね。
日本でもこうした流れはウーバーイーツなどの宅配サービスから徐々に流行り始め、最近になってようやく、お店に足を運ぶ人たちにも普及し始めたといえるでしょう。
今後の予測としては、Z世代を中心に、消費のスタイルはその方向に移っていくのは間違いありません。
ですから、投資家目線でいうと、企業が月次データのようなものを調べたり発表したりする場合は、アプリ経由の比率などのデータも情報開示すべきでしょう。なぜなら、そこに最も大きな変化が出ているからです。客数や客単価ももちろん重要な数字ではありますが、それを見ているだけでは世の中の変化を見誤ってしまうかもしれない、ということですね。
企業が発表する数字の見方次第で経済への感度が上がる
今回の話では、実際の数字がマイナスであるのに、本当はプラスであるかもしれないというところが面白いですよね。「なんでなんだろう?」と思うようなところには必ず、新しい取り組みや消費者の変化といったことが隠れているわけで、そこに注目するのは非常に大事なことでしょう。
企業が発表する数字に注目する際は、アプリ経由の集客や、キャッシュレスの利用者率とその割合といった数字についても今後はしっかり見ておくことで、より経済の感度は高くなると思います。ぜひみなさんも意識して注目してみてくださいね。
最後に、もうお分かりだと思いますが、冒頭のクイズの答えは「アプリを使ったグループ買いが増えているから」でした。ちなみに、企業によるこうした情報の開示は少しずつですが始まっていますが、まだまだ株主への四半期報告のような程度のところが多いようです。今後の情報開示は間違いなく変わっていくだろうということと、必然的にそれが求められる社会になっていくのだろうなと感じています。
経営戦略コンサルタント
百年コンサルティング株式会社
代表取締役
鈴木貴博
構成:志村 江