起業家、経営者にとって大事なのは、世の中を見抜く力です。1つの事象をどう捉えるかで、ものの見え方も、そこから得られる情報も大きく変わります。そうした「着眼点」、実はトレーニングによって鍛えることができるのです。累計20万部を超えるベストセラーとなった『戦略思考トレーニング』シリーズでおなじみの経営コンサルタント・鈴木貴博氏に解説してもらいましょう。
経営者に必要な「着眼点」の鍛え方 第112回・焼き鳥が足りない!
いきなりですが、クイズです!
クイズの答えの中に、着眼点を鍛えるポイントがある
「社長のおごり自販機」をご存知でしょうか。ポストコロナの取り組みの文脈で注目されているもので、サントリーが開発した法人向けサービスです。
その仕組みは、2人の社員が社員証を同時に機械に読ませると無料で2本のドリンクが買えるというもので、企業への試験導入が進んでいるそうです。
社員にとっては無料でドリンクが手に入るわけですが、なぜ会社はこのような自販機を導入するのでしょうか。
それでは解説します!
ポイントは「2人同時に」という部分です。
無料で飲み物を手に入れるためには、2人で利用することが条件になります。人と人が会って、飲み物を飲みながらコミュニケーションをとる、そう、この自販機は「雑談」が生まれることを期待したサービスというわけです。
コロナウイルス感染症によってリモートワークが増え、人と距離を取ることが当たり前になってしまいました。結果として「社員同士が気軽に交流したり、雑談したりする機会が減ってしまった」と悩んでいる企業が増えています。
それを解決するための1つのヒントが、この「社長のおごり自販機」というわけですね。
おごった分の飲み物の料金は導入した会社が負担する仕組みとなるため、サントリーとしては企業への積極的な売り込みは難しいのではないかと考えているようですが、私はそうは思いません。
雑談が減るということは、そこで生まれるアイデアが減るということでもあります。私の経験上、コンサルティングファームではコンサルタント同士の雑談から課題解決のためのアイデアを生み出すことが非常に多いので、喜んで導入すると思います。そこに価値を見出す企業はたくさんあるでしょう。
企業にとっては、アイデアが減るということは望ましい状況ではありません。コミュニケーションとは非常に価値があるもので、そこに投資したい経営者が導入するものとして、この自販機は今後さらに注目されていくのではないでしょうか。
コミュニケーションとは「価値」である
「社長のおごり自販機」の面白さは、「何かをひと工夫することでコミュニケーションが促進する」ことですよね。
似て非なるもの、非なるものだけれど似ているものとしてパッと浮かんだのが、男性がお代を払って男女が交流する「相席居酒屋」でしたが、これはちょっと微妙な例かもしれません(笑)
それ以外だと、10月にニューヨーク証券取引所に上場した、シェアオフィス事業を手がけるWeWorkはまさにドンピシャでしょう。
日本でも順調にシェアオフィスを展開しているWeWorkですが、同社はただ区画でオフィスを提供しているだけではありません。
WeWorkを利用するベンチャー企業にとっては、同じようなステージで同じようなチャレンジをしている企業が集まっている場所に身を置くことは、多くのメリットがあります。
その1つが他の企業の人たちとの「雑談」であり、WeWorkにオフィスを借りることによって生まれる「コミュニケーションそのもの」が貴重な価値になっているわけです。
それを得るためにお金を払ってオフィスを借りる、そういうマーケットがあるということですね。
コミュニケーションの機会は、作り出せる!
「社長のおごり自販機」の例は、コミュニケーションの機会をどう作っていくかを考える1つのきっかけになるものです。同時に、「コミュニケーションにはお金を払う」というニーズがあることを確認させられます。
コロナによってコミュニケーションのあり方が見直されている今だからこそ、その価値に目を向けるとともに、何かできそうなことを考えてみるといいかもしれませんね。
最後に、もうお分かりだと思いますが、冒頭のクイズの答えは「雑談を増やすため」でした。ちなみに、この自販機は既存のものを少し改造すればいいため、普通にお金を入れて飲み物を買うこともできます。共有スペースなどに設置した場合、1人で利用すればリフレッシュスペースに、2人で利用すればコミュニケーションスペースになるというわけで、実はものすごい発明かもしれません。
経営戦略コンサルタント
百年コンサルティング株式会社
代表取締役
鈴木貴博