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経営者に必要な「着眼点」の鍛え方 第78回・入りたくなるお店

経営者に必要な「着眼点」の鍛え方 第78回・入りたくなるお店

起業家、経営者にとって大事なのは、世の中を見抜く力です。1つの事象をどう捉えるかで、ものの見え方も、そこから得られる情報も大きく変わります。そうした「着眼点」、実はトレーニングによって鍛えることができるのです。累計20万部を超えるベストセラーとなった『戦略思考トレーニング』シリーズでおなじみの経営コンサルタント・鈴木貴博氏に解説してもらいましょう。

いきなりですが、クイズです!

5月末に緊急事態宣言が解除され、街には人の流れが戻りつつあるようです。営業を再開した多くのお店では、入店時のアルコールによる除菌など、あらゆる感染予防対策を行っています。では、お店側がこうした取り組みに力を入れている「一番重要な意味」とは何でしょうか?

クイズの答えの中に、着眼点を鍛えるポイントがある

緊急事態宣言が解除され、少しずつですが日常を取り戻そうといろいろな活動が再開され始めました。

休業を余儀なくされていたお店も開き始め、街には人が戻りつつあります。とはいっても、コロナウイルスの感染が再び拡大しないよう、対策も忘れてはいけませんよね。

営業を再開したお店に足を運ぶと、客足を戻そうと、お店独自にいろいろな取り組みを行っている様子がうかがえました。

それでは解説します!

新型コロナウイルスの拡大により、スーパーなどの人が集まりやすいお店では入場制限を行って密な状態を作らないよう工夫していましたよね。もちろんそうした取り組みは引き続き行われています。

ほとんどのお店で行っているのが、アルコールによる消毒です。入り口にアルコールを設置して入店時に手を除菌するのですが、お店によっては店員さんが入り口に立ってわざわざ手にアルコールをかけてくれるところも。手でプッシュしなくて済むようにと、足で踏んでアルコールを噴射する方法を取り入れているお店もありました。

さて、こうした各店の取り組みは、「感染予防」が目的であることは間違いないのですが、お店にとって、これをやり続けるとても重要な意味があります。

それは、「うちのお店は安全ですよ」というアピールです。

緊急事態宣言が解除された今、多くの人はどこまで生活を元に戻していいのかを疑っている状況です。街を歩いていても、「このお店に入るべきかどうか」をどこか疑いの目で見ている様子もうかがえます。潔癖の人だけでなく、多くの人が「誰かが触ったものは避けたい」という意識を持つなど、自身の行動を変えているのです。

そういう人たちに対してお店がすべきことは何か。それが「このお店は入っても大丈夫かもしれない」と安心させることなのです。

しっかりアピールすることで安心して利用してもらえる

店員さんが入り口に立って、入店者一人ひとりにアルコール消毒を促していたら、多くの人は「この店は対策への意識が高そうだな」と思うはずです。

私も先日、大手家電量販店に久しぶりに足を運んだのですが、入り口で体温を測られました。店内にはマスクをしていない人もちらほらいたのですが、それでも「この中には熱が高い人はいないから安心だ」という気持ちになり、買い物を楽しんでしまいました。

しかし、後になってよく考えてみたら、医学的にはそれだけでコロナウイルスを完全に対策することは不可能ですよね。無症状の人が知らず知らずのうちにウイルスをばらまいているケースもあるわけで、アルコール消毒や熱の高い人を入店させないだけでは、拡散は防げないからです。

ただ、今回の話の本質は、完全に予防できるかどうかよりも「安心して利用してもらうためにお店としてしっかりアピールする」ということ。ですから、客足を戻して日常を取り戻すための第一歩として、皆さんも自分の商売でできそうなことを考えて実践することが大事でしょう。

私が見た中で一番いいなと思ったのは、飲食店のケースですが、店内に通された後に目の前で机やらタッチパネルやらを消毒液のついたダスターで拭いてくれたのです。

おそらく前のお客様が帰った後にも、座席の周りはしっかりと除菌を済ませているはずですが、あえて見えるようにもう一回やるわけです。それにより、余計な不安を感じなくて済みますし、何より安心できます。「店内はちゃんと除菌してあるから大丈夫」では、利用者の心理としては実は十分ではないのかもしれません。

とあるファミレスでは、男性トイレだけですが、ドアを開けて固定していました。換気に気をつけていることが伝わってきて、些細なことですがこれも安心できました。

ヒルトン大阪では通常、朝食はバイキング形式で提供しているのですが、それを変更し、ワンメニューで席まで運んでくれるスタイルに変わっていました。バイキングは不安なので朝食は控えようと思ったのですが、先にそれを言われたことで、「きちんと考えてくれているんだな」と安心したものです。

こうしたちょっとしたことが、利用者の「ここは大丈夫だろう」の気持ちにつながるものなのです。

利用するお客様の気持ちになって考えてみる

新型コロナウイルスは、私たちの生活を大きく変えましたよね。以前と同じ日常に戻るのは難しいかもしれませんが、だからこそ過去に縛られずにいろいろな取り組みを考えていかなくてはいけません。

商売をする人にとって、消費者の気持ちに立って考えることはすごく大事なことです。もちろん自分自身も感染のリスクがある状況だからこそ、まずは感染対策においてできることを頭のトレーニングのつもりで考えてみてはどうでしょうか。

最後に、もうお分かりだと思いますが、冒頭のクイズの答えは「うちは安全ですよアピール」でした。間違えてはいけないのは、感染を広げないことが第一だということです。できる限りの対策をすることを前提に、考えてみましょう。


PROFILE
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経営戦略コンサルタント
百年コンサルティング株式会社
代表取締役
鈴木貴博

東京大学工学部卒業後、ボストン・コンサルティング・グループに入社し、数々の大企業の戦略立案プロジェクトに従事。1999年にはネットイヤーグループの創業に取締役として参加。2003年に独立し、百年コンサルティングを創業する。大手企業の経営コンサルティング経験を元に2013年に出版した『戦略思考トレーニングシリーズ』(日本経済新聞出版社)が累計20万部を超えるベストセラーに。現在はビジネスをエンタメクイズ化する経済エンタテナーとしても活動中。『パネルクイズ アタック25』(優勝)、『カルトQ』などのクイズ番組出演経験も豊富。近著に『戦略思考トレーニング 最強経済クイズ[精選版]』(日本経済新聞出版社)、『「AI失業」前夜―これから5年、職場で起きること』(PHPビジネス新書)など。6月19日に『日本経済 予言の書 2020年代、不安な未来の読み解き方』(PHPビジネス新書)が発売予定。

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