株式投資をされている方にとって、投資対象である上場企業株式は市場において自由に取引が行われているため、株式譲渡制限と言われてもピンと来ないかもしれません。
最近では上場企業でも“望まれない株主”が相当数の株式を取得し、当該企業にさまざまな要求をしてくる事例をよく見かけるようになりました。
一方で、非(未)上場企業では、自社にとって望ましくない第三者が株式を取得することを回避するため、株式の譲渡を制限していることが一般的なのです。
株式譲渡制限とは
株式譲渡制限とは、その名のとおり株式譲渡に制限を設けることです。どのような制限かというと「一定の手続きを経ないと譲渡が実行できなくなる」というものです。
株式譲渡制限のある会社を“非公開会社”と呼びますが、必ずしも「非公開会社=非上場会社」というわけではありません。
非上場の会社でも公開、つまり自由にその株式を売買できる会社も存在します。
非上場でも公開している企業が存在しているのは、1950年の商法改正でこれまで認められてきた株式譲渡制限が禁止されたことに起因します。
その後、1966年に株式譲渡制限が復活しましたが、この株式譲渡制限の禁止期間(1950~1966)に設立され、かつ譲渡制限を付与する手続きをしていない会社がまれに存在するため、非上場で公開会社が存在し得るのです。
株式譲渡制限を設定するメリット・リスク
最大のメリットは、上述のとおり「望まれない株主の登場による会社の乗っ取りリスクを抑止できる」ことです。
また、望まれない株主以外でも第三者への株式譲渡を防ぐことができるため、中長期的に見れば事業承継時に後継者に対してまとまった株式を移すことが可能です。
加えて、株主総会の招集期間短縮・取締役会の非設置・計算書類の注記簡略化といった実務上のメリットも挙げられます。
一見メリットだらけですが、株主による株式買取請求権には気を付けなければいけません。
株主は会社に対し、譲渡承認請求権を行使し「株式譲渡を認めるように」と主張することができます。
同時に「認めないなら株式を会社が買い取るか、会社が指定する方に買い取らせて」と主張することが可能です。
会社が買い取る場合、その資金が配当可能利益の範囲内であることが前提となります。
また、買取価格が論点になるのですが、これはその株主との交渉次第という側面もあり、揉めると裁判所に買取価格決定の申し立てをするという流れになるので注意が必要です。
これを避けるために第三者の算定機関に株式価値算定を依頼することもあります。
株式譲渡制限会社になるには
こちらはシンプルで、定款で「株式の譲渡には会社の承認を要する」旨を規定します。
譲渡制限対象を株式全部とするか、(特定の)種類株式のみとするかもあわせて規定することが一般的です。
以下、最も一般的だと思われる取締役会設置会社における譲渡手順について記載します。
1.株式譲渡承認請求
譲渡制限株式を譲渡しようとする株主または譲渡を受ける予定の者(以下、取得者)は、会社に対して株式数や譲受人の氏名を明記して「譲渡による取得を承認するか否かの決定」を求めます。
2.取締役会開催
取締役会にて、①の請求の可否を判断します。
3.株式譲渡承認の通知
株式譲渡の承認が下りた場合、その内容の通知を2週間以内に取得者に対して行います。
4.株式譲渡契約書の締結
株式譲渡の契約主体は株主と取得者の2者間となります。会社は契約主体ではないのですが、契約書の原案を会社が用意することで当該契約が会社に不利にならないかチェックすることができます。
5.株主名義書換請求/株主名簿記載事項証明書交付
取得者は会社の株主名簿に自分の氏名などが記載されているのかを知るため“株主名簿記載事項証明書”の交付を請求し、会社はそれに応じる形で、株主名簿が書き換えた証拠として“株主名簿記載事項証明書”を交付します。
株式譲渡契約書の締結をもって手続き完了ではない点に注意が必要です。
まとめ
譲渡制限の付いた株式の売買は会社法に沿った手続きが必要であるため、それに沿わずに譲渡を実行した場合は無効となり得ます。
本コラムで概要を記載しましたが、会社のガバナンス形態によっても手続きが異なるため、弁護士や司法書士からアドバイスを受けながら、抜けなく漏れなく手続きを進めることを強く推奨します。
坂本 隆宣