起業家、経営者にとって大事なのは、世の中を見抜く力です。1つの事象をどう捉えるかで、ものの見え方も、そこから得られる情報も大きく変わります。そうした「着眼点」、実はトレーニングによって鍛えることができるのです。累計20万部を超えるベストセラーとなった『戦略思考トレーニング』シリーズでおなじみの経営コンサルタント・鈴木貴博氏に解説してもらいましょう。
経営者に必要な「着眼点」の鍛え方 第46回・USJで並ばずに遊ぶ唯一の方法とは
いきなりですが、クイズです!
値段が上がったのが原因なのは間違いありません。それがどうして失敗と言われるような事態になってしまったのか、業態の特徴なども加味して、もう少し突っ込んで考えてみましょう。
クイズの答えの中に、着眼点を鍛えるポイントがある
創業から30年近く、一律280円で商品を提供してきた人気の焼き鳥屋「鳥貴族」。どの商品も値段のわりにボリュームがあり、分かりやすい価格設定ということもあって、入れ替わりが激しい外食産業において、高い人気を誇るチェーン店の1つです。
そんな同社が、食材の仕入れ価格高騰を理由に2017年10月より一律298円均一に値上げしたのですが、以降はなかなか苦戦を強いられているようです。色々な角度からその評価はできますが、単純に客足が遠のき、値上げ前と比べて利益が大きく減少してしまったため、「値上げをしたことは失敗だった」と評されています。
それまでは大倉忠司社長の経営手腕はどちらかというと評価が高く、同じ経営スタイルを真似るお店が出ていたくらいでした。
確かに値上げは消費者からしたら残念なことではあります。しかし、値上げしたのは鳥貴族だけではないわけで、なぜそんなに評価が下がってしまったのか、なかなか興味深いですよね。
それでは解説します!
「鳥貴族」の大きな特徴は、均一価格で商売していることです。実はここに理由がありました。
すごく人間心理的な話ですが、一律280円を一律298円に値上げしたことで、「全品値上げした」ことがはっきりと分かってしまったのです。
実はこれ、普通の居酒屋や飲食店では起こらない現象です。均一価格ではないため、一部のメニューを少しずつ価格改定するといった、調整しながら値上げができるからです。「ハイボールだけ50円値上げした」「焼き鳥を1本120円に値上げした」といった調整は、消費者からしたらなかなか分かりにくいですよね。つまりバレにくいわけです。
しかし、鳥貴族のように均一価格の商売をしていると、大々的に全品値上げすることを公言してしまうことになるわけです。結果、「高くなった」という印象を消費者に与えやすくなってしまいます。
「鳥貴族」のお店に行ったことがある人は分かると思いますが、もともと値段のわりにボリュームがあって、そこが支持されていた1つの大きな要因でもあったわけです。ですから、298円になったとしても、評価に個人差はあるかもしれませんが、決して高すぎるとは思えません。
実質6.4%の値上げということで、数値的にもそれほど大きな値上げではないといえます。それでも、「全品値上げ」というインパクトの方が印象に残るあまり、「鳥貴族は高くなった」と受け取られ、客足が遠のいてしまったわけです。
実は変動リスクが大きいビジネスだった
同じような値上げが、つい先日も起こっています。ヘアカット専門店の「QBハウス」が、今年2月1日から「10分1200円(税込み)」に値上げしました(シニア割りは税込み1100円)。これも同様に、値上げしたことが一瞬でバレてしまうパターンですよね。
特に同社の場合、「10分1000円ビジネス」の走りとして業界を牽引していたわけですから、値上げによって企業ブランドの印象が変わるかもしれません。今後どうなっていくか、注目です。
均一ビジネスの元祖ともいうべき100円ショップでも、かつてよく似た現象がありました。リーマンショック後に起こった原油高により、プラスチック製品の原材料費が高騰。結果、製品を小さくしたり、商品ラインナップから外したりという対応を余儀なくされたのです。
この100円ショップのケースでは、「値上げする」という選択はしていません。しかし、まさに経営危機的な状況だったのは想像に難くありません。均一価格のビジネスが抱える難しさが見て取れますよね。
今回の話のポイントは、均一価格の業態は、うまくいっている時は消費者に刺さりやすく、分かりやすいビジネスなので問題は少ないが、実は変動リスクが大きいということです。
今後、働き方改革が進めば人件費は今以上に上がるでしょう。消費税も上がるかもしれません。為替の変動も激しいですし、国際的に商品相場がいつ変わるか分かりません。こうした大きな変化が起こり得る時代においては、均一価格の商売は、思わぬ危険をはらんでいるのです。
商品やサービスの価格を決めるのは難しい
どの事業においても、商品やサービスの価格を決める・変えるというのは、起こり得ることです。それだけに、判断を間違えてしまうと、大打撃を食らう可能性があります。
1ついえるのは、低成長の時代において、「これっきり」という均一価格のビジネスは成長の余地を多分に含んでいるのは間違いないということ。しかし、最近は色々なリスクが出始めているということも、同時に頭に入れておく必要がありそうです。
最後に、もうお分かりだと思いますが、冒頭のクイズの答えは、「全品値上げしたことが一発でバレたから」でした。ちなみに、値上げをしないかわりに、商品の分量を減らしたり、サイズを小さくして値段を据え置く「プチ値上げ」がよく行われますが、あれだって消費者には全てバレているのです。変化にどう対応していくかは、経営者の頭を常に悩ませますね。
経営戦略コンサルタント
百年コンサルティング株式会社
代表取締役
鈴木貴博