起業家、経営者にとって大事なのは、世の中を見抜く力です。1つの事象をどう捉えるかで、ものの見え方も、そこから得られる情報も大きく変わります。そうした「着眼点」、実はトレーニングによって鍛えることができるのです。累計20万部を超えるベストセラーとなった『戦略思考トレーニング』シリーズでおなじみの経営コンサルタント・鈴木貴博氏に解説してもらいましょう。
経営者に必要な「着眼点」の鍛え方 第45回・「改善」を怖がるな
いきなりですが、クイズです!
前回の数字はあまり気にせずに、一度考えてみてください。どんなコンセプトで行うのかにも関わってくる話ですから、とりあえず「自分が企画するなら」という視点でいろいろと発想してみてくださいね。
クイズの答えの中に、着眼点を鍛えるポイントがある
一定の年齢以上の方であれば、1970年に開催された前回の大阪万博のことをよく覚えているのではないでしょうか。中には実際に足を運んだという人も多いかもしれませんね。私も当時小学生で、親に頼んで連れて行ってもらいました。
ただ、記憶に残っているのは「太陽の塔」のイメージと、とにかく混雑していたことのみ。実際、あの万博はどのパビリオンも、とにかく来場者を並ばせていました。一日いたとしても、長いこと並んだ末にパビリオンを3つほど見るだけで終わってしまう…なんてことが当たり前だったのです。
はたして、2025年の万博はどうなるのでしょうか。
それでは解説します!
前回の反省を踏まえてなのか、2025年の大阪万博の方針として「待ち時間のない万博」が掲げられています。IoTなどの技術を使って施設の空き状況を“見える化”するのだそうです。
こうした最新技術を駆使した企画がいろいろと打ち出されているのですが、その中で特に興味深かったのが、「VRを使った体験」の話です。どうやら、現地に行かなくてもVRによって会場の雰囲気やパビリオンが体験できるシステムを導入することが1つの目玉で、そういう意味で「世界の80億人がバーチャル来場者として参加する万博を目指す」と語っているのだとか。
そういうわけですから、もしかしたら前回のような大混雑はなくなるのかもしれませんね。
さて、混雑という話で先日とあるIT企業の社長さんから面白いことを聞きました。人気のアミューズメント施設「ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)」では、彼曰く「全てがお金で解決できる」んだそうです。ファストトラックのパスをひたすら買うことで、どのアトラクションも一切並ばずにすぐに楽しめて、一日を有効に使えるのだというのです。
では、そのパスを全部買ったらいくらになるのか。「夫婦で10万円ほど」なんだそうです。忙しい社長さんが限られた休日の中で家族サービスをする場合、それくらいの金額は出せるのかもしれません。面白いのは、そうした人がいることをある程度想定した上で成り立っているビジネスモデルに違いないということでしょう。
「ただ一律に待たせる」だけが全てではない
重要なポイントは、ビジネスを考えるときには「組み合わせ」が大事だということです。いろんな選択肢を用意した上で、可能性を考えながら組み合わせて提供していくのが有効だというわけです。
今回は「混雑」「並ぶ」というお話をしていますが、「ただ一律で待たせる」だけでなく、「待たないといけないもの」に対していろんな自由度を持って対応していける時代だということです。
1つ例を挙げましょう。先日、ドコモショップが完全予約制にする方針を打ち出しました。お店には日々いろいろなお客さんが訪れますが、新規で携帯を買う人は何かと接客に時間がかかるため、それを見越して予約制にするのでしょう。
とはいえ、「壊れたのですぐ修理をしてほしい」という人も当然いるはずです。そういう場合は緊急で対応する余地を残しています。つまり、「じっくり対応するお客」「急ぐお客」というように、それぞれが満足するために最適な方法を考えてサービス設定されているのです。
そうやってニーズに応えるかわりに、ドコモのように予約制にしたり、USJのようにプラスアルファのお金を払わせたり、VRを利用することで現地に行かずに済んでしまうみたいな別の手段を考えたり…といった、いろんな選択肢を自由に用意して対応するのが有効だということですね。
お金を払えば行列店に並ばなくていい時代がくるかもしれない!?
西麻布に「権八」という人気の居酒屋があります。映画「キル・ビル」の舞台のモデルになったこともあり、外国人にも非常に人気でいつも賑わっています。
このお店の2階には、店内が一望できる桟敷席があって特に人気なのですが、この席に座るためには1人あたり一定額以上の注文が必要になるのだそうです。つまり、同じお店なのに座席によって値段が違うわけですね。それでも成り立っているのは、需要がきちんと満たされているからです。
そういう意味では、USJのように別料金を払えば行列店でも並ばずに食べられるなんてサービスも、もしかしたらアリなのかもしれません。
これまでなら「やってはいけない」と思っていたような価格設定やサービス設定であっても、一歩踏み込んで思い切って変えてみると、意外と有効に働く場合があるはずです。あなたのビジネスでもできることがないか、ぜひ考えてみてください。
最後に、もうお分かりだと思いますが、冒頭のクイズの答えは、「80億人」でした。ちなみに、2020年の東京オリンピックに向けたいろいろなビジネスチャンスの話が話題になっていますが、2025年の大阪万博においても同様でしょう。何か新しいビジネスの芽が拾えないか、いろいろな視点からチェックしてみてくださいね。
経営戦略コンサルタント
百年コンサルティング株式会社
代表取締役
鈴木貴博