起業家、経営者にとって大事なのは、世の中を見抜く力です。1つの事象をどう捉えるかで、ものの見え方も、そこから得られる情報も大きく変わります。そうした「着眼点」、実はトレーニングによって鍛えることができるのです。累計20万部を超えるベストセラーとなった『戦略思考トレーニング』シリーズでおなじみの経営コンサルタント・鈴木貴博氏に解説してもらいましょう。
経営者に必要な「着眼点」の鍛え方 第39回・機内食の量が減ると得をするのは誰か
いきなりですが、クイズです!
お店を利用したことがある人は、その特徴を思い浮かべてみてください。そうすれば答えに近づけるかもしれませんね。
クイズの答えの中に、着眼点を鍛えるポイントがある
「激安の殿堂」のキャッチフレーズでおなじみの、総合ディスカウントストア「ドン・キホーテ」。利用したことがある人は分かると思いますが、他のチェーンにはない、面白い仕掛けが満載のお店です。
中でも有名なのが、宝探しを楽しむような「圧縮陳列」。そして、独特のデザインで作られた大量の「POP」の数々です。
圧縮陳列は販促手法としてもよくできていて、真似するお店もあるようです。POPについては、それを作るための人を専門職として雇っているそうですから、気合いの入りようが分かります。
それでは解説します!
圧縮陳列やPOP以外にもドン・キホーテにはいくつか特徴がありますが、今回のクイズでとても重要なのが、「24時間営業」である点です。夜中にお店に行ったことがある人は分かるかもしれませんが、店内には終電が終わった後の時間潰しをしている人がたくさんいるのです。
ここでポイントなのは、夜中に買い物に来る人は、日中に来るお客とは明らかに違う購買感覚があるといわれていることです。
夜中にドン・キホーテに足を運ぶ人は、どちらかというと「レジャー感覚」が強いといわれていて、商品を見たり買ったりすることを特に楽しむ傾向にあります。「この商品、馬鹿だねー」とか「面白そうだから買ってみようか」というノリで、日中なら買わないであろうものを購入することが多いんだとか。
いわば「ハレ(非日常)」と「ケ(日常)」でいうところの「ハレ」の状態ですから、値札の価格が適正価格かどうかも気にせずに買い物をするケースが多く、客単価も高めだそうです。
つまり、ドン・キホーテはハレとケの「ケ」だけでなく「ハレ」の需要もちゃんと取り込めているというわけですね。だから二度おいしいといわれているのです。これが「倍儲かる仕組み」の理由であり、カラクリです。
今回の学びは、「ハレ」のビジネスなら「ケ」を、「ケ」のビジネスなら「ハレ」を、うまく取り込むことでビジネスを拡大していけるのではないかということです。
なぜ日本のギャンブル場にはブランド店が併設していない?
先日、仕事でラスベガスに行ってきたのですが、ラスベガスのような統合型リゾートには、必ず一大ショッピングモールが併設されています。実はこれも同じ仕組みです。
つまり、カジノでお金を儲けて喜んで帰っていく人は、ハレの勢いそのままに、無駄な買い物をすることも含めて楽しむわけです。カジノのビジネスモデルは、ただカジノを開いて寺銭を取っておしまいではなく、勝った人たちにいかに喜んで帰ってもらうかも重要な任務であり、そのために必ずショッピングモールのようなお金を使う場所が用意されているというわけですね。
これは、海外では非常に当たり前のことなのにもかかわらず、どちらかというと日本ではあまり行われない気がしています。もしかしたら、こういう商売の仕方があまり得意ではないのかもしれません。
例えばパチンコ屋の横にドン・キホーテのようなお店があれば、儲けたお金でついつい無駄なものでも買っていく人がいそうですよね。
競馬場だって、「おけら街道」を歩いて帰る人の中には、大儲けした人もいるわけですから、ブランド品のお店の1つや2つあってもよさそうなのに、何もないところがほとんどです。
「ハレ」といえば、七五三や成人式などがまさにそうですよね。写真館で写真を撮る人も多いでしょうから、そのついでに何かお金を落としてもらえる仕組みを考えてみるのも、面白いかもしれません。
カジノができたらビジネスチャンスも増える!?
2018年7月に統合型リゾート整備推進法案が成立したため、日本にもいずれカジノができることになりそうです。今のところまだ立地場所は決まっていませんが、海外を見習って近くには大型ショッピングモールが併設されることでしょう。
カジノができることで、いろんな影響が考えられそうですが、「ハレとケ」の視点で見てみると、違った発見ができるかもしれません。そして、それがビジネスチャンスになる可能性も多いにあるということです。
最後に、もうお分かりだと思いますが、冒頭のクイズの答えは「ハレとケの両方の需要を取り込んでいる」でした。ちなみに、同じく24時間営業をしていても、コンビニの目指すところは真逆です。無駄な物は置かず、品目を絞り込んで効率経営に徹しています。同じ営業の仕方でも、やり方はいろいろあるということですね。
経営戦略コンサルタント
百年コンサルティング株式会社
代表取締役
鈴木貴博