起業家、経営者にとって大事なのは、世の中を見抜く力です。1つの事象をどう捉えるかで、ものの見え方も、そこから得られる情報も大きく変わります。そうした「着眼点」、実はトレーニングによって鍛えることができるのです。累計20万部を超えるベストセラーとなった『戦略思考トレーニング』シリーズでおなじみの経営コンサルタント・鈴木貴博氏に解説してもらいましょう。
●経営者に必要な「着眼点」の鍛え方 第22回・ヤッターマン警察
いきなりですが、クイズです!
ヒントは、当たり前ですが「それをもらうとお店に行きたくなるもの」です。ちなみに日本にも同じものがあります。皆さんがもらって嬉しいものは、どんなものでしょうか?
クイズの答えの中に、着眼点を鍛えるポイントがある
あらゆる分野でAI(人工知能)が使われ始めています。特にビッグデータを使ってデータ解析がしやすい集客などの分野では、世界中でいろいろな実験や研究が行われているようです。
集客のための1つの事例として、アメリカのとあるスーパーでは、チラシやクーポンの効果についての調査、分析が行われたといいます。
リピート率を高めるためにはどんなチラシやクーポンが効果的なのか。どのタイミングで、どういうお客さんに渡すのがいいのか。いろいろなデータをとった結果わかったことの1つが、今回のクイズです。
それでは解説します!
皆さんも、お店で買い物をした際にいろいろなクーポンをもらうことがあると思います。特定の商品が安く買えたり、「次回使える○%割引き券」みたいなものや、他のお店で使える割引券など、さまざまですよね。
調査によると、いろいろと発行したクーポンの中でもっとも反応がよかったのが、「期間限定ポイント」でした。つまり、「○月○日まで使える10ドルのキャッシュ」をクーポンとして配るのが、最もリピート率が高かったんだそうです。
ポイントカードに入会して最初の購入額がある程度まとまってあり、なおかつ住所がお店に近い人を対象に、AIがクーポンを発行したのだそうですが、結果、見事に多くの方がクーポンを持って再度来店したといいます。
配布したのは、「1000円あげたのでこの期間に使わないとなくなりますよ」というクーポンなわけですが、これは「お店に来たら1000円割引しますよ」ということと言ってみたら同じなわけです。なのに、後者の「お店に来たら1000円割引」のクーポンと比較して、キャッシュでプレゼントした方が、行動率が高かったんだそうです。
なぜでしょうか。それは、「もらったキャッシュ(お金)がなくなるのが嫌だ」という心理が働いたからです。
別に実物の現金をもらったわけではありませんし、クーポンだから使わなくても別に損するわけではないのに、そう思ってしまうというところが、とても面白いなあと思いました。
スマートフォンの普及によりクーポンの可能性が広がっている
このような期間限定のキャッシュを配る施策は、日本だと携帯電話関連のサービスや、インターネット通販などではよくあるものです。
例えば、携帯電話会社の中には、月の頭にその月内に使える500円分のクーポンを配布するところがあります。それをもらってしまうと、「何かで使わなきゃ」と思って無理にでも使っちゃうわけですね。
この手法、リアルの店舗ではなかなか普及しませんでした。クーポンの管理が難しく、人にあげることもできてしまうため、来店したのが本人なのか、確認する術がなかったからです。
しかし、今はスマートフォンが普及したことでクーポンなどの配布もしやすくなり、1対1で管理もしやすくなりました。しかも、利用したかどうかがデータで蓄積できるなど、いろいろな面で便利になったのです。今後もクーポンの普及は見込めそうですよね。
世界から見たら、実は日本は後れている
クーポンやチラシを使った集客は、一見我々の生活では当たり前のように感じるかもしれませんが、リアルな店舗でそういった期間限定のキャッシュを配ることは、実はまだまだ行われていないようです。
しかも、海外の方がこうした施策は進んでおり、日本はだいぶ後れをとっていると言われています。
今回ご紹介した事例を参考に、配るならどんなものがよさそうか、自分の商売ならどんなことができそうか、ぜひ考えてみてくださいね。
最後に、もうお分かりだと思いますが、冒頭のクイズの答えは「期間限定ポイント」でした。最近はあまり見かけなくなりましたが、行くたびに無料券をもらって毎回安く食べ続けられる飲食店が、昔はよくありましたよね。あれはあれで絶好の集客のための施策ではありますが、データや効率性を重視する今の世の中では、なかなか実現しにくくなっているのかもしれません。時代とともになくなるサービスの1つ、なのかもしれませんね。
経営戦略コンサルタント
百年コンサルティング株式会社
代表取締役
鈴木貴博