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経営者に必要な「着眼点」の鍛え方 第21回・広がる元日休業

経営者に必要な「着眼点」の鍛え方 第21回・広がる元日休業

起業家、経営者にとって大事なのは、世の中を見抜く力です。1つの事象をどう捉えるかで、ものの見え方も、そこから得られる情報も大きく変わります。そうした「着眼点」、実はトレーニングによって鍛えることができるのです。累計20万部を超えるベストセラーとなった『戦略思考トレーニング』シリーズでおなじみの経営コンサルタント・鈴木貴博氏に解説してもらいましょう。

いきなりですが、クイズです!

今から40年以上も前の1976年に、「おせちもいいけどカレーもね!」という、ハウス『ククレカレー』のCMが大人気となりました。さて、このCMが大きな話題となったのには、どのような時代背景があったのでしょうか?

ちなみに、CMには当時大人気だったキャンディーズの3人が出演していましたが、理由はそれだけではありません。当時のお正月の過ごし方がどうだったのか、そこから答えを導き出してみてください。

クイズの答えの中に、着眼点を鍛えるポイントがある

飲食や小売りなどの業界で、1月1日の営業をやめる「元旦休業」の是非が話題となっています。24時間、365日、稼働し続けるのが当たり前の今の世の中では、お店がやっていないのは不便だと、休業を反対する声も多いようです。

しかしよく考えてみたら、私がまだ学生だった1980年代は、大晦日の午後から1月3日くらいまではほとんどのお店はやっていませんでした。そのため、年末にいろいろなものを買い込んでおくのが普通でしたし、正月の三が日は、作っておいた「おせち料理」をひたすら食べて過ごすのが当たり前だったのです。

とはいえ、ずっと同じものを食べているのでは飽きてしまいます。1月2日の夜くらいになると、冷凍していたお肉などを焼いたりして、何か違うものを食べようと考えたものです。

それでは解説します!

大塚食品が日本初のレトルトカレー『ボンカレー』を発売したのが、1968年。その後、1971年にはハウスが『ククレカレー』を発売しています。しかし、当時はレトルト食品といっても非常食に近い感じで、カレーに入っているお肉もパサパサしていて、決しておいしいものではありませんでした。

それが、各社の企業努力のかいあって、ディナーに出してもひけをとらないおいしいカレーに進化していきました。レトルト食品が一般的でなく、どこか「手抜き料理」の印象が拭えなかった時代に、「実はそれ以上の何かがあるのではないか」と思わせたのが、「おせちもいいけどカレーもね」というCMでした。

そして何より、当時はお正月にあいているお店はどこにもなかったのです。仕方なく目の前にあるおせち料理を食べるしかなかった時代に、そのフレーズ通り、おせちに飽きた時の選択肢として登場したのがレトルトカレーだった……というわけなのです。

何かをやめることで、他の何かに専念・集中できるメリットが!

お店が開いていれば確かに便利です。しかし、私は「正月休業」は大いにアリだと思っています。

なぜなら、私は営業時間にも「パレットの法則(2:8の法則)」は当てはまると考えているからです。つまり、売り上げの8割は全営業時間のうちの2割で生み出すことが可能であり、お店を開け続けなくても、思い切ってその2割の時間にフォーカスすることで売り上げはきちんと確保できる…というのが私の考えです。

私は経営コンサルタントをしていますが、最も効果が出て、クライアントにも喜ばれるのが「○○をやめてはどうですか?」というアドバイスです。

最初は「やめたらチャンスを逃して売り上げが下がるんじゃないか」と嫌がられます。しかし、何かをやめることで、もっと大切にしなくてはいけないことに時間や意識を集中させることができます。結果、やめる前よりも売り上げや商品・サービスの質を上げられるケースが多いのです。

たとえば自動車メーカーのスバルは、かつては使い勝手のいい軽自動車をたくさん作っていましたが、ある時を境に思い切ってその生産をやめたことで、売り上げを伸ばしたといいます。

スバルが得意とするSUV車と軽自動車とでは、作り方が全く違います。いかにコストダウンするかがポイントだった軽自動車をやめることで、大きくて走りのいい自動車の研究開発に専念できるようになりました。その結果、生産する車の質が上がり、世界中で高い評価を得るまでになったのです。

また、呼ばれればどこにでも行ってマジックを披露する、スティーブ・コーエンというマジシャンの話も印象的です。彼は「このままではダメだ」と思い立ち、自分自身を「億万長者に呼ばれてマジックをするマジシャン」と再定義し、スケジュール帳を埋めるためだけの仕事は全て断るようにしたというのです。

そうしてできた自由な時間を使って、彼はお金持ちの人を喜ばせるためのトーク術を磨いたり、超一流の人の気持ちを理解するための勉強をしたのです。結果、彼は大成功を収めました。

何かをやらないと決めることで、自分のスキルを磨く時間ができ、結果としてやりたいことができるようになる。すると、ビジネスも上手く回り始める。これらのケースから、そういったことが学べるのではないでしょうか。

「正月休業」を聞き流さず、自分ごとに置き換えてみる

つい先日も、三菱UFJ信託銀行が新規住宅ローンからの撤退を発表しました。銀行にとっては大きな決断に間違いありませんが、マイナス金利で採算が悪化する中、富裕層向けの資産運用など、より収益性の高い分野に経営資源を集中させることができれば、逆に勝機は多そうです。

「ランチ営業をやめてディナーに専念したことで質が上がって集客につながった」といった飲食店でよくある話も同様で、何かをやめるという選択肢の裏には、他の何かに専念・集中できるというメリットがあります。そこを見極められれば、何でもかんでもやる必要はなくなるというわけですね。

「正月営業をやめる」というニュースをただ聞き流すのではなく、自分ごとに置き換え、自分だったら空いた時間をどう使うのかを考えてみることは、事業をするうえで非常に大切なことではないかと思います。

最後に、もうお分かりだと思いますが、冒頭のクイズの答えは「正月はどこもお店がやっていないので、おせち料理以外に食べるものがなかった」でした。

ちなみに、ククレカレーの名前の由来は「調理しない」という意味のクックレスからきているそうです。また、『ボンカレー』は世界初の市販用レトルトカレーだったことから、その発売日である2月12日は「レトルトカレーの日」として登録されています。最近のレトルトカレーは本当においしくなったので、2月12日にはぜひとも食べてみてくださいね。


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プロフィール写真

経営戦略コンサルタント
百年コンサルティング株式会社
代表取締役
鈴木貴博

東京大学工学部卒業後、ボストン・コンサルティング・グループに入社し、数々の大企業の戦略立案プロジェクトに従事。1999年にはネットイヤーグループの創業に取締役として参加。2003年に独立し、百年コンサルティングを創業する。大手企業の経営コンサルティング経験を元に2013年に出版した『戦略思考トレーニングシリーズ』(日本経済新聞出版社)が累計20万部を超えるベストセラーに。現在はビジネスをエンタメクイズ化する経済エンタテナーとしても活動中。『パネルクイズアタック25』(優勝)、『カルトQ』などのクイズ番組出演経験も豊富。近著に『仕事消滅 AIの時代を生き抜くために、いま私たちにできること』 (講談社+α新書)。

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