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経営者に必要な「着眼点」の鍛え方 第5回・マーケティングの罠

経営者に必要な「着眼点」の鍛え方 第5回・マーケティングの罠

起業家、経営者にとって大事なのは、世の中を見抜く力です。1つの事象をどう捉えるかで、ものの見え方も、そこから得られる情報も大きく変わります。そうした「着眼点」、実はトレーニングによって鍛えることができるのです。累計20万部を超えるベストセラーとなった『戦略思考トレーニング』シリーズでおなじみの経営コンサルタント・鈴木貴博氏に解説してもらいましょう。

いきなりですが、クイズです!

Q.「ケンタッキーフライドチキン」の店頭から、“カーネルおじさん”ことカーネル・サンダースの立像が撤去されることが増えているといいます。さて、その理由はなぜでしょうか?

自由に発想して、答えとその理由を考えてみてくださいね。

クイズの答えの中に、着眼点を鍛えるポイントがある

ケンタッキーフライドチキンの前に、マクドナルドの話題からスタートしましょう。

数々の不祥事により、客離れや業績不振、大量閉店などのニュースが話題となったマクドナルドですが、ここ最近は明らかに客足が増え、業績を戻し始めています。そのきっかけとなったのが、2016年のリオ五輪の際に出した応援メニューだと言われています。

2枚のビーフパテや分厚いベーコンを積み上げた「必勝バーガー ビーフ&パイン」、から揚げにした大きなチキンをはさんだ「必勝バーガー チキン&トマト」といったハンバーガーを筆頭に、パテを多めにはさんだ「メガマフィン」や「ダブルフィレオフィッシュ」など、ボリューム感たっぷりのジャンク度が増したメニューが、オリンピック期間に限定販売されたのです。

これらの商品は瞬く間に話題となり、「待ってました」といわんばかりに多くの人たちが殺到。見事に客足が戻るきっかけになったのだとか。

それまでは健康の時代だからとヘルシーなメニューに力を入れるなど、迷走感があったマクドナルドでしたが、お客さんが求めているのは結局のところ「ジャンク」だった…というオチだったわけですね。

それでは解説します!

話をケンタッキーフライドチキンに移しましょう。ケンタッキーの店頭にいる、おなじみのカーネル・サンダース氏を模してつくられた立像が、全国のあちこちの店舗で撤去され始めているというのです。

立像は同社のトレードマークであり、多くの人があれを見るとケンタッキーフライドチキンを思い出すはずのものです。なのに、なぜそれを撤去するのか。

実は、あの立像を見て「ケンタッキーフライドチキンは太ったおじさんが食べるものだ」という印象を持つ人がいるため、それを嫌ったというのです。

油こってりのイメージを払拭するために立像を撤去し、さらに看板もおじさんの顔をかわいく使ったロゴに変えて、印象を変えようと取り組んでいるのだとか。メニューについても油を抑えたものを投入し、ヘルシーさを打ち出すなどいろいろ取り組んでいるようです。

しかし、一番売れているのはやはり定番のフライドチキンで、そこを脅かす商品は出ていないと言われています。

この2つの事例から学ぶべきは、「マーケティングの罠」という視点です。

よく「顧客の方を向いて商売をしよう」とか「顧客第一主義」などといいます。その一方で、どこまで「自分らしさ」を出すのかは、とても重要で難しい問題です。

自分らしさ、つまり「エゴ」の部分は起業家にはとても大切なものです。「自分はこういうものを売りたい」「自分ならこういう価値が出せる」という視点を抜きにして、お客さんの方ばかりを見て商売をすると、失敗することもあるというわけです。

ジャンクなメニューで復活したマクドナルド。定番の油こってりのチキンが人気のケンタッキー。これらのケースから、「顧客視点」と「エゴ」のバランスの難しさがわかるはずです。

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ジャンクフードは体に悪くない!?

最近では、ジャンクフードに対する見方が変わってきています。たとえば、マクドナルドのメニューは健康に悪いものの代名詞のように言われてきましたが、実はそれが最近否定されつつあります。

マクドナルドのメニューだけを食べ続けると健康に影響が出ることを伝えたドキュメンタンリー映画もありましたが、どうやら健康に影響を与えていた真犯人は「糖分」だったのではないかとする説が言われ始めています。

また、コレステロール分の高いものを食べるとコレステロールが体に溜まるというのは、どうやら嘘らしいという話もあります。血管の中で悪さをするコレステロールのほとんどが実は体内で生成されているもので、脂身や卵の黄身といったコレステロール分が高いものを食べることが体に悪いとは、一概に言えないのだそうです。

ですから、ファストフードを食べる際、飲み物を糖分ゼロのものにすれば健康を気にする必要はないとも言えます。これは、ジャンクフードに追い風が吹いているともいえる状況です。

こうした風潮がマーケティングにどれだけ加味されているかは不明です。しかし、そういう真逆の動きが起こることも事実ですから、何が起こるかわかりませんよね。どこを向いて商売をするかは、難しいと言わざるを得ません。

「ジャンク」には乗るが、「安さ」には乗らない!

1つマクドナルドの取り組みでうまいなと思うのは、顧客がマクドナルドに求めているもう1つの要素、つまり「安さ」というところには振り切っていない点です。

逆にいえば、顧客が求めているもので「乗るもの」と「乗らないもの」を決めることはとても重要だというふうにも言えます。そして、たとえば価格競争などには乗らないと決めることも、重要な見識だというわけですね。

マクドナルドの再建にあたっては、あらゆるコンサル会社や経営者によってあの手この手が尽くされましたが、結局は「ジャンクな食べ物を取り戻す」という“原点に戻ること”が復活へのカギとなりました。

時流に乗れなければ勝てないとか、マーケティングをきちんとしなければいけないとか、商売をするうえではいろいろな話がありますが、最終的には「強み」のあるところに戻っていくんだということを、マクドナルドやケンタッキーのケースは教えてくれるのではないでしょうか。

最後に、もうお分かりだと思いますが、冒頭のクイズの答えは「人形を見て、太った人が食べるものだという印象を持つ人がいるから」でした。ちなみに、日本KFCホールディングス株式会社のホームページには、「立像はカーネルの60歳の時の姿をそっくり真似てつくった」「立像を店頭に置くのは日本独自のスタイル」「かけている眼鏡は本物の老眼鏡で、福井県鯖江製」といった情報が掲載されています。


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プロフィール写真

経営戦略コンサルタント
百年コンサルティング株式会社
代表取締役
鈴木貴博

東京大学工学部卒業後、ボストン・コンサルティング・グループに入社し、数々の大企業の戦略立案プロジェクトに従事。1999年にはネットイヤーグループの創業に取締役として参加。2003年に独立し、百年コンサルティングを創業する。大手企業の経営コンサルティング経験を元に2013年に出版した『戦略思考トレーニングシリーズ』(日本経済新聞出版社)が累計20万部を超えるベストセラーに。現在はビジネスをエンタメクイズ化する経済エンタテナーとしても活動中。『パネルクイズアタック25』(優勝)、『カルトQ』などのクイズ番組出演経験も豊富。

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