起業家、経営者にとって大事なのは、世の中を見抜く力です。1つの事象をどう捉えるかで、ものの見え方も、そこから得られる情報も大きく変わります。そうした「着眼点」、実はトレーニングによって鍛えることができるのです。累計20万部を超えるベストセラーとなった『戦略思考トレーニング』シリーズでおなじみの経営コンサルタント・鈴木貴博氏に解説してもらいましょう。
いきなりですが、クイズです
さて、答えとその理由はわかりましたか?
クイズの答えの中に、着眼点を鍛えるポイントがある
火を起こす時によく使われる木炭というものがありますが、その最高峰として知られているのが「備長炭」です。特に、ナナカマドの木から作られた備長炭は高級品だと言われています。
備長炭はほかの木炭に比べて火力があって長持ちし、いやな臭いや煙が出にくいことから、食材がおいしく焼けると言われています。「○○産備長炭使用」などとアピールする飲食店があるのも納得です。
その木炭ですが、火を起こすのに使うだけでなく、「臭いを取る効果」があることも知られています。吸着効果があるため、炭を置いておくだけで周辺の嫌な臭いを吸い取ってくれるというわけです。
そして、その効果に着目し、炭を使った消臭剤・脱臭剤がたくさん商品化されています。薬局やスーパーでも多種多様なラインナップがあり、売られていますよね。使っている人も多いのではないでしょうか。
このように、1つのものに新たな別の用途を見出して商品化することを「用途開発」といいます。
今回のクイズは、この用途開発がポイントです。
それでは解説します!
木炭の用途として、火を起こすだけでなく消臭剤としても使えることが一般的になりました。
この事例からわかるのは、「同じものであっても、用途によって全く違う商品として売ることができる」ということです。まずはこの視点を、頭に入れておいてください。
では、備長炭を「木炭」で売るのと「消臭剤」で売るのとでは、どちらが高く売れるか。それは、たとえ最高級の備長炭であったとしても、やはり木炭として売る方が安いに決まっています。
つまり、備長炭のままで売るのが一番安く、消臭剤として売ることでさらに高く売れるようになる…というわけです。
さらに言うと、たとえば同じ備長炭のカタチを整えてきれいなパッケージに入れ、「炊飯器に入れられるご飯がおいしく炊ける炭」というふうにすれば、消臭剤よりも高く売れます。実際にそういった商品もあります。
面白いことに、同じ炭なのに用途が違うだけで売られる時の値段は全然違ってくるというわけですね。
ほかにもある!身近な用途開発の例
保湿のために塗る「ワセリン」というものがあります。赤ちゃんから大人まで使える万能の医薬品として、薬局などで少し大きなパッケージに入れられたものがよく売られています。このワセリンが最近、「花粉症予防のために塗る薬」として売られるようになったのをご存じでしょうか。
分子構造が多少は違うらしいですが、実際はワセリンとほぼ変わらないはずです。それを綿棒で鼻の穴の粘膜に塗ることで、花粉をブロックできるということなのですが、通常のワセリンと同じような大きな入れ物に入れて売っていては、何度も買ってもらえませんよね。そこで、小さなパッケージに詰めて、1シーズンに数回は買ってもらえるくらいの使い切りサイズにし、「花粉症予防の薬」として販売しているというわけです。
これも、新しく用途を開発した1つのエピソードと言えそうです。
ほかにも、軽くて強い素材であるために戦時中にはパラシュートに使われた合成繊維が、その後はナイロンとしてストッキングなどに使われるようになった話は有名です。
また、トウモロコシ農家がトウモロコシを家畜の餌として売るよりも、ガソリンの代替になるバイオマスエタノールの原料として売った方が高く売れるようになった、という話も同じですね。
繰り返しになりますが、同じものを売るにしても用途や効用が違えば新たな市場が開拓できます。そして、同じものであってもより高く売ることができるようになるわけです。
用途開発とは、れっきとした新規事業・新商品開発のための手法です。ですが、難しいことは抜きにして、1つのものを違った角度から捉えたり、別の強みを強調したりすることで、新しい市場が開拓できたり、人とは違った商売の仕方が可能になる、ということがお分かりいただけたのではないでしょうか。
目の前のものを様々な角度から眺めてみよう
何か商売を始めようと思った時に、「世の中にない商品(サービス)で勝負したい」と考える人は多いと思います。しかし、ゼロから何かを生み出すのは簡単なことではありません。
だからこそ、既にあるものを人とは違った着眼点で見ることが大事になってきます。そうすることで、思わぬビジネスチャンスが掴めるものです。そして、今回の「違った用途に着目する話」は、その着眼点を鍛えるための1つのヒントになるのではないでしょうか。
最後に、もうお分かりだと思いますが、冒頭のクイズの答えは「消臭剤の方が高く売れる」でした。ちなみに私が知っている最も高く売られていた備長炭は、ナナカマドの素晴らしい枝振りをそのまま炭にし、無造作に花瓶に投げ込んだ「オブジェ」です。驚くことに45万円の値段がついていました。もし同じくらいの分量の備長炭を木炭として購入したら、おそらく1000円ちょっとでしょう。そう考えると、用途開発の可能性は無限ですね。
経営戦略コンサルタント
百年コンサルティング株式会社
代表取締役
鈴木貴博