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経営者に必要な「着眼点」の鍛え方 第131回・お得なキャンペーンの裏側

経営者に必要な「着眼点」の鍛え方 第131回・お得なキャンペーンの裏側

起業家、経営者にとって大事なのは、世の中を見抜く力です。1つの事象をどう捉えるかで、ものの見え方も、そこから得られる情報も大きく変わります。そうした「着眼点」、実はトレーニングによって鍛えることができるのです。累計20万部を超えるベストセラーとなった『戦略思考トレーニング』シリーズでおなじみの経営コンサルタント・鈴木貴博氏に解説してもらいましょう。

いきなりですが、クイズです!

今年6月、ドミノ・ピザが「1枚買うと2枚無料」のキャンペーンを行ったところ、あまりの人気から一部の店舗で受付ができなくなってしまったことが話題となりました。このような「1つ買うと、もう1つ無料でついてくる」といったキャンペーンは、お店側やメーカーにとって大きく3つのメリットがあることから、特にアメリカでは非常によく行われています。さて、その3つのメリットとは一体何でしょうか?

クイズの答えの中に、着眼点を鍛えるポイントがある

今年6月にドミノ・ピザが行った「1枚買うと2枚無料」キャンペーンが話題となりました。デリバリーに限り、Lサイズのピザを1枚購入するとMサイズが2枚無料でもらえるというキャンペーンです。

普段よりもお得とあって、想定を超える注文が入ったことから、一部店舗では商品の供給や人手が追いつかずに受付を停止する事態に。さらに、そのリベンジとして翌月に再度同様のキャンペーンを行ったことも話題となったのは記憶に新しいところです。

このようなお得なキャンペーンはいろいろなチェーン店や販売店で実施されていますが、日本だと比較的多いのが、値段を割引したり、購入時にクーポン券などを発行したりて次回無料で1つ提供するような内容のものです。

一方で、ドミノ・ピザのような「1つ買うと、もう1つ無料でついてくる」的なやり方は、実はアメリカでは主流となっていて、マーケティングのキャンペーンとしては非常によく使われるものだといわれています。

それでは解説します!

商品を半額に割り引くことと、同じ商品が次回無料になるクーポンを配布することと、「1つ買うと、もう1つ無料でついてくる」のとでは、一見同じことをやっているように見えますが、そのキャンペーンを通じて得られるメリットはそれぞれ違います。

中でも、「1つ買うと、もう1つ無料でついてくる」場合には3つのメリットがあるといわれていて、それこそがアメリカで主流となっている理由なのです。その3つを順に紹介していきましょう。

1つ目が「売り上げが減らないこと」です。商品は倍の量が出ていきますが、値段を下げているわけではないため、売り上げが減ることはありません。

2つ目が「お客さんが増えやすくなること」。同じ商品が複数手に入るため、誰かにあげたり、分けたりする場合が考えられます。試しにでも使ってもらうことで、その人がお客さんになる可能性も当然出てくるわけです。ピザの場合であれば、「たくさんあるからみんなで分けて食べよう」となり、新たなファンが増えるきっかけになるかもしれません。

そして3つ目のメリットが、「ブランドスイッチが起こりにくいこと」です。手に入ったもう1つの商品がストックとなり、次もその商品を使い続ける可能性が高まります。化粧品やシャンプーなどの日用品だとイメージしやすいと思いますが、あるからと使い続けていくうちになじみが出てきたり商品の良さを実感するようになり、他のブランドの商品にスイッチしにくくなるのです。

もちろん、マーケティング文化の違いなどもあるとは思いますが、こうした理由から、アメリカでは単純な値引きではなく、「一度に2つ商品をあげちゃって、実質半額で提供する」というキャンペーンを行うことが多くなっているのです。

日本国内においても、ドミノ・ピザはアメリカの会社ですし、同様のキャンペーンが行われやすいのは、例えばシャンプーや化粧品、日用品や生活雑貨などを扱う外資系メーカーが多くなっています。そこでは海外のノウハウが活用されているわけですね。

「次回無料」キャンペーンのメリットとは?

最近、コンビニエンスストアでよく見かけるのが、商品を1つ購入すれば次回無料のクーポンがもらえるキャンペーンです。ペットボトルのドリンクや、チョコレートなどのお菓子といった「ちょっとしたもの」が対象になっていることが多いようです。

この場合だと、同時に商品が2つもらえるわけではないため、先ほど挙げたメリットのうち、お客さんが増えることとブランドスイッチへの影響はそれほど大きいものではないかもしれません。しかし、商品を引き換えに再度お店に足を運ぶことになるわけで、それこそが一番の狙いだと考えられます。

要は、コンビニエンスストアの場合は「リピートで次に来てもらうこと」が何より重要だということです。お店に来たついでに他のものを買ってもらう「ついで買い」に期待しているからであり、そのためには非常に有効なキャンペーンといえそうです。

そういえば以前、ペプシコーラが「無料でペプシがもらえる」というようなキャンペーンをやっていて、私もよく買って飲んでいました。商品に貼られたシールからエントリーすると、電子マネーでキャッシュバックされることで商品が実質無料になるというキャンペーンでした。確かに電子マネーの普及には一役買ったのかもしれませんが、誰かに商品を分けることもできず、ストックができるわけでもなく、あれは一体何のメリットがあったのだろうか…と、今更ながらちょっと思ってしまいました(笑)

自社の商売に合ったキャンペーン方法とは

単純に何が一番いい方法なのかといった話ではなく、自分の商売にとってもっともメリットがあるかたちでキャンペーンを仕掛けることができれば、それが一番ですよね。そういう発想を持っておかないと、「安ければ買ってくれるだろう」と安易に値引きキャンペーンをやってしまいがちです。

確かにそれはそれで正しい方法の1つとはいえるものの、個人的には戦略意図が少し足りないのではないかとも思ってしまいます。ぜひ、皆さんの商売においても、できるだけメリットが多く得られそうなキャンペーンを考えてみてくださいね。

最後に、もうお分かりだと思いますが、冒頭のクイズの答えは「売り上げが減らない」「お客さんが増えやすくなる」「ブランドスイッチが起こりにくい」の3つでした。ちなみに、グリコの「パピコ」というアイスクリームは2個入りで売られていますが、あれは、1つは誰かにあげることで「友達を増やす」ためのアイスとして発売されたという説があります。後で食べる用として1つ残しておけるように2つ入っているわけではなく、マーケティング的には「新たなお客さんを増やす」という戦略があるわけですね。


PROFILE
プロフィール写真

経営戦略コンサルタント
百年コンサルティング株式会社
代表取締役
鈴木貴博

東京大学工学部卒業後、ボストン・コンサルティング・グループに入社し、数々の大企業の戦略立案プロジェクトに従事。1999年にはネットイヤーグループの創業に取締役として参加。2003年に独立し、百年コンサルティングを創業する。大手企業の経営コンサルティング経験を元に2013年に出版した『戦略思考トレーニングシリーズ』(日本経済新聞出版社)が累計20万部を超えるベストセラーに。現在はビジネスをエンタメクイズ化する経済エンタテナーとしても活動中。『パネルクイズ アタック25』(優勝)、『カルトQ』などのクイズ番組出演経験も豊富。近著に『戦略思考トレーニング 最強経済クイズ[精選版]』(日本経済新聞出版社)、『日本経済 予言の書 2020年代、不安な未来の読み解き方』『「AI失業」前夜―これから5年、職場で起きること』(ともにPHPビジネス新書)など。

構成:志村 江

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