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経営者に必要な「着眼点」の鍛え方 第124回・「コンビニ飽和時代」の次の一手

経営者に必要な「着眼点」の鍛え方 第124回・「コンビニ飽和時代」の次の一手

起業家、経営者にとって大事なのは、世の中を見抜く力です。1つの事象をどう捉えるかで、ものの見え方も、そこから得られる情報も大きく変わります。そうした「着眼点」、実はトレーニングによって鍛えることができるのです。累計20万部を超えるベストセラーとなった『戦略思考トレーニング』シリーズでおなじみの経営コンサルタント・鈴木貴博氏に解説してもらいましょう。

いきなりですが、クイズです!

最近、無印良品の文房具や食品を取り扱うローソンが増え始めています。また、セブンイレブンも試験的にダイソーの商品を置いたところ好評だったため、全国展開を進めているようです。高品質ブランドと百均という価格帯としては真逆の大手小売店との提携ですが、実は戦略としては同じだと考えられます。さて、この2つの提携に共通するコンビニエンスストア側の戦略的意図とはどのようなことでしょうか?

クイズの答えの中に、着眼点を鍛えるポイントがある

最近、ローソンの店頭で無印良品の商品を見かけることが増えてきました。文房具や靴下、レトルトカレーといった食品などの人気商品がまるで無印良品のお店のように並んでいます。

2020年から主に関東圏の店舗で実験販売を進めていましたが、この5月からは本格的に全国展開するそうです。無印良品のお店に足を運ばなくても、人気商品の多くがローソンでも購入できるようになると便利ですよね。

同様の取り組みとして、セブンイレブンでもダイソーの商品を扱い始めました。ゴミ袋などの清掃用品を中心に、ダイソーの店舗と同じように100円均一で販売されています。

コンビニエンスストアはどんどん便利になるなあと感じますが、実はこの2社の動きにはちゃんとした「戦略的意図」があるのです。

それでは解説します!

ここ最近言われているのが、「コンビニ飽和時代」ということです。日本中の至るところにコンビニエンスストアができたことで飽和状態となり、これ以上出店できるところがなくなりつつあるのだとか。

そんな中で業界全体としてさらに成長しようといっても、お店の数は増やしようがありません。となると、新規のお客さんをよそから取ってくるか、既存客の売り上げを増やすしか方法がないわけです。

今回クイズで取り上げた話は、一見、無印良品とダイソーというよそのお店から新規のお客さんを取ってくる施策に見えるかもしれません。

しかし、「今まではセブンイレブンに通っていたけれど、ローソンに無印良品のものが売っているからこれからはローソンに行こう」という行動にはなりにくいのが実際のところです。もちろんそういう人も少しはいるのかもしれませんが、今回の提携でコンビニエンスストア2社が得る主なメリットは新規顧客増ではありません。

ローソンとセブンイレブンの一番の狙いは、「既存客の売り上げを増やす」ことです。

普段から無印良品やダイソーが好きでよく買い物をしている人が、「よく買う○○がここでも売っているからついでに買っておこう」となれば、1回の買い物に使う金額が増えるわけです。つまり、既存客の売り上げを増やすことにつながります。

結果としてコンビニエンスストアに行く回数は増えるかもしれませんが、新規顧客が湧いてきているとか、新たに呼び込んでいるわけではないですよね。

コンビニエンスストアが飽和している現状から考えると、ローソンやセブンイレブン以外のチェーンでも同じようなことが始まっていく可能性はかなり高いと思います。

例えば、人気のあるワークマンのようなお店や、ユニクロの靴下や肌着のような「多くの人が日常的に買っているもの」が、どんどん店頭に並び始めるかもしれません。「そろそろ買い換えようと思っていたから、ついでに買っておくか」というお客さんが増えることが業界の成長を下支えする、という戦略だというわけですね。

コンビニエンスストア業界の戦略の変遷を追ってみる

コンビニエンスストアがこれまでにどのような戦略をとって拡大してきたのか、その変遷を追ってみましょう。

最初はその名の通り「便利さ」が売りでした。24時間空いていて、何でもそろうお店などなかったことから、まさに新しいビジネスとして注目を集めていきました。

そこから、各チェーンによる店舗数競争が始まります。いかにオーナーを口説いて店舗を増やすか、陣取り合戦のような激しい競争が繰り広げられました。

ただ、それでは頭打ちになってくることが見え始めると、次のフェーズとして、店舗数を増やしながらも「商品力競争」が始まります。いわゆるセブンイレブンの「セブンプレミアム」のように、独自商品を充実させることで集客力を上げていくのです。

そういう意味では、この頃から小売店というよりはメーカー、あるいは製販直営店のようなかたちに近くなっているともいえます。ただ、自社工場で全てを作るというよりは、いろいろなメーカーと提携するかたちで商品力を上げながら、同時に価格も上げて売上単価も上げていったわけです。

そこにも限界がくると、あとは「もっと買わせる」しかなくなっていくわけで、その状況がこれからやってくると考えられます。

他社商品で力のあるものを開拓し、提携しながら売り場を強化していく。間違いなくそういう時代がくるでしょうし、その先駆けが今回取り上げた無印良品やダイソーとの提携だと考えられます。それこそ次は「ユニクロの靴下をどこが獲得するのか?」に注目が集まるのかもしれませんね。

事業のフェーズに合わせて戦略を意識しなくてはいけない

今回のポイントは、事業のフェーズによって何に力を入れるかは違ってくるんだ、ということです。今の皆さんのビジネスが、コンビニエンスストア業界のように他社の商品を売る段階ではなく、その前の商品力で勝負する段階かもしれませんし、もしかしたらその前の出店スピードで競争するところかもしれません。

その時々の戦略を意識することが重要であり、そこにきちんと力を入れていくことが事業拡大につながるんだ、ということですね。

最後に、もうお分かりだと思いますが、冒頭のクイズの答えは「既存客の売り上げを増やすこと」でした。ちなみに、コンビニエンスストアに並べる無印良品やダイソーの商品は、立地や客層に合わせて変えているのだとか。そういうところにお店のカラーが出せたりすれば、店作りの楽しさも広がりますよね。今後の各チェーンの動きにも注目してみてください。


PROFILE
プロフィール写真

経営戦略コンサルタント
百年コンサルティング株式会社
代表取締役
鈴木貴博

東京大学工学部卒業後、ボストン・コンサルティング・グループに入社し、数々の大企業の戦略立案プロジェクトに従事。1999年にはネットイヤーグループの創業に取締役として参加。2003年に独立し、百年コンサルティングを創業する。大手企業の経営コンサルティング経験を元に2013年に出版した『戦略思考トレーニングシリーズ』(日本経済新聞出版社)が累計20万部を超えるベストセラーに。現在はビジネスをエンタメクイズ化する経済エンタテナーとしても活動中。『パネルクイズ アタック25』(優勝)、『カルトQ』などのクイズ番組出演経験も豊富。近著に『戦略思考トレーニング 最強経済クイズ[精選版]』(日本経済新聞出版社)、『日本経済 予言の書 2020年代、不安な未来の読み解き方』『「AI失業」前夜―これから5年、職場で起きること』(ともにPHPビジネス新書)など。

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