みなさんは中小企業というとどのようなイメージをお持ちでしょうか?
テレビドラマで、大手企業に対抗できる高い技術力のある会社が多い、という印象をお持ちの方もいらっしゃると思います。
しかし今、中小企業の先行きが危ぶまれているのをご存知でしょうか?
日本国内の企業数では約99%、従業員数では約70%を中小企業が占めています(総務省「平成 26 年経済センサス-基礎調査」より)。
多くの人が中小企業にかかわっているなか、中小企業の経営者の高齢化が深刻です。
1990年頃と比べ、社長の平均年齢の推移は、年商 500 億円以上の企業が若返りしている一方、年商1 億円未満の中小企業は約 7.8 歳も上昇しており、大手企業と中小企業の社長平均年齢の二極化が進んでいます。
経営者の交代率は2012年に下げ止まったものの、3.97%と依然低い状況であり、その原因として後継者問題があげられます。(帝国データバンク「全国社長分析」(2017年)より)。
経営者の世代交代が進んでいない中小企業の事業承継が円滑に行われないと、廃業したり、最悪の場合は倒産したりしてしまうことになりかねません。そうなると今後の日本経済を左右する可能性があります。
経営承継円滑化法とは
中小企業の経営者が、次の経営者に円滑に引き継げるようにするために、2008年に「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律(経営承継円滑化法)」が制定されました。
中小企業の事業承継には、大きく3つの問題がありました。
(1)遺留分により、会社経営の安定が損なわれる
(2)会社の代表者変更による、会社に対する信用が揺らぐ
(3)株式の引継ぎなどにかかる相続税や贈与税の負担が大きい
経営承継円滑化法において、(1)については遺留分特例制度が創設されました。
それにより、事前に後継者以外の親族と合意し、経済産業大臣の確認を受けることで、遺留分放棄の法的確定にかかる家庭裁判所の申請手続きを単独で行うことができます。
(2)についても、認定を受けた中小企業経営者に対する株式・事業用資産の取得、運転資金、相続税資金などの融資のための支援措置が創設されました。
(3)についても、贈与税や相続税に関して猶予制度が設けられています。
経営承継円滑化法改正の目的・概要
経営承継円滑化法は2008年に制定され、その後2016年に改正が行われましたが、前述したとおり事業承継は進んでいるとはいえない状況です。
また、これまでは親族内承継と呼ばれる親子や親族などが事業承継をすることが大半だったものが、最近では親族外に後継者を求めるケースが増えてきました。
したがって、今までの対策をより使いやすくするとともに、親族外への承継を円滑に行うための法改正が必要になっています。
今回の改正のポイントは、以下の3つです。
1.事業承継税制の特例措置
事業承継税制の特例措置は、後継者が前経営者から贈与・相続などによって会社の非上場株式を取得した場合に適用されます。
取得したすべての非上場株式に対する課税額について、後継者が死亡する日まで納税を猶予できるというものです。
これにより、事業承継で発生するはずであった納税額に関して、約53%しか猶予されなかったものが100%猶予されることとなり、後継者の負担はなくなります。
また、今までの施行規則は1名の後継者しか想定していませんでしたが、今後は最大3名の後継者への承継が可能になります。
また、申請書を5年以内に提出すれば、経営者以外からの贈与によって株式を取得しても特例制度の対象とし、納税免除が可能です。
2.金融支援制度の拡充
経営承継円滑化法では、相続税の支払いや分散している自社株式の買い取りなどを目的とする資金調達支援の制度が規定されていました。
この規定により、都道府県知事の認定があることを条件に一部の金融支援(融資など)を受けることが可能でした。
今回の法律改正ではさらに、中小機構からの共済・貸付けといった金融支援も受けることが可能になります。
3.遺留分に関する民法特例
遺留分に関する民法特例では、現経営者の生前に後継者がほかの推定相続人全員との合意を得たうえで所定の手続きをおこない、民法特例の適用を受けられます。
民法特例の適用には2つの方法があります。1つ目の方法は「除外合意」と呼ばれ、これは生前贈与された株式などを、遺留分の対象から除外するものです。2つ目は「固定合意」と呼ばれ、生前贈与株式などの評価額を事前に固定する方法です。
経営承継円滑法改正による事業承継への影響
日本にある多くの中小企業の経営は分岐点にあります。今回の改正により、贈与税や相続税が100%猶予されるため、承継する側にとって大きなメリットとなります。
また、親族以外の承継でも制度の適用が受けられるため、子どもが継がない、子どもに継がせたくないとの理由から、承継ができていなかった中小会社でも、内部での登用や外部からの役員の招へいなどによって、事業承継できる道が開かれたことになります。
まとめ
今回の改正では、
1.事業承継税制の特例措置(10年間)
2.金融支援制度の拡充
3.遺留分に関する民法特例
の3点が中心です。
税制の特例措置においては、後継者の納税負担がゼロになります。
また、後継者も3人まで選ぶことができます。遺留分の民法特例では、後継者が事業をより発展させても、負担が増えるといった矛盾が解消されることになりました。
今回の経営承継円滑化法の改正により、技術力のある中小企業が存続するとともに、活力を維持して、日本の経済を発展させていってほしいと思います。
ファイナンシャルプランナー・行政書士 青野 泰弘