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経営者に必要な「着眼点」の鍛え方 第130回・DX化で見えたこと

独立ノウハウ・お役立ち

起業家、経営者にとって大事なのは、世の中を見抜く力です。1つの事象をどう捉えるかで、ものの見え方も、そこから得られる情報も大きく変わります。そうした「着眼点」、実はトレーニングによって鍛えることができるのです。累計20万部を超えるベストセラーとなった『戦略思考トレーニング』シリーズでおなじみの経営コンサルタント・鈴木貴博氏に解説してもらいましょう。

いきなりですが、クイズです!

多くのテーマパークでDX化が進んでいます。それにより、時間通りにアトラクションが利用できたり、行列に並ばなくてもよくなったりと、利用者にとっては非常に便利なサービスがいろいろと導入されています。当初、テーマパーク側は、顧客満足度が高まることや、カスタマーエクスペリエンスが向上するといったメリットを想定していたのですが、いざ導入が進んでみると、それ以上に「分かったこと」があったそうです。実はその効果の方が大きかったのではないかといわれているのですが、さて、いったい何が分かったのでしょうか?

クイズの答えの中に、着眼点を鍛えるポイントがある

大手のほとんどのテーマパークではDX化が急速に進んでおり、行列に長い時間並ばなくてもアトラクションを楽しめるような便利なシステムが次々に導入されています。

テーマパークにとっては、顧客満足度やカスタマーエクスペリエンスの向上を期待しての取り組みであり、「来てよかった」「また来たい」と思ってもらうことを想定していました。

ところが、導入から時間が経つにつれて、顧客満足度とは別のところで、ある「大きな変化」が見えてきたのだそうです。それはテーマパーク側にとって非常に大きなメリットがあるものでした。

それでは解説します!

DX化で実現できたもっとも大きな変化の1つが、これまではある意味で当たり前だった「長い時間、行列に並ぶこと」がなくなったことでした。実は、そこにヒントがあります。

これまで、行列に並んでいる間はお金を使わなかったのですが、行列に並ぶ時間が減ったことで活動時間が増え、お金を使える時間が増えました。結果的に、来場者が今まで以上のお金を施設内で落としてくれるようになったのです。

つまり、単純に売り上げが増えたのだそうです。

後から考えたらすごく当たり前の話に感じますが、確かに納得です。

これまでは、限られた時間の中で長い時間、行列に並ぶ必要があったため、その分、お土産を買う時間やちょっとお茶を飲んだりする時間を削らなくてはいけませんでした。

しかし、並ぶ時間が少なくなれば、その分だけ活動時間が増えるのは当たり前です。

大手のテーマパークの中には、この影響がはっきりと分かったことから、アフターコロナにおける経営計画を修正し、入場者数を減らす決断をしたところもあるくらいです。

DXの推進による効率化で、入場者数をもっと増やすこともできるでしょう。しかし、それをやることで逆に混雑し、今よりも売り上げが減ってしまうことも考えられます。であれば、全てを適切なサイズにとどめ、みんなの満足度が上がることを重視したわけですね。

DX化が進むと悩ましいこともある

伝統的に、商売においては行列を作ったりお客さんを待たせたりすることは、個々のお店にとって実は効率のいいやり方だといわれてきました。

一方で、DX化が進むことの最大のポイントは、顧客(利用者)にとって利便性が上がることであり、並んだり待たせたりするような、いってみたら「無駄なこと」がなくなります。

例えば空港という場所は、飛行機に乗るために少し早めに到着する人たちがお金を落とすことで、いろいろなお店が潤っていた側面がありました。しかし、DX化が進むことで待ち時間なくスムーズに搭乗できるようになると、「ただ通過するだけの場所」になってしまいます。

これは実はどの事業者にもいえることで、便利になることによって、自分のお店が「ただ通過するだけの存在」になってしまう可能性が高まるとしたら、それはそれで非常に悩ましいことです。

また、行列に並ぶ時間が減ることでできた恩恵は、多くの場合、他の事業者が受け取ることになるでしょう。例えば、1時間並ぶラーメン店の行列に並ばずにすんだ場合、浮いた1時間で他のお店で買い物をしたり、お茶でもしたりしようとなるわけですよね。

DX化が進むことで、社会全体でGDPが増えることになるのは間違いありません。テーマパークの場合は、浮いた時間で自分の施設内でお金を落としてくれましたが、多くの場合は、直接的な利益を受け取る人が自分以外になるというのは、ちょっとつまらないかもしれませんね。

DXの導入によってどんな恩恵を受けられそうか

ここ最近は病院の予約システムなどにおいてもDX化が進んでおり、例えば小児科などでは以前のように長い時間、病気の子どもと一緒に待合室で待たなくてもよくなっています。メリットをあげるとしたら、共働き世帯の場合、効率よく利用できるおかげで親はわざわざ長時間仕事を休まなくてすむようになり、パート勤務の場合なら数千円程度、減るはずの収入が増える可能性はあります。

「お金は天下の回り物」であり、結果的に稼ぎが増えれば社会全体はうまく回りますが、DXによる恩恵がそれだけではちょっともったいない気もします。

皆さんの商売において、DX化の恩恵をテーマパークのように直接得る方法を考えておくことは、発想として重要かもしれませんね。

最後に、もうお分かりだと思いますが、冒頭のクイズの答えは「売り上げが伸びた」でした。DXによってどんなメリットが得られるかは、思っている以上になかなか難しい課題かもしれませんが、ぜひいろいろな角度から考えてみてくださいね。

構成:志村 江

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PROFILE
鈴木貴博

東京大学工学部卒業後、ボストン・コンサルティング・グループに入社し、数々の大企業の戦略立案プロジェクトに従事。1999年にはネットイヤーグループの創業に取締役として参加。2003年に独立し、百年コンサルティングを創業する。大手企業の経営コンサルティング経験を元に2013年に出版した『戦略思考トレーニングシリーズ』(日本経済新聞出版社)が累計20万部を超えるベストセラーに。現在はビジネスをエンタメクイズ化する経済エンタテナーとしても活動中。『パネルクイズ アタック25』(優勝)、『カルトQ』などのクイズ番組出演経験も豊富。近著に『戦略思考トレーニング 最強経済クイズ[精選版]』(日本経済新聞出版社)、『日本経済 予言の書 2020年代、不安な未来の読み解き方』『「AI失業」前夜―これから5年、職場で起きること』(ともにPHPビジネス新書)など。

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