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「副業300万円問題」国税庁による2022年10月の大幅修正について、税理士が解説!

「副業300万円問題」国税庁による2022年10月の大幅修正について、税理士が解説!

前回お届けした「副業300万円問題」。

年間収入300万円以下の副業は原則として「雑取得」扱いとなり実質増税になる可能性がある内容でした。

令和4年以降、副業している人は実質増税?「副業300万円問題」について税理士が解説!

そして、国税庁が10月7日に改正案の修正を発表しました。

その背景として、公募により下記のような7059通もの意見が集められました。

・今回の通達改正は、副業を推進する政府の方針に逆行するものではないか
・今回の通達改正は、増税ではないか
・真面目に記帳等をしている者は、収入金額 300 万円以下の副業であっても事業所得と取り扱うべきではないか。

このような意見を踏まえて、「帳簿の有無」を重視する方向へ大きく変更されました。

今回の修正により、副業している人の確定申告はどうなるのか?

今回の修正により、やはり実質増税になってしまうのか?

税理士の視点から、わかりやすくポイントを絞って解説していきます!

※修正点の結論だけ知りたい方は(前回の復習)を読み飛ばして下さい。

実質増税ってどういうこと?(前回の復習)

https://public-comment.e-gov.go.jp/servlet/PcmFileDownload?seqNo=0000239211

実際に公表された改正案の内容をみてみよう

前回の復習もこめて、もう一度改正の原案についてざっくり読んでいきましょう。

ここでは「新分野の経済活動にかかる所得」や「副業に係る所得」の所得区分について記載されていることがなんとなくわかるかと思います。

ではなぜ所得区分が議論になるのか?

所得区分によって税金の計算方法等が異なるため、納める税金の額が変わる可能性があるからとお伝えしました。

8月に公表された改正案では、給与所得があり、なおかつ副業で収入を得ている方等が、副業による経済活動について「事業所得」「雑所得」いずれとして申告するかの所得区分の取り扱いについて記載されていました。

この改正案を読み解くには、「事業所得」と「雑所得」の違いを探る。ということに整理できます。

副業が「雑所得」になると、なぜ増税になる?

ここも前回の復習となりますが、「事業所得」と「雑所得」の違いをみていきましょう。

「事業所得」には各種税制の優遇があり。
「雑所得」には優遇が全くなし。

その結果、今まで副業による経済活動を「事業所得」で申告していた方が、今後「雑所得」として申告すると税制優遇等が利用できないことから、実質増税になってしまうというわけです。

補足すると、「事業所得」として申告していたけれど、下記のような税制優遇等を利用していない場合は、「雑所得」として申告した場合でも税金の金額が変わりません。

「事業所得」と「雑所得」で税額が異なる要因となるものを表にまとめてみました。

影響を受ける人・受けない人

副業が「雑所得」扱いになると「事業所得」として申告していたときに比べて増税になる可能性があるとお伝えしました。

今まで副業がある納税者の方は、事業所得として申告した方が税金面で有利になるため、副業は何となく「事業所得」との区分で申告していた方も多いのではないでしょうか。

課税当局も、提出された申告書だけを見ただけでは事業所得か雑所得か判断することが難しく、実際税務調査に入ったとしても担当官によっては判断がわかれるということがあるようでした。

そこで「事業所得」と「雑所得」の区分を明確化することが本改正案の狙いと考えられます。

これまで「事業所得」と「雑所得」はどのように区分していた?

所得税法等の法律には「事業所得」とは何かということの明確な定義が置かれていません。

そこで過去の裁判例等によって、継続的に行う「事業」といえるか、社会通念(社会一般に通用している常識または見解)にしたがって判断する必要があります。

例えば、会社員の方が副業として経済活動(フリマアプリで商品を転売していた場合)が、事業所得となるかについてどのように判断されるのでしょうか。

イメージ図をみてみましょう。

図のように事業所得に該当するかは、

取引に費やした精神的、肉体的労力の程度や、その者の職業、社会的地位、相当程度の期間継続して安定した収益が得られる可能性があるかなど、個々の事実により総合的に検討して社会通念に照らして判断されます。

やっかいなのが、同じフリマアプリにより商品を販売して利益を得ている人がいても、雑所得になる場合や、事業所得となる場合もあり、一律に判断しづらいという問題があります。

そのため納税者側では、「事業所得」として申告するか、「雑所得」として申告するか迷う方も多かったでしょう。

そこで、8月に公表された改正案では、明確な年間収入300万円という数字上の形式基準が制定されたのです。

収入300万円という形式基準は増税では?

8月に公表された改正案では300万円という、明確な数字上の形式基準が増えました。

しかし、冒頭でお伝えしたようなパブリックコメントが多数寄せられました。

・今回の通達改正は、副業を推進する政府の方針に逆行するものではないか
・今回の通達改正は、増税ではないか
・真面目に記帳等をしている者は、収入金額 300 万円以下の副業であっても事業所得と取り扱うべきではないか。

「所得税基本通達の制定について」(法令解釈通達)の一部改正(案)(雑所得の例示等)に対する意見公募の結果について

そこで、10月に公表された修正案では「形式基準」の部分が大幅に見直されました!

見直された「事業所得」と「雑所得」の区分判定方法は?

国税庁「雑所得の範囲の取扱いに関する所得税基本通達の解説

実際の修正案を見ていきましょう。

わかりやすくするために、まずはカッコ書き( )を取っ払ってみましょう!


事業所得と認められるかどうかは、その所得を得るための活動が、社会通念上事業と称するに至る程度で行っているかどうかで判定する。

なお、その所得に係る取引を記録した帳簿書類の保存がない場合には、業務に係る雑所得に該当することに留意する。

改正案にはこのように書かれています。

前半部分はこれまでと同様です。

つまり、前述のとおり社会通念に照らして事業といえるかどうかで「事業所得」となるか「雑所得」となるか判断するということでした。

それでは今回の改正案はどこが変わったのでしょうか。

社会通念に照らして事業(所得)と言えるか曖昧な基準であったところ、

取引の記録を保存した帳簿の有無」という形式基準が増えました。
※国税庁:帳簿の記帳のしかた

そして、カッコ書き( )で飛ばした部分にもうひとつの基準が隠れています。

その所得に係る収入金額が 300 万円を超え、かつ、事業所得と認められる事実がある場合を除く。

「取引の記録を保存した帳簿の有無」ともうひとつ「収入金額が300万円」という形式基準が増えました。

帳簿さえつければ事業所得なのか? 答えはノー!

国税庁が公表したイメージ図をみて整理してみましょう。

この図を見ると、収入にかかわらず、記帳・帳簿書類の保存さえしていれば、「事業所得」となる。

このように誤解される方が多いのです。

あくまで「記帳・帳簿書類の保存」はひとつの判断材料にしかすぎません。

同じようにあくまで「収入300万円」を超えているかもひとつの判断材料にしかすぎません。

記帳・帳簿書類の保存をしていても「雑所得」に区分されるケースもあります。

ちょっと混乱する方がでてきてもおかしくないと思います。

それぞれ4つのパターンに分解して整理するとわかりやすいです。

パターン① 「収入金額300万円」&「記帳・帳簿書類の保存あり

       結論:「事業所得」or「雑所得」・・・両方の可能性あり

パターン② 「収入金額300万円以下」&「記帳・帳簿書類の保存あり

       結論:「事業所得」or「雑所得」・・・両方の可能性あり

パターン③ 「収入金額300万円」&「記帳・帳簿書類の保存なし

       結論:「事業所得」or「雑所得」・・・両方の可能性あり

パターン④ 「収入金額300万円以下」&「記帳・帳簿書類の保存なし」

       結論:「雑所得」

4つのパターンの詳細解説

それではパターンごとの詳細を解説をしていきます。

パターン① 「収入金額300万円超」&「記帳・帳簿書類の存あり」

パターン①の方は国税庁の表でいうところの赤枠内の対象となります。

記帳・帳簿書類の保存がある場合は概ね「事業所得」となります。

では「事業所得」とはならず「雑所得」となる場合とはどのような場合でしょうか?

2つの場合が書かれていますので要約します。

今回の修正で見落としがちなので要チェックです。

<雑所得となる場合>
①収入金額が僅少の場合・・・例として、副業収入が例年(概ね3年程度)年間300万円以下で主たる収入の10%未満
②営利性が認められない場合・・・3年間副業が赤字で、赤字解消のための収入を増加させるあるいは黒字となるような営業活動等を実施していない

国税庁の解説にて詳細を確認しましょう。

パターン② 「収入金額300万円以下」&「記帳・帳簿書類の保存あり」

表の赤枠ないに該当し、パターン①と同様に考えます。
ただし、先程の国税庁の解説にある、「雑所得」となる2つの場合、すなわち「その所得の収入金額が僅少と認められる場合」に該当する可能性があります。

※国税の解説に書いてあるのはあくまで例示ですが、例年「収入金額300万円以下」で主たる収入割合が10%の場合に近い場合、事業所得と認められるか個別に判断することとなるでしょう。

パターン③ 「収入金額300万円超」&「記帳・帳簿書類の保存なし」

パターン③の方は、国税庁の表では右上の赤枠内に該当します。

国税庁の解説に記載のとおり、収入が300万円を超えていても記帳・帳簿書類の保存がない場合は、原則としては「事業所得」に区分されず、「雑所得」となります。

ただし、帳簿保存もあくまでひとつの判断材料でしかないため、他の要素を総合的に考慮することにより、「事業所得」と認められる可能性があります。

国税庁の解説も下記、確認しておきましょう!

パターン④ 「収入金額300万円以下」&「記帳・帳簿書類の保存なし」

パターン④の方は、国税庁の表では右下の赤枠内に該当します。

記帳・帳簿保存もなく、収入金額が300万円以下の場合は「雑所得」に区分されます。

国税庁の解説を読んでいきましょう。

実質的に「収入300万円」の形式基準が存在すると考えられます。

今回のまとめ

原案から「事業所得」と「雑所得」の区分判定に大幅な修正が入り「記帳・帳簿の保存」があるかという形式基準ができました。

ポイントをまとめます。

・記帳・帳簿保存をしていれば、年間収入300万円以下の副業でも「事業所得」となる可能性がある。
※副業収入が本業収入の1割未満の場合や、例年赤字続き等で営利性が認められない場合は「雑所得」となることも

・記帳・帳簿保存をしていなければ、年間収入300万円以下の副業は「雑所得」となる。

・記帳・帳簿保存をしていなければ、年間収入300万円を超えている副業は「雑所得」となる可能性がある。
⇒年間収入300万円を超えている方は、必ず記帳・帳簿を保存しましょう。

今まで「事業所得」として青色申告をしていた方が、今後「雑所得」として申告する結果、実質増税となり得る方もいることでしょう。

しかし、今回の原案の修正についても課税当局が単に副業をしている方を一律増税しようというのが目的ではないと考えられます。

適正で公平な課税をするというのが、本改正の目的の1つであると考えられます。

例えば、副業が事業と言える規模で行ってないにもかかわらず、「事業所得」として申告し、副業の赤字部分を給与等の他の所得と損益通算して納税額を減らすといった問題に対処するためです。

修正案も複雑な印象もあり、内容を正確に理解することは難しいかと思います。

また解釈の余地も依然残っています(本稿も一部、私の解釈が入っておりますので、ご留意下さい)。

今回の改正は令和4年度の確定申告から適用されます。

したがって、所得区分に判断に迷いがある方や、記帳・帳簿書類の保存について不安がある方は税理士に相談してみましょう。

文=齋藤 雄史
編集=内藤 祐介

<プロフィール>
齋藤雄史さん
税理士/公認会計士
宮城県仙台市出身。

高校卒業後、進学資金を貯めるため、新聞販売店に勤務。その後、地元の簿記専門学校に進学、東日本大震災同年の2011年公認会計士試験合格。

合格後、新日本有限責任監査法人福島事務所勤務。
法律の世界に魅せられロースクールに進学し、同時期に板橋区にて会計事務所を開業。

ITやクラウド対応を武器に顧客開拓に成功し、20代〜30代をはじめとする多くの起業家から厚い信頼を得ている。

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