経営者がまず加入しておくべき保険。PL保険・所得補償保険を解説!

経営者がまず加入しておくべき保険。PL保険・所得補償保険を解説!

「稼ぎたい」「成功したい」「会社員はイヤだ」「夢を叶えたい」…起業をするときのモチベーションは様々。ただ共通するのは、「売上を上げること」「利益を出すこと」が第一であるということ。事業のサイクルには、創業期、成長期、安定期など様々なフェーズがあり、特に創業期、つまり最初の数か月~数年は、試行錯誤を重ねて走り続けなければいけません。過去を振り返っても、成功した経営者は、創業期は、他にやりたいことや時間を犠牲にして事業に取り組んできた方も多いです。

ただ、このような時期に、「攻め」のことだけ考えていけません。起業・独立前に想定していなかった、思わぬ事態に足元を救われることへの備えも考えておくべきでしょう。

攻めが大事な創業期の必要な備えは、「賠償」と「健康」です。例えば、自身が提案して購入してもらった商品で、相手に損害が出たとき、健康の不調を訴えたとき。また、まだ自分の代わりがいないのに、何らかの理由で自分が思うように働けないことは起こりえます。そうなる前に、対策を講じておくべきでしょう。中でも、時間をかけずに備えができる「保険」は有効です。いくつか頼りになる保険の種類をご紹介していきます。

物を販売する人や食品を提供する人なら、PL保険

PL保険(生産物賠償責任保険)は、製造業者(メーカー)等が製造または販売した商品、もしくは工事業者等が行った仕事の結果が原因で、他人にケガをさせたり、他人の物を壊したりしてしまった際、事業者が法律上の賠償責任を負担することにより被る損害を補償する、事業者向けの保険です。

多くの事業者に適用できるのがPL保険

よかれと思って販売した商品が原因で、相手方に損害を与えてしまった事例は、実はいくつもあります。

・自分の会社で作った化粧品が原因で、肌にシミができてしまった。
・自身が取り付けたエアコンの室内機が発火して、建物や家財道具が消失してしまった。
・自分が経営する飲食店で、食中毒が起こってしまった。
などなど。これはあくまで一部です。

消費者庁も、製造物責任(PL)法に関する訴訟情報を掲載しています。
<製造物責任(PL)法に基づく訴訟情報の収集>
https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_safety/other/product_liability_act/

製造物責任法(PL法)が1995年に施行されて以降、販売した商品・サービスが原因で事故が発生した場合、被害者側が商品・サービスの欠陥を証明すれば、製造・販売した事業者に過失がなくとも損害賠償を請求できるようになりました。そのため、事業者側に落ち度がなくても、損害賠償を負うリスクがあるのです。

PL保険に加入しておけば、事故によって請求された損害賠償金や訴訟をするための費用などをカバーできるのです。PL保険には、メーカーだけではなく、商品・サービスを販売する業者や、工事の請負業者なども加入できます。今では、取引先からPL保険の加入を義務付けられることも少なくありません。それくらい、事業者を守るうえで大切な保険といえるでしょう。

PL保険の補償内容

PL保険に加入することで補償してくれるのは、以下のようなものがあります。

・損害賠償金
・訴訟対応にかかる費用(訴訟費用・弁護士費用など)
・権利保全行使費用(求償権保全・行使費用)
・緊急措置費用(事故発生時の応急手当費用・護送費用など)
・保険会社の要求に対する協力費用(情報収集や調査などにかかる費用)

かなり幅広く網羅しておりますので、加入しておけば大体の費用を賄うことができます。

ここで、注意していただきたいのは、「求償権」です。

※求償権とは?
求償権(きゅうしょうけん)とは、他人(債務者)の債務を代わりに支払った人が、
その肩代わりした分をその人(債務者)に請求する権利のことです。

※権利保全行使費用とは?
求償権を保全するなどのために必要となる交通、通信費などの費用です。
示談交渉などのために内容証明郵便を送る費用などが含まれます。

例えば、エアコンの機械自体が原因でご家庭が火事になったとしましょう。
その場合、エアコンの取り付け業者が損害賠償を背負うケースがあります。
原因はエアコンそのものにあるわけですから、取り付け業者としては
損害賠償を「肩代わり」という形になります。
その後、取り付け業者がエアコンのメーカーに債務の返還または弁済を求めることを
求償と言い、それができる権利そのものを求償権と言います。
そして、求償権を請求するときにかかる費用のことを権利保全行使費用と言う、
ということですね。

PL保険で賄ってくれる保険料は、
・対象となる商品やサービス
・事業者側の売上高
・工事や仕事の完成度
・保険金の支払限度額・免責金額
・特約内容
などで増減します。

商品が流通する過程で、メーカー、設置業者、販売者が登場しますが、「取引先が保険に入っているから自分はいらないね」と話される経営者がいます。しかし、この求償権があることで、仮に取引先の保険で被害者へ保険金が支払われたとしても、自らに過失があれば、この求償として支払った保険会社より過失に見合う賠償金が求められます。つまり、商売をする事業者は、自らPL保険に加入しておくことが必要になります。

賠償事故というものは、被害を受ける方がどのような方が、どのような事故かが未知なとところで発生します。たとえば、水漏れ事故でも、階下の被害者の方がどのような物品を所有している方が分かりません。数万円で済む場合もあれば、億になる場合もあります。人に被害が及んだ場合も同様です。特に人に対する賠償金は、将来介護を伴う被害の場合などでは、1億円を超える事例も出ています。自動車をお持ちの方は、自動車保険の対人賠償を無制限補償にされているように保険金額は、なるべく大きく掛けておくことがよいでしょう。

経営者の当面の収入を守るなら、所得補償保険

がんばって事業を前に進めよう・売り上げを出そうとしていても、自分が思わぬ病気やケガで働けなくなることがあり得ます。会社員であれば、会社が一定の補助をしてくれますが、経営者はそうはいきません。だからこそ、経営者の収入を肩代わりしてくれる所得補償保険は有効です。

医療費や生活費など様々な費用を補うことができます。

保険対象は、所得そのもの

所得補償保険のポイントは、「所得(ご自身が得るお金)」自体が保険の対象になっているということです。保険は、自身に何かがあったとき保険会社が保険金を渡してくれるものですが、
商品によって、対象とするものが異なります。

生命保険は、ご自身の生命に対するお金(死亡や高度障害など)を賄うもの。損害保険は、ご自身が起こしてしまった損害や、販売商品やサービスによって相手方に損害が発生した場合、その損害の解決にかかったお金を賄うもの。それに対して、所得補償保険の対象は所得そのものですので、ご自身の所得が減ってしまったときに、減った分の金額を賄ってくれるのです。

似た名前で「収入保障制度」というものがありますが、目的が異なります。所得補償保険は、死亡・高度障害ではなくても、普通の病気やケガで入院のみならず、医師の指示による自宅療養で保険金を受け取ることができます。死亡や高度障害のときはこれに該当しないので保険金は受け取れません。収入保障保険は残された家族の生活費に充てる資金を用意するためのものです。保障される内容は、対象(つまり経営者自身)が被保険者の死亡または高度障害状態の時です。普通の病気やケガによる就業不能では保険金を受け取ることはできません。

所得補償保険は、自宅療養も補償してくれるのがうれしい

一般の方は医療保険には加入されていると思いますが、医療保険は、入院を必要としない病気やケガの場合はあまり役に立ちません。また医療保険は、入院や手術費用は賄ってくれますが、生活費は経営者自身で用意しなくてはなりません。その点、所得補償保険の場合は、入院をしなくても、事業継続(就業)が不可能と判断されれば、自宅療養でも保障の対象になります。

入院保険は、入院期間を保障するものがほとんどです。しかし、今は病院が長期の入院を勧めず、短期で退院、以後通院で対応する傾向にあります。退院後、すぐに元の健康状態で就労とはいかないことも多々あり、自宅療養で給付を受ける場面が増えています。

今回は、経営者が加入すると得をする2つの保険を紹介させていただきましたが、あとは、あとは自分の事業に必要な補償をチョイスするのがよいでしょう。

参考までに、考えられる保険を整理しておきましょう。特に「賠償」に関わる保険は、細かく分かれていますので、自分の事業に必要な補償が漏れていないか注意が必要です。

例えば、生命保険と損害保険を同時に扱っているなど、幅広い商品を取り扱っている保険代理店など利用すると幅広く対応してくれるのでよいと思います。起業するにあたって「借り入れを起こしている」などの事情に適した保険の相談にも乗ってくれます。