「起業したいけど、何から手をつけていいか分からない…」
「起業するには、いったいいくら必要なの?」
独立・起業に関してさまざまな悩みがありますが、1番頭を抱えるのはやっぱり「お金」に関する悩みではないでしょうか。
今回からスタートする「税理士が教えるお金と起業」シリーズ。
初回は、そもそも起業とは何なのか、起業にはいくら必要なのか、そして起業に必要なお金の知識について解説していただきました。
「お金がないから、起業は無理かな…」と思っている方は、必見です!
起業とは「会社(法人)をつくる」だけではない!
そもそも「起業」とはなんでしょうか。
起業とは「業」を「起」こすと書きますが、業を起こすには、大きくわけて2つの方法があります。
②個人事業主として活動する
起業といってまず思い浮かぶのは、法人(≒株式会社など)を設立することではないでしょうか。
例えば、株式会社の設立には、業種を問わず30万円程の初期投資が必要です。また設立のための複雑な書類を作成する必要があったりと、多少手間がかかります。
お金と手間がかかる分、株式会社を設立するには大きなメリットもあります。
その1つが会社として、あらゆる契約を結べるようになること。
例えば不動産を借りたり、銀行からお金を借りる契約を結ぶことができるようになります。これは大きなメリットです。一体何が違うのか、貸す側の人の気持ちになって考えてみましょう。
事業を動かすためとはいえ、一個人に大きなオフィスや大金を貸すにはなかなかのリスクが伴います。当然審査も厳しくなりますし、貸す側にとってもなんとなく不安ですよね。
ですが、会社に貸すのであればどうでしょうか?
事業を動かすためのオフィスや大金を「会社に貸す」と聞くと、なんとなく安心感がありますね。
この安心感は、株式会社を設立するお金と時間をかけられる能力を持っている=信用に値する、という理由から来ているのです。
一方で個人事業主として活動する場合はどうでしょうか。
個人事業主は、税務署に開業届を提出するだけでスタートすることができます。業種にもよりますが、株式会社設立にかかる「30万円」のような開業資金は基本的には必要ありません。(ただし飲食店などを開業する場合の、設備投資にかかるお金は別です)。
ただし、先程も説明したとおり「一個人」として手軽に開業できる分、社会的な信頼度は株式会社に比べるとどうしても劣ってしまいがちです。
起業にあたり、個人事業主として活動する場合と法人(株式会社など)を立ち上げる場合では、このようなメリット、デメリットがあります。
ちなみに、私が起業した当初は、個人事業主として開始しました。税務署に開業届を提出した時は「いよいよ自分も個人事業主だ!」と思うと嬉しくて、税務署の前で写真を撮りました(笑)。SNSでその写真を投稿し、起業の決意を表明したのを覚えてます。
なぜ個人事業主として起業したのかというと、当初は従業員を雇う予定もなく、株式会社の設立は、とてもハードルが高いことだと思っていたからです。
また税理士の場合、資格によりある程度の社会的信用があることから、個人事業主としてスタートする方も多いです。私も事業が一定以上の規模に拡大した時に、法人化しようと考えていました。
現在は、株式会社と合同会社を設立し、事業内容によって分社化を図っています。いずれは、お金周りの悩みをワンストップで解決する、ホールディングスの株式会社を設立したいなと思ってます。夢は尽きないですね。
きちんと調べて、自分に合った起業の方法を選択することが重要です!
0円でも起業できる? 起業に必要な2つの資金
「起業に必要なお金って、実際いくらくらいなのでしょうか?」
税理士という職業柄、こんな質問をよく受けます。そんな時に私は「0円でもできるし、100億円かかる方もいる」と、答えます。なぜ0円でも起業できるのに、100億円かかる人もいるのでしょうか。
例えば、あなたが飲食店(カフェ)を開業するとしましょう。店舗を構える場合、土地、建物、内装等、全て自力で賄い、さらに銀座の一等地に店を構えるとなると1億円以上必要になるかもしれません。
では、フリーランスのカメラマンの場合はどうでしょう。
30万円のカメラを使うカメラマンもいれば、100万円以上もするカメラを使うカメラマンもいらっしゃいますよね。もし自分が使っているiPhoneで撮るのであれば、開業にあたるお金は実質0円です。
私が設立した税理士事務所も、自宅をオフィスとし、自分のパソコンとプリンターを使っていたので、ほとんど0円で始められました。つまり、自分がどんな業種・職種で起業したいのかで、必要なお金は変わってくるよ、というのが結論です。よって、まずは自分が始める事業がいくらかかるのかを知ることが重要です。
ここで皆さんに知っておいてほしいのは、必要な資金を「設備資金」と「運転資金」2つに分けて考える、ということです。
「運転資金」…事業を運営するために必要な、継続的に発生する資金のことをいいます。具体的には、商品の仕入や、給料、外注費、広告宣伝費(ホームページ作成後の運営コスト)、月々の地代家賃、消耗品費などです。
このように、一時的に発生するものと、継続して発生するものを分けて考えると、起業に必要な資金計画を立てやすいです。
私の場合は、恥ずかしながら貯金があまりない状態で起業しました。そのため自宅で事務所を開業し、ホームページも自分で作成しました。
今思えば、ホームページ作成に時間を使いすぎました。起業当初はやることが多くて、とにかく時間が足りません。人にお願いできることは外注して、自分にしかできない仕事の時間を捻出するべきだったなと思ってます。
また、初めて人を雇ったときや、オフィスを移転して賃料が上がった時は、とても心配でドキドキしたのを覚えてます。家賃や給料を払い続けられるか最初は不安で、夜ご飯は毎日スーパーで半額になったお弁当を買って食べていた時期もありました。しかし、人を雇いオフィスを構えることで「しっかりやらなきゃ!」という気持ちになり、仕事の糧になったのも確かです。
具体的な計画の立て方の詳細は、次回の記事で詳しく解説しますね。
起業するなら絶対に知っておくべき、お金に関する3つの知識
起業するにあたり必要な資金の額が分かったところで、次にどのようにお金を調達するか、その方法を知る必要があります。さらに調達した資金をどうやって管理するか学ぶ必要もあります。
起業で失敗しない為にも知っておくべき必要なお金の知識は、資金調達の知識・税金の知識・会計の知識の3つです。
①資金調達の知識(補助金・助成金含む)
初期投資が必要な事業を営む場合「そもそもお金をどう集めるか?」を学ぶ必要があります。もちろん、起業に必要なお金を全て自分で賄うことができればベストです。しかし、現実的には自分で全て賄うとなるとそれはそれで大変ですよね。そこで、銀行でお金を借りたり、人や会社に投資してもらう方法が考えられます。また一定の条件を満たすことで、国からお金が支給される「助成金」というものもあります。
さらに事業のアイデアが優れている場合、その将来性を見込んでスポンサーがついてくれることもあります。
このように、資金調達の方法を学ぶと、事業の拡大を早めることも可能です。銀行から借りたお金で従業員を早くから採用できたり、起業に必要なものをたくさん買うことができれば、結果的に利益を増大することもできますね。
私のお客さまでも、従業員を雇うのが金銭的に不安でずっと社長1人でやっていた会社が、銀行から借りたお金で積極的に採用活動をし、従業員を雇用したことで、利益を増やし続けている会社があります。
また20代前半の経営者のケースですが、1年もしないうちに革新的なアプリサービスを開発し、大手企業から1,000万円の出資を受けた会社もあります。
こうした例も決して少なくありません。だからアイデアはあるのに元手がなくて、起業を諦めている人のお話を聞くと、すごくもったいないなと思います。
②税金の知識
税理士としてお金に関する相談を受けていて「どういう理由で税金を払っているのか」「どのタイミングで、どこにいくら税金を払えばいいのか」「支払った税金が何に使われているのか」を、多くの人がきちんと理解していないなと思う場面が多々あります。
私のところにくるお客さまからも「とにかく税金が怖い、税務調査が怖い」という声を聞きます。
起業すると、様々な税金を支払わなければなりません。1番おなじみの消費税から、所得税、法人税、住民税etc…と、税金の種類もさまざまです。先程説明した個人事業主と法人(株式会社など)では、たとえ同じくらい利益があったとしても、払うべき税金の額は異なることがあります。
このように税金についての知識があるかないかで、手元に残る金額が変わってくるので、必要最低限は知っておく必要があります。
よくありがちなのが、節税を意識して無駄な買い物をしてしまうケースです。基本的に個人事業主や法人にかかる税金は、利益が大きくなるほど支払う税額が多くなります。そのため、決算直前に買い物をして経費を増やすことにより、利益を圧縮して節税を図ろうとすることがあります。しかし、無駄な買い物をして、利益を圧迫しては本末転倒です。
税金の知識をつけることで、受け身で、ただただ税金を払うのでなく、お金をコントロールしている実感を持てます。
③会計の知識(お金の管理方法)
家計簿はつけていますか?
家計簿とは、家のお金がどこから入って来て(収入)、どこで何に使っているか(支出)を管理するための手段です。会社でも同じように、現状会社にいくら売上(収入)があって、何にいくら使ったか(支出)を明確にすることが、お金を管理するスタート地点となります。
会計とはつまり、会社や事業の経済活動を記録・測定・伝達する手続きです。会計を勉強すると、お金の記録方法(管理方法)や、価値の測定方法、財産状況や業績について伝達することができるようになります。
お金の管理方法や、財産状況、業績について、第三者に伝達できるようになることは、お金を借りるうえでも役立ちます。もしあなたが、誰かにお金を貸すとしたら、お金を管理できない人に貸したいとは思わないでしょう。
また財産状況や業績について上手く伝えられないと、貸す側は不安になってしまいますよね。一方で、きちんとお金の管理ができて、財産状況や業績について伝えることができれば、信頼を積み重ねることができます。
私のお客さまでも、会計や税金は税理士に丸投げ、といった美容サロン店を経営している方がいらっしゃいました。しかしほんの数時間、会計の勉強をしたことにより、1年間の利益計画を作れるようになりました。
その方は「売り上げ入金用」と「経費支払い用」と、銀行口座を2つに分けることで、毎月の売り上げと経費を把握することができるようになったのです。銀行の融資面談に行った際も、1日の平均来客数や1人当たりの平均売り上げなど、具体的な数値を踏まえた利益計画の根拠を、代表者が自分の言葉で語れるようになりました。
単にビジョンを語るだけでなく、数字的な裏付けにより説得力が増し、融資も無事実行されました。会計の知識は起業する上で、お金を借りて事業拡大するため(攻め)にも、お金を管理して無駄遣いしないため(守り)にも役立ちます。
以上の3つは、起業をする上で必ず重要になってくる知識です。
ちょっと盛りだくさんになりましたがここまで解説したとおり、起業にはしっかりとした準備が必要です。また起業した後も勉強して知識をつけないといけないことも多くあります。特にお金に関する知識については、知っているか、知らないかで大きな差が生まれてきます。事業の拡大スピードが変わってくるといっても過言ではありません。
この連載では、そんな起業とお金に必要な知識を税理士の立場から解説していきます。
長々と語ってきましたが、今回は「起業にあたって、正しい知識をつければ、お金がなくても起業できる道はある。お金が心配で起業を諦めようとしているならもったいない」ということだけでも、覚えてもらえれば大丈夫です。
人間は知らないものに恐怖を感じるといいます。知ってさえしまえば、起業は決して怖いものではありません。
早速次回は、ご紹介した3つの知識のうち「資金調達」について解説していきますので、楽しみにしていてください。
齋藤雄史さん
税理士/公認会計士
宮城県仙台市出身。
高校卒業後、進学資金を貯めるため、新聞販売店に勤務。その後、地元の簿記専門学校に進学、東日本大震災同年の2011年公認会計士試験合格。
合格後、新日本有限責任監査法人福島事務所勤務。
法律の世界に魅せられロースクールに進学し、同時期に板橋区にて会計事務所を開業。
ITやクラウド対応を武器に顧客開拓に成功し、20代?30代をはじめとする多くの起業家から厚い信頼を得ている。