お店で独立を目指す人必読! いろんな業種で独立した先輩たちに立ち上げから運営まで全部聞いた!
OH! MY SHOP 先輩達の開業実録
注)記事内で表記されている金額はすべて取材時のものです。
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Vol.95, ブックカフェ
Heartland  の場合
インタビュー
Heartland
オーナー・斉木博司さん(46歳)

10年、本好きのファンに愛され続ける
カフェ併設、朗読会も人気の古本屋さん
PROFILE
さいきひろし/1960年、愛知県生まれ。大学卒業後、ソフトウエア会社に就職。10年間勤務した後退職。その後4年間は、様々なアルバイトをしながら人生を模索。やがて、好きな本を商材に、新しい形態の古本屋を開業することを決意。1997年7月、現在の店をオープンさせる。
開業のノウハウ
 
 ガラスのドアを開けて店内に入ると、古本独特のにおいがほんのりただよう。そのにおいと木製の本棚が、昔ながらの古本屋風情を醸し出していて、なぜか落ち着く。店の奥にはカウンターや丸テーブルがあり、ちょっとしたカフェコーナーになっている。木と鉄を組み合わせた特注品の椅子やテーブルに、オーナーのこだわりが見て取れる。一見昔ながらの古本屋のようだが、実はそうではないことを、このカフェコーナーが謙虚に主張している。
 オーナーの斉木さんが、古本を扱うブックカフェとしてこの店をオープンさせたのは、今から10年前。しかし、斎木さんには、独立志向があったわけでも、自分の店を持ちたいという夢があったわけでもなかった。開業のきっかけは、今でも1日に2、3冊は読むほど本が好きだった斉木さんの中に、こんな本屋があったらいいのに、というイメージがふと浮かんできたことだった。そのイメージとは、お茶を飲みながらゆっくりと本探しができるカフェ併設の店。さらに、朗読会などのイベントができる店。今でこそ、ブックカフェはそれほど珍しい形態ではないが、当時はまだどこにもなかった。また、欧米では昔から盛んに行われている小説や詩の朗読会も、当時の日本ではほとんど行われていなかった。
 「その朗読会を日本でも広めたい。それは本屋の役割なんじゃないかと思っていたんです。それなら自分がそういう本屋をつくればいいんだと」
 だから、ハートランドは、斉木さんの、こんな本屋があったらいい、というイメージを形にした店。そして、その思いがそのまま店のコンセプトにもなっている。
 「新刊本を中心に扱うなら、個人店だと大手に絶対に勝てません。人を雇わず一人で運営することが前提だったので、仕入れ費用が抑えられ、リスクも少ない古本屋がいいと考えました」
 オープン時、商品として調達した本は書棚の約半分しかなかった。しかし斉木さんは、あえて書棚をすかすかにしてオープンさせたという。
 「仕入れ資金が不足していたというのもありますが、お客さんからの持ち込みですぐに書棚は埋まるだろうと予測してました。特定のジャンルにこだわるつもりもなかったですし。予想どおり、開業後すぐ、書棚はお客さんから買い取った本でいっぱいになりました」
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カフェと月に2回の朗読会開催で認知度と集客力をアップ

 店は、西荻窪駅から徒歩5分の商店街の中にある。この商店街には、個性的な雑貨ショップや飲食店などが密集していて、休日は、他エリアからもたくさんの人が集まってくる。そんなエリアにこれまでなかったブックカフェができたとあって、オープン当初は話題になった。もちろん、開業前からやりたいと思っていた朗読のイベントも、月に2回のペースで開催。地元の人々に店が認知されるのに、それほど時間はかからなかった。ただし、月の売り上げは、この10年間、一度も100万円を越したことはないという。
 「ずっと低値安定です(笑)。利益にこだわれば、売り上げを伸ばすことはできるでしょう。けれど、ライフスタイルを大事にしながら、経費と自分の生活費を確保できればいいと、ずっとマイペースでやってきましたから」
 どんな本でも買い取る。希少本の値段は、都心部の店の相場より安めに設定する。聞かれたら答えられるように、本はできるだけ読んでから店頭に置く。そんな斉木さんのやり方に共感した客が、リピーターなっていく。
 「この街には、本を生活の一部ととらえ、お茶を飲むのと同じような感覚で、毎日本を読んでいる人が多く住んでいる気がします。しかも、昔からたくさんの古本屋が存在していました。西荻窪、高円寺、阿佐ケ谷は特にいい本が集まりやすいエリアといわれているのですが、まさにそのとおりで、希少本が持ち込まれることも珍しくない。10年間も経営を維持することができたのも、この街だったからだと思うのです」
 この10年で、ブックカフェという形態の店は増え、朗読会もあちこちで行われるようになった。
 「実は自分の役割はある程度果たせたと思っています。だから、そろそろ次のステップに進みたいのです。店舗を増やすのもいいけど、もう少し違うことをしたい。今考えているのは、イギリスで成功しているような、本のテーマパークをつくること。早ければ再来年にオープンさせたいと、実は仲間と準備を始めているんです。だから、この店は誰かに譲ってもいいと考えています。できればこの形態で続けてほしいけど、全く別の店になってもいいと思っていますので、店舗経営に興味のある人がいたら連絡ください」
 15坪の古本屋から本のテーマパークへ。店舗経営の無限の可能性を示唆してくれた斉木さん。本のテーマパークの実現が楽しみだ。



■オープンまでの経緯
 
1996年 開業を決意。物件探しを開始
1997年4月 物件が見つかる
1997年5月 内装工事着工
1997年7月 14日オープン
 
SHOP DATA
所在地
東京都杉並区西荻窪北3-12-10
広さ・席数
15坪・8席
最寄り駅
JR西荻窪駅
平均客単価
1500〜2000円
電話
03-5310-2520
売り上げ
非公開
URL
http://www.heartland-books.com
仕入れ
5万〜10万/月
営業時間
13:00〜20:00
経費
27万円/月(家賃、光熱費)
定休日
水曜

開業のノウハウ