お店で独立を目指す人必読! いろんな業種で独立した先輩たちに立ち上げから運営まで全部聞いた!
OH! MY SHOP 先輩達の開業実録
注)記事内で表記されている金額はすべて取材時のものです。
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Vol.94, うどん店
エン座  の場合
インタビュー
エン座
オーナー・加藤智春さん(42歳)
結子さん(34歳)

地元の素材を使ったうどんが大人気
週末は飛行機で食べにやって来る客も!
PROFILE
かとうともはる/1964年、東京都生まれ。高校卒業後、映画関連の仕事に就く。NYのアクターズスクールで俳優の勉強をした経験も。その後、約10年間、手づくりハム・ソーセージの仕事に携わる。転職を考えていた時に、あるうどんに出合い感動。うどん屋を開業することを決意した。2001年7月、現在の店をオープンさせる。
開業のノウハウ
 
 たった1杯のうどんが、人生を変えることもある。
 加藤さんが食べたのは、埼玉県のある村で80歳の店主が打つうどんだった。実は加藤さん、うどんが大嫌いだった。生まれ育った練馬一帯に広がる武蔵野の畑では、かつて小麦がたくさん栽培されていた。この地域ではごはんを炊く代わりにうどんを打ち、それを主食にしていた文化があったという。そんな文化の残る地域で、子どもの頃からさんざんうどんを食べてきた加藤さんにとって、うどんは大人になるにつれだんだん嫌いな食べ物になっていった。ところが……。
 「口にした瞬間、家族や親戚と一緒にうどんを食べていた食卓のシーンなど、昔の記憶がフラッシュバックしたんです。僕、放蕩息子だったから、こんなふうに家庭の思い出がよみがえってくることにびっくりして。食べ物の力ってすごい!と感動したのです」
 この出来事がきっかけで、加藤さんはうどん店の開業を決めた。そのための修業先はあの店以外考えられない。しかし時遅し、残念ながら店主はすで店を閉じていた。しかし、加藤さんの情熱に動かされ、店主は週に1日だけ店を開けて修業の場を提供してくれた。そして約1年半の準備期間を経て、2001年7月、地元練馬で 「エン座」をオープン。加藤さんは、うどん店の店主になった。 
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地産地消を目指すうどんづくりが付加価値となって客を呼び込む

 最寄り駅から徒歩15分。富士街道沿いに面した場所は、決して立地条件のいい場所ではない。
 「地元では、富士街道沿いで成功した店はない、といわれているほど。立地は正直悪いです。昼間3時間だけの営業で、我れながらものすごいことやってるなあと思いますよ(笑)」
 オープンした最初の1年間は、一日にお客さん5人だけという日もあり、経営はかなり苦しかった。典型的なベッドタウンであるこの街は、平日の昼間、人口が極端に少なくなる。また、新参者への警戒心が強い地元の人々に受け入れられるには時間もかかる。
 経営が上向くきっかけとなったのは、うどんマニアによるインターネットでの口コミだった。「うどん文化のあった練馬エリアで、本格的な手打ちうどんが食べられる」。「エン座」のうどんは、いつの間にか「武蔵野うどん」として紹介されるように。そして週末になると、全国各地から人々がやって来るようになった。
 「週末は、飛行機で地方から来られるお客さんが2組はいます。店にたどり着くまでどれほど時間がかかったかという話でまず盛り上がります。そう考えると、この悪立地もメリットに思えてきますね(笑)」
 加藤さん一人で打つうどんは、一日80食分が限界。だから、営業時間は1日3時間。土曜日の夜の営業を合わせても1週間の営業時間はたったの21時間。ちなみに、うどん1杯の価格は650〜950円だ。
 「それで食べていけるのか? とよく言われますが、なんとか食べていけています(笑)。1日分のうどんが毎日コンスタントに完売できたら、それで僕はもう御の字ですから」
 こう加藤さんが言い切る理由は、うどん屋の経営者として売り上げを伸ばすということよりも、うどんを通して実現したいことがあるからだ。それは、地元で採れた食材を使ったうどんをつくるという、スローフード活動を継続していくこと。それは、この店のメニューを見ればよくわかる。
 うどんの麺は2パターンで、平日はオーストラリア産の小麦に地元の全粒粉と大麦を混ぜたものだが、土日は100%地元産の小麦でつくったものを提供。加藤さんは、かつて地元で栽培されていた小麦の苗を探し出し、それを地元農家に栽培してもらっている。2週間に1度は、農家から製麺所まで自らの手で麺の材料となる麦を運ぶ。
 11月と12月には、緑色のうどんが登場する。練馬大根の葉を練り込んだうどんだ。また、スープづくりに使用する具材も、できるだけ地元農家で取れた野菜を使用している。まさに地産地消、スローフードを実践しているなのだ。そして、加藤さんがつくるうどんは「この店でしか食べられないもの」という付加価値となる。全国から客がやって来る理由は、実はこのコンセプトにあるのだ。
 子供たち向けの「うどん打ち体験教室」を開いたり、「練馬に小麦畑の風景を復活させよう」というプロジェクトを立ち上げたり……。6年前、1杯のうどんと出合った偶然が、自分自身の独立、そして地域づくりの活動へと加藤さんを導いていったのだ。
 「こうなってくると、僕はうどん店の店主というより、うどんの名を借りた、地域をアピールする宣伝マンなのかもしれない。でも、実はそれが一番やりたかったことなんです。地域に根ざしたうどんづくりをしっかり続けながら、家庭からまた、うどんを打つ音が聞こえてくるような街づくりをしていきたいですね」

■オープンまでの経緯
 
1999年 埼玉県名栗村で運命のうどんと出合う。この年から、うどん店の店主の下で修業開始
2001年2月 物件オーナーと出会い、開業を決意
2001年3月 会社を退職
2001年7月 7日オープン
 
SHOP DATA
所在地
東京都練馬区石神井台8-22-1
第一サンライフ1階 
広さ・席数
20坪・19席
最寄り駅
西武池袋線大泉学園、西武新宿線武蔵関駅
平均客単価
950〜1000円
電話
03-3922-0408
売り上げ
非公開
営業時間
11:30〜14:30、土曜のみ11:30〜14:30、18:00〜20:30(L.O)
仕入れ
売り上げの35〜40%
定休日
月曜、第1火曜
経費
25万円/月(家賃、光熱費)

開業のノウハウ