アントレ-独立形態の選択-個人事業と法人の違いを理解しよう

6.独立形態の選択

01個人事業と法人の違いを理解しよう

「始めやすさ」なら、断然、個人事業

独立形態を選ぶ最初の選択肢は、個人事業にするのか、法人を設立して事業を行うのかである。もちろん、個人でスタートして、後に法人化するという計画でもいい。いずれにしても、その選択をするための判断基準を持っておくこと。
始めやすさ、運営しやすさを重視するなら個人事業が有利。開始に際しての法的手続きも、運営上のルールも特になく、会計方法も簡易である。反対に法人は概して設立手続きが煩雑であり、運営に関しても様々な制約がある。独立当初の自分のパワーを考え、本業以外にも力を割ける余裕があるかどうかという観点で判断してみることも必要だ。

独立の受け皿になる法人はいくつもある

ちなみに法人の種類だが、実は250種類以上もある。病院経営なら医療法人、学校経営なら学校法人、福祉施設経営なら社会福祉法人、農業経営なら農事組合法人……と、いくらでも出てくる。が、業種や事業規模とは関係なく選べるものとなると、ある程度は絞られてくる。その代表的なものが会社、一般社団法人、NPO法人の3つ。個人事業と3種類の法人の特徴を表にまとめたので理解しておいてほしい。

個人事業、会社、一般社団法人、NPO法人の違い
区 分 開業資金 設立手続き 資金調達 責任範囲 会計処理 税 金
個人事業 制限なし。小資金でも可能 特に必要ない 出資は不可。融資は日本政策金融公庫など公的金融機関からも可能 無制限に追及される 青色申告の場合でも簡易帳簿を選ぶことができ、比較的簡単 事業所得に対して所得税が課税される。また、地方税もかかる
会社 会社法の施行により、最低資本金制限撤廃。小資金でも可能 やや煩雑だが、自力でも手続き可能 出資、融資などの方法で調達が可能 株式会社や合同会社は出資範囲内の責任。ただし、借り入れやリ ースなどは代表者が個人保証するのが通例で、実質的には無制限に追及されることが多い。合資会社の代表者(無限責任社員)は、もともと無制限に追及される 企業会計基準にもとづき、複式簿記による記載が必要で複雑 すべての益金に対して法人税がかかる。また、地方税もかかる
一般社団法人 資本金制度はないが、基金の拠出を受けられる。小資金でも可能 やや煩雑だが、自力でも手続き可能 基金、融資、会費収入、補助金、助成金、寄付、事業収入など多彩な方法での調達が可能 出資概念がないので社員(構成員)の責任規定は特にない。ただし基金を拠出した場合、その返済順位はほかの一般債務より低くなる 活動実態にもとづき、企業会計基準、公益法人会計基準、NPO法人会計基準のいずれかを用いる 普通法人は会社と同率の法人税がかかる。非営利型法人は収益事業以外の収入は非課税になる
NPO法人 資本金制度なし。小資金でも可能 煩雑。所轄庁の認証が必要であり、2カ月の縦覧期間なども含むため、申請から設立まで4カ月程度かかる 会費収入、補助金・助成金、寄付など多彩な方法での調達が可能。もちろん事業収入も見込める。また、一部の自治体では融資制度もある 出資概念がないので社員(構成員)の責任規定は特にない。ただし、融資などを受けた場合は、代表者や理事が個人保証するケースもある NPO法人会計基準を用いるのが一般的だが、単式簿記でも可 事業所得に対しては会社と同率の法人税がかかる。ただし、会費収入、補助金・助成金、寄付金などには課税されない
個人事業、会社、一般社団法人、NPO法人の税金面での違い
区 分 開業資金 設立手続き 資金調達 責任範囲 会計処理
個人事業 所得を10種類に分類し、おのおの所得計算を行う。一部は分離課税方式。原則として所得控除 (配偶者控除など) を行い、総合課税される 特に限度枠はない。ただし事業に関連しない交際費は必要経費にならない 白色申告の場合は専従者1人につき50万円(配偶者は86万円)、青色申告の場合は専従者の給与全額を必要経費に算入できる 都道府県民税や市町村民税は、超過累進税率によって課税される所得割と、自治体ごとに額が決められる均等割とがある 290万円の事業主控除後の事業所得金額に対して、原則5.0%の比例税率により課税される
会社 会社のすべての収入を益金の額とし、これから損金の額を控除して計算される 資本金1億円以下の会社であれば、一定額を損金算入できる。なお、1人当たり5000円以下の飲食費は全額損金算入できる 役員に対する報酬・退職金は、不当に高額でない限り、損金に算入できる 法人税額に対して5.0%〜の都道府県民税と12.3%〜の市町村民税が課税される法人税割と、7万円〜(資本金1000万円以下の場合)の均等割とがある 法人税の課税所得に対して、年400万円以下は5.0 %、400万円超800万円以下は7.3%、800万円超は9.6%の段階税率が適用される
一般社団法人 普通法人は会社と同様の方式で計算。非営利型法人は収益事業収入にのみ課税 期末総資産簿価−総負債簿価−当期利益(または+当期欠損金)×60%の額までを損金算入できる 役員に対する報酬・退職金は、不当に高額でない限り、損金に算入できる 普通法人は会社と同様。非営利型法人の法人税割は非課税、均等割は非課税もしくは最低税率と定める自治体が多い 普通法人は会社と同様。非営利型法人は原則非課税
NPO法人 会費収入、補助金・助成金、寄付金などを除く収入を益金の額とし、これから損金の額を控除して計算される 資本金がないので、NPO法人税務独特の計算式により法人規模を求め、その結果により全額損金にならない、あるいは、一定額を損金算入できる、などが決まる 役員に対する報酬・退職金は、不当に高額でない限り、損金算入できる。役員賞与は全額損金に算入できない。ただし報酬を受け取ることができる役員は、役員総数の3分の1に限られる。もっとも役員が職員を兼務している場合は、職員としての立場で給与を受け取ることができる 法人税額に対して5.0%〜の都道府県民税と12.3%〜の市町村民税が課税される法人税割と、7万円〜の均等割とがある。ただし条例によって均等割を課税しない自治体もある 会社と同様。ただし法人税が課税されない法人は非課税

法人種類の選択基準は事業目的やビジョン

個人か法人かを選ぶ際、始めやすさとは別の基準もある。各法人の持つ特徴が予定している事業に有利に働くかどうかである。
例えば出資を広く求めたいなら会社に限るし、活動趣旨に賛同する会員を集めたいのなら一般社団法人やNPO法人といった具合だ。
また、営利、非営利にかかわらず、法人であることが取引条件や免許交付条件となる分野で活動する、多くの従業員を募集する、事業を拡大するビジョンが確定的である。これらも法人を設立するための理由になる。以上のような事柄に該当しないのであれば、個人事業でスタートすればいい。少なくとも、イメージだけで法人設立を図るのは得策ではない。

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