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 ●最終回 夢を実現する継続のテクニック


人にとって、ものごとを継続させるということは、
どうして難しいのだろうか? 
継続が大切なことはわかっている。
しかし、多くの夢や志が道半ばで挫折している。
連載4年目の最終回となる今回は、
「継続」させるためのテクニックを
お話ししてみたい。

 

多くの志が半ばで挫折する
「飲み屋で、会社の愚痴を言うような若者が嫌なんです。もっともっと日本人に頑張ってほしい。そのためには日本の教育を変える必要があると思う。自分に実績は何もないですが、将来、人の心を前向きに変えられるような教育をしたいと思っているんですよ」
 目を輝かせながら、そう語ってくれる若者に出会った。今、IT関連の仕事を行っているが、将来、教育関連のビジネスで起業をしたいのだという。
 そういう若者が増えてくれることはとてもうれしいことだ。私自身、同じような志を胸に抱き、起業した。幾多の困難を乗り越えながら、なんとかここまでやってきた。もっともっとこういう人が増えてくれれば日本も変わるかもしれない。しかし、実際には、多くの人が志半ばで挫折する。
 実際にこのような若者には、これまでも何度も会ってきた。しかし、数年後、再びその人に出会うと、多くの場合、夢半ばで断念しているケースが多い。「やっぱり仕事が忙しくて……」。「いや、起業しなくてもできることってあるんじゃないかって思い始めたんです……」。こんな話もこれまでに何度となく聞いてきた。人材育成という分野で研究を積み重ねてきた経験から言うと、夢や目標を追いかけるということ、つまり「何かに向かって、道を変えずに走り続ける」ということができる人はそれほど多くないようだ。

「続ける」ことがビジネスの本質
「続ける」ということには、大きな価値がある。「ゴーイング・コンサーン」という言葉を知っているだろうか? 企業会計の言葉で「会社は継続するもの」という概念を言語化したものだ。なぜそういうことを会計上、言語化しなければならなかったのか?「企業の価値」を測る時、清算直前の会社と、利益を挙げていてこれからも利益を挙げ続けそうな会社では、それぞれの「企業価値」は当たり前だが全く違う。言葉を変えると「企業は継続するという社会的使命、責任を持っている」ということなのだ。
「起業」というと、「業を起こす」ことにフォーカスが当たりがちだ。しかし実際には「続業(ぞくぎょう)」、つまり事業を継続することにこそ、ビジネスの本質がある。「続けられる体質」「継続できる仕組み」がなければ、事業も夢の実現も成り立つはずがない。

継続するための脳に必要な食事
 継続が重要なのはわかった。しかし、継続が難しいということを誰もが体験的に知っている。これまでに、長い間継続してきたことがあなたの中にはいくつあるだろう? 継続していることの数に比べ、継続できなかったことがいかに多いことか。なぜこれほどまでに続けることが難しいのか? 様々な分析ができる。今回は、その答えを「人間の脳の特性」という観点から解説してみよう。
 これまでの経験を思い起こしてほしい。どんな時に自分の中に強い「エネルギー」がわき起こってきただろうか? 会社で周囲の人が、自分のやったことを認めてくれた時、テレビで成功した起業家の話を聞いた時、海で大自然に触れた時にもやる気は引き出される。どんなきっかけで「エネルギー」が発生するかは人によって違う。「人」が影響を与えることもある。「物」が影響を与えることもある。時には「音楽」や、一編の「詩」が我々に強い「エネルギー」を生み出すことさえある。一見無関係なこれらの「きっかけ」に共通する要素は何か? 
 車を走り続けさせるためにはガソリンが、電車を走り続けさせるためには、電気が必要だ。ではあなたの脳がいつまでもあきらめずに、目標に向かって回転し続けるために必要なものは何か? 答えは「変化」である。車がガソリンを、電車が電気を「食べて」、走り続けるように、あなたの脳は「変化」を食べて回転し続ける。
 会社で自分の業績を周囲の人に認められてエネルギーを感じた人は、きっと毎日認められているわけではない。もし、毎日毎日評価し続けられている人であれば、今日もまた評価されたからといって特別な感慨が起こることはない。初めて、あるいは久しぶりに認められたからこそ、やる気が出たのだ。
 テレビで起業家の話を聞くことも、毎日だと飽きてくる。大自然の中でやる気が出るのは、普段、都会に住んでいるからこそだ。毎日のように海を見ている漁師が、海に出るたびに感動するだろうか? 漁師が海に感動するのは、普段とは違う海を見た時だ。
 ここに人間の本質が隠されている。我々は常に「変化」を求めている。目の前にこれまでになかった「変化」が起きた時に、脳は反応し、エネルギーを放出する。だから映画や音楽は我々をひきつける。映画、音楽の共通する要素は「変化」である。「変化」のないエンターテインメントなど存在しない。「変化」のない対象物に対して我々の脳は基本的に関心を示さない。
 なぜ我々にとって「継続」することが困難なのか? 答えは簡単だ。継続するという行為そのものが「変化」を否定する行為であるからだ。継続するとは、基本的に昨日と同じことを今日も繰り返すことである。繰り返せば繰り返すほど我々の脳は拒絶反応を示す。しかし、大きな夢、目標を達成するためには、何年にもわたって、同じことを繰り返さなければならない。この矛盾が我々の夢の達成にブレーキをかけていたのだ。
 では、我々にとって目標に向かって何かを継続することは不可能なことなのか? そんなことはない。それをうまくやり遂げている人々がいることもまた事実だ。ではどうすればいいのか? カギは、脳の特性を利用することだ。脳が「変化」を好むのなら、その特性を逆手にとって利用すればいい。起業家として成功するような人は、基本的に日々の生活が変化に富んでいる。今日、雑誌を読んでエネルギーを得たら、明日は人に会ってエネルギーを得る。どれもすべて、自分の夢を達成するために関係がある行動なのだが、やり方を変えてみたり、視点を変えてみたり、意図的に行動に変化を呼び起こしている節がある。身近な事例を紹介してみよう。

意図的変化が継続のカギ
 手前みそで恐縮だが、このコラムの連載は本号で48回目となる。毎月毎月休まずに4年間書き続けてきた。なぜ続けられたのか? 答えは簡単。いつもやり方を変えたからだ。まず場所を変えた。ノートPCを持ち出しておしゃれなカフェ、他人のオフィス、時には山小屋の中で書いたこともある。場所を変えると環境の変化が強いエネルギーを脳に与えてくれる。時には人を変えた。構想の段階で、人に話をすると着想がわきやすくなる。そこで今回男性に話せば、次回は女性に話をする。若い人と話したら、次回は年配の人と話す。相手が変わると常に新鮮なエネルギーがわき起こる。方法も変えてみた。自分だけで書くのではなく、チームで書いたこともある。信じられないかもしれないが、カードに言葉を並べてみて、ゲームの神経衰弱のようにカードをめくり、そこから得たインスピレーションで書いたこともある。
 もちろんすべての「変化」が良い影響を与えるとは限らない。時には「変化」によって逆にエネルギーが奪われたこともある。しかし、「変化」を与え続けることだけは怠らなかった。それが今日までこのコラムを書き続けることができた秘けつである。
 ものごとを継続するためには、エネルギーが必要だ。エネルギーを得るためには脳に「変化」を与える必要がある。変化が起きるのを待ってはいけない。夢や目標を達成したいのなら、今日から自分の生活に意図的変化を取り入れよう。
 次号から第5クールを迎える本コラム。まだまだこれからも継続していく。

PROFILE
photo アクティブラーニングスクール代表
羽根拓也
日本で塾・予備校の講師を務めた後、1991年渡米。ペンシルバニア大学、ハーバード大学等で語学専任講師として活躍。独自の教授法はアメリカで高い評価を受け、94年、ハーバード大学より優秀指導教授賞(Certificate of Distinction in Teaching)を受賞。日米10年以上にわたる教育活動の集大成として、97年、東京・神田に「アクティブラーニングスクール」開校。これまで日本になかった「学ぶ力」を指導育成する教育機関として各界より高い評価を得ている。新世代教育の旗手として教育機関、政府関係機関、有名企業などより指導依頼がたえない。


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