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忙しいからできないという言い訳
「忙しくてやる暇がないんです」。よく聞く話だ。 「確かに、起業という選択肢は魅力的だ。でも、しょせん、今の仕事の状況で起業の準備をするなんて、土台、無理な話。この忙しい状態でまともな起業準備ができるとは思えない。こんな状態で起業すれば、それこそうまくいくものもうまくいかなくなる。今は起業するタイミングではないのだ。いつか、仕事の忙しさが落ち着く時がくるだろう。夢を実現するのは、それからでも遅くはないさ……」 多くの人がこんな理由で、自分の夢や目標を後まわしにしている。 世の中には、崇高な目標を抱き、確実にそれらの夢を実現した人々がいる。徳川家康、リンカーン、ガンジー、マザー・テレサなどなど……。 彼・彼女らは、夢を実現できない人に比べ、時間的余裕があったのだろうか? もしそうだとすると、時間的余裕のある人が夢を実現する確率が高く、時間的余裕のない人が夢を実現する確率が低いということになる。そう言われてうなずく人は少ないだろう。むしろ、その逆だ。崇高な目標を抱く人は、大変な環境に身を置きながらも、夢を手に入れることに成功している。 要は忙しくても、夢を実現できる力があれば、どんな夢もかなえることができるのだ。そのカギは「仕事のやり方」にある。
自分がした行為を補う仕事
3つのタイプの人間を比較してみる。最初の人を「過去君」と呼ぶことにしよう。過去君は、とてもまじめだ。でもちょっとおっちょこちょいのところがある。よく書類をなくす。しかも困ったことに、大切な書類をなくす。 一言で言うと過去君は整理が苦手なのだ。時折、困った顔をしながら、一生懸命書類を探している。今日も一枚の大切な書類をずっとずっと探していた。3時間かかってやっと見つかったという。彼の1週間の仕事ぶりを見てみると仕事の大半は、「過去」の自分の行為を補うために費やされている。おろかに思えるかもしれないが、実際には多くの人が、同様に自分の仕事の大半を過去のために使っている。
モチベーションを失う仕事
次は「現在君」だ。現在君も、過去君に負けじとまじめだ。どんな仕事でも、自分の目の前にふってきた仕事は嫌な顔一つせずにこなしていく。 しかし、そんな現在君だが、やはりまじめに働き続けるにも限界がある。一日の終わりにはよくため息をついている。どうしたの?と聞くと「同じ仕事を繰り返しているだけなので、モチベーションがどんどん下がってくるんですよ」と言う。確かにそうだ。彼の仕事は発生することをただただこなしているだけだ。ベルトコンベヤーから流れてくるものをこなすだけの仕事は、彼のやる気を奪い取る。 かわいそうだと思うかもしれないが、これも多くの人が大なり小なりはまっている現象だ。仕事をやり始めた時は面白いと思う。しかしそれが日常になった時、誰もがそれらの仕事へのモチベーションを失う。報酬という名前のモチベーションだけが彼を動かす原動力となる。現在君の心は死んでいる。
自分の未来を変える仕事
そして3人目だ。「未来君」と言う。未来君もまた、過去君や現在君に勝るとも劣らずまじめでよく働く。唯一の違いは、仕事の方向性が、文字どおり、「未来」に向かっているということだ。彼に特別な技術や才能があるわけではない。彼もまた他の人と同様にミスをする。しかし、過去君や現在君と違うのは、ミスが発生すると、そのミスを将来へとうまく利用する行動を取る。 ある時、未来君も過去君同様、大切な書類をなくしてしまった。ここまでは過去君と同じだ。何時間も書類を探したあと、うまく書類を見つけることができた。ここからが過去君との違いだ。まず、未来君は無駄な時間を費やしてしまった自分自身の仕事の進め方を猛反省するのだ。 そしてその日の夜のこと、思い立ったように会社の倉庫に入り、使われていない書類棚を見つけてきた。そして自分のデスクの上にそれをすえ付けた。ここからが面白い。せっせと工作を始め、「重要書類」「未整理書類」という区分けシートを作って、これを書類棚の引き出しに張り付けた。この作業に、合計で30分かかった。しかし、この日から彼の机の上で書類が消えることはほとんどなくなった。何が違うのか? 彼は30分かけて、「自分の未来を変える仕事」をしたのだ。 未来君のもとにも現在君同様、山のような仕事がふってくることがある。未来君も人間だ。そんな時、危うくモチベーションを失いかけることもある。しかし、未来君はそこですべてを投げ出したりしない。ここからが未来君が未来君たるゆえんだ。未来君はここでも将来を見据えた行動に出る。 未来君の部署ではたくさんの書類を上司に提出しなければならない。ある日、重要度の高い書類を提出するために、念入りに調べものをし、かなりレベルの高い書類を作った。しかし上司からおほめの言葉をもらうことはなかった。なぜか? リポートの内容は優れていたのだが、それ以外にやるべきことをおろそかにしていたからだとわかった。ささいなことだ。時間配分さえうまくやっておけばもう少しうまくいったに違いない。小さな仕事を片付けてから、書類作成を始めればよかった。それだけの話だ。しかし、しばらくしてからふと気付いた。どうもこんなことが繰り返されているような気がする。試しに自分が書いた日報をめくってこれまでにやってきた仕事を分析してみた。そして、自分の仕事が大きく2つのグループに分けられることに気が付いた。「処理系」と「無限系」だ。 処理系とは、名刺の管理、営業先へのアポ取り、出会った人へのフォローメールなど、処理するのにあまり時間がかからない仕事だ。 無限系とは、それを行うのに特にこれといって期限がないものをさす。例えば市場価値を調べるマーケット調査や新入社員に対するイズム教育などがこれにあたる。これまでの仕事を振り返ってみると、この両者のバランスが悪かったように思える。上司に怒られるのは、このうち、無限系の仕事をこなすあまりに、処理系の仕事がおろそかになった時だということに気が付いたのだ。早速、翌日、対策を立てた。これまでよりも1時間早く出社した。そしてまずは処理系の仕事をめいっぱいこなすことにした。そうすると意外に処理系の仕事は、1時間程度の時間で、だいたい完結できることに気が付いた。今までは仕事の多さにびびってしまい、それらに手を付けずにほっておくことさえあった。しかし早朝なら、誰にも邪魔されることがないから、すいすいと小さな仕事が片付いていく。これで一日がぐっと動きやすくなった。これだけのことだった。自分の仕事を見直し、仕事のやり方を変えただけで、その日から上司に「あの件、どうなってる?」と聞かれることはなくなった。ここでも彼は「自分の未来を変える」ことに成功したのだ。
仕事のやり方を変えれば、未来も変わる!
自分の夢を達成するために必要なこと、それは仕事のやり方を変えることだ。仕事をする時、自分自身に問いかけてほしい。「今やっている仕事は自分の未来を変えることにつながっているか?」この質問にノーという答えが出たのなら、その仕事は早めに切り上げて、できるだけ多くの時間を自分の未来を変える仕事に費やすべきだ。
起業に近づける人と近づけない人がいるとすれば、忙しさに違いがあるのではない。仕事のやり方に違いがあるのだ。
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アクティブラーニングスクール代表
羽根拓也 |
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日本で塾・予備校の講師を務めた後、1991年渡米。ペンシルバニア大学、ハーバード大学等で語学専任講師として活躍。独自の教授法はアメリカで高い評価を受け、94年、ハーバード大学より優秀指導教授賞(Certificate
of Distinction in Teaching)を受賞。日米10年以上にわたる教育活動の集大成として、97年、東京・神田に「アクティブラーニングスクール」開校。これまで日本になかった「学ぶ力」を指導育成する教育機関として各界より高い評価を得ている。新世代教育の旗手として教育機関、政府関係機関、有名企業などより指導依頼がたえない。
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