前のページへバックナンバーへ次のページへ  

 ●第7回 変貌するオフィス事情 急増する起業家向け物件とは?


起業ブームである。
そんなことはよく知っているという皆さん。
「いやいや、まだまだ知らないことがいっぱいありますよ」と、
声を大にして言いたい。この半年間で、
私のライフスタイルそのものが激変する大きな事件があった。
独立、起業を目指す皆さんにも参考になる、
新しいビジネススタイルのレポートを今号と次号で紹介する。

 

さらば、東京・神田。 事務所の移転への経緯
 アクティブラーニング社を設立して7年目になる。設立当初、教育サービスを提供する場としてアクティブラーニングスクールを開校し、教室機能をあわせ持つ事務所スペースを東京・神田に借りた。親切なビルオーナーさんのおかげで合計100坪のスペースを格安で借りることができた。
 しかし、我々の教育プログラムが有名になるにつれ、外部からの指導依頼がどんどん急増していく。大手有名企業からの指導依頼は、我々の教育サービスを世間に知らしめる良い機会でもあったのだ。そして、有名企業での指導が成功するとそれらが呼び水となり、さらにビッグチャンスが次々に飛び込んできた。ふと気づくと全国から指導依頼を受けるようになり、私たちは全国を飛び回ることになる。その半面、最盛期には毎晩のように開催されていたスクールでのクラスが外部指導の急増とともにこなせなくなり、激減していった。設立当初は毎晩のように神田で行っていたクラスが、月に1回も開催できないほどに減ってしまったのだ。
 このような状況下で、100坪近い場所を借り続けることは明らかに費用の無駄である。それらの費用が年間で1000万円近くになっている事実を見逃すわけにはいかなかったのだ。外部のアドバイザーからも強い叱責を受け、ついに意を決し、愛着のあふれるこの場所を離れることにした。
 今のアクティブラーニングに必要なのは、最低限の事務所スペースだけである。事務所スペースとしては、ミーティングが行いやすいターミナル駅に近いオフィスが理想的であった。しかしそういった場所はやはり家賃が高い。せっかく場所を変えることで、大幅なコストダウンを図ろうとしているのに、理想を求めすぎて大規模な出費になってしまっては元もこもない。ただ、安かろう、悪かろうに移るのは面白くない。7年ぶりの引っ越しである。それなりに満足できるスペースを探したい。
 そして、ぴったりの場所と出合った。

起業家にぴったり 汐留エリア
 東京・汐留地区である。
 通称、「汐留・シオサイト」と呼ばれるこの地域は、JR新橋駅から浜松町駅までの広範囲に及ぶ新都市地区を指す。旧国鉄が貨物駅跡地として所有していた土地からつくられたもので、一等地でありながら、その大規模スペースのおかげで、計画的な都市づくりが進んでいる。
 商業スペースとしては日本テレビ、電通、松下電工など、大手有名企業の超高層ビル群が立ち並んでいるので、一見、小規模スペースを探している私には不釣合いにも思える。しかし、そんな一等地の一角に、独立、起業を目指す皆さんにお勧めしたいベストロケーションがあるのだ。
「ヴィータイタリア」という区画がそれである。建物群、広場、石畳、街路樹など、すべてがイタリアを模してつくられており、街を歩いていると、一瞬、自分がどこの国にいるのかわからなくなる独特な雰囲気がここにはある。それらのビルの1階部分は、カフェやレストラン、ファッション関係のショップが入居している。そして、それらのビル群の中層・高層階部分が小規模オフィス用のスペースとして貸し出されているのだ。この場所で月額20万円台からというのは、事務所スペースとして安い部類に入るのではないだろうか。それなのに、まだ空きがあるというから驚きだ。まだ街全体が完成しきっていないので、意外にまだ知られていないのだという。
 イタリアというコンセプトが気に入らない人には不向きであるが、この新しい街並みを見れば、思わずここでビジネスをやってみたいと思う人は多いはずだ。実際、私自身がそうであった。

都内に急増する 起業家向けオフィス
 ただ、あまりにも満足している様子を見せると業者に足元を見られかねない。そこで、案内してくれてた仲介業者に、自分はあまり満足していないそぶりを見せてみた。
「ちょっとおしゃれすぎるかもしれませんね。私たちはビジネスでの利用ですしね……」
「お気に召しませんか? でしたら、浜松町の駅のまん前にもう少しビジネスっぽい物件もあるんですけど。いかがですか?」
「え? でもあの辺は小規模のオフィスはないんじゃないですか? 駅前の一等地ですよね」
「いえいえ、それがあるんですよ!」
 早速、そのビルに連れていってもらった。羽田空港への玄関口、JR浜松町駅の駅前に、壁面がガラス張りのおしゃれな商業ビルが建設されつつあった。ヘルメットをかぶってその中に入って行き、これまた驚いた。
 そのビルの下層、中層部分はフロア貸しの大規模オフィスであったが、高層部が小さな区画ででき上がった小規模オフィススペースであった。ワンフロアに10近いスペースがあり、15階から20階までがすべて小規模スペース向き、つまり起業家にぴったりのオフィスなのだ。
 最新のオフィスだけあり、その設備も魅力的。光ファイバー、地震対策、全面ガラス張りの大きな窓など、どこをとっても「うーん」とうなってしまう魅力的な物件であった。しかし、値段を聞いてさらに驚いた。なんと月額40万円台から貸し出し予定という。駅前の一等地でなぜそんなに安いのか? 私は8年前にいろいろなスペースを回って探し歩いたので、この値段がいかに安いかということがよくわかった。駅前の一等地ならそんな値段で小規模貸しなどしなくてもいくらでも需要がありそうだ。だが、不動産屋さんに理由を聞いて納得した。
 港区では商業ビルが増えすぎてしまい、住人が減ってしまったことへの対策として、商業ビルを建てると同時に住居スペースをつくらなければならないという条例ができたのだという。そのため、こういった一等地であっても商業ビルをつくれば、同時に、住居スペースをつくることが義務づけられている。しかし、いかにも商業ビルというところに、完全に住居空間をつくると違和感がある。そこで、昨今の起業ブームともあいまって、起業家などが利用しやすいSOHOタイプの小規模オフィスの開発があちこちで進んでいるのだ。しかも名目上は住居なので税制上の優遇などもあり、値段も安くなっているのだという。
『アントレ』を通して、起業家を応援する仕事をここ数年続けてきたので、世の中に起業ブームが起こっていることは当然理解していた。しかし、直接こうやって起業家向けサービスの実際を体感してみると、ここまで進んできたかと驚きであった。東京は知らず知らずのうちに起業家にとってとても住みやすい街に変貌しつつあったのだ。
 将来、起業を目指す人にぜひお勧めしたい。こういった新しい商業ビルを実際に見学に行ってみよう。あなたが考える事務所の概念が変わるかもしれない。駅前の一等地で、自分の城になりうる場所を体感すると、強いエネルギーがわき起こってくる。実際に五感で感じることで、あなたの起業に対するエネルギーは増幅されるに違いない。だから、東京の一等地だからとあきらめないこと。不動産業界にも大きな変化が起きつつある。独立、起業を目指すあなたにとって、今、大きな追い風が吹いているのだ。
 次号、その後、私がどういった事務所を選択することになったか、驚きの第2章をお伝えしよう。先ほどの駅前ビルを仮押さえし、絶対にここに入ろうと思ったその気持ちを大きく変えてしまう新たな出合いがあったのだ。  今、東京中にこれまでのオフィスの概念を変えてしまうような新種のサービスが続々と登場している。私は最終的に、駅前ビルではなく、その種の新サービスを選択した。あなたの起業スタイルを激変させる東京・オフィスリポートの第2段をお楽しみに!

PROFILE
photo アクティブラーニングスクール代表
羽根拓也
日本で塾・予備校の講師を務めた後、1991年渡米。ペンシルバニア大学、ハーバード大学等で語学専任講師として活躍。独自の教授法はアメリカで高い評価を受け、94年、ハーバード大学より優秀指導教授賞(Certificate of Distinction in Teaching)を受賞。日米10年以上にわたる教育活動の集大成として、97年、東京・神田に「アクティブラーニングスクール」開校。これまで日本になかった「学ぶ力」を指導育成する教育機関として各界より高い評価を得ている。新世代教育の旗手として教育機関、政府関係機関、有名企業などより指導依頼がたえない。


前のページへバックナンバーへ次のページへ