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起業家が解決するのは難しい問題だけ!
問題が発生すれば対策を練り、これを実行に移す。この「対策の実行」にも技術がある。こういうとピンとこない人が多い。対策のつくり方はともかく、それをどう実行するかにうまい、下手などあるのだろうか? と。結論から言うと、「対策を実行」するに当たって重要なことは、導きたい結果を起こりやすくする努力をしなければならないということだ。当たり前のことだが、意外にこれをやっていない人が多い。対策は「アイデア」であって成功を保証するものではない。やればそれでいいんだろうというアプローチでは、希望する結果は得られない。
「対策の実行」を問題解決のための手法という観点から分析してみよう。問題には簡単に解決できるものと容易には解決できないものがある。前者を「イージー」、後者を「ディフィカルト」と呼ぶことにしよう。
雨が降り始めた。体を濡らしたくない。では、かさを持って外に出ることにする。これは「イージー」だ。かさを準備するだけで、「望ましい結果」を手に入れることができるからだ。「イージー」な問題に取り組むに当たって、さしたる努力は必要ない。きっと、やれば希望する結果を手にすることができるだろう。我々が日常的に行っている「対策」とは、この程度のものであることが多い。しかし、起業家になり、日々、取り組んでいかなければならない問題は、こういった「イージー」なやり方が通用するものではない。従業員を雇うようになればよくわかることだが、事業主であるあなたのもとに上がってくるものは、あなたのスタッフが解決できなかった難問だけなのである。知恵を振り絞って考えに考えぬいても、やってみればうまくいかなかったということがよくある。そんな難問(=「ディフィカルト」)に取り組むのが、我々起業家の仕事なのだ。そういったディフィカルトに対しても臆せずに取り組み続ける資質が起業家には求められているのだ。
単発的アプローチと継続的アプローチ
「臆せずに難問に取り組まなければならない」といっても、困難に耐えよ、といった精神論が求められているわけではない。むしろその逆だ。我慢をしないことが重要なのだ。「ディフィカルト」に取り組んでいるわけだから、じっくりと考えた対策でも、失敗する可能性の方が高い。であれば、必要なことは、一つの対策にとらわれず、即座に次の対策に取り掛かる姿勢が重要なのだ。「ディフィカルト」なのだから何度も失敗する可能性が高い。起業家に求められているのは、3回でも4回でも次々に別の対策を打ち続けられる継続力なのだ。
私が主宰するアクティブラーニングでは、ユニークなワークを多くの企業研修や起業家向けセミナーで行っている。参加者をグループに分け、参加者に対策の考案、そして実行を競いあってもらう。そしてどのチームが最も高い成果をあげることができるかを競い合う。このワークを数年間にわたって実施した結果、高い成績を収めるグループと低い成績しか収められないグループに行動パターンの違いがあることに気が付いた。まず、成績の低いチームは、対策そのものを打つ数が少ない。ひとつかふたつの方法を試し、多少なりともうまくいけばその方法を最後までずっと使い続ける。驚いたことにうまくいかなくてもそれ以外の方法を試そうとはしない。ただ黙々と同じことをやり続ける。「単発的アプローチ」がこのグループの特徴だ。
それに対して、成績の高いグループは、全くその反対である。様々な対策を次から次へと考案し、実践していく「継続的アプローチ」だ。失敗してもめげることはない。まるで実行の回数を増やすことに意味があるかのように、次々とアイデアを出し、これを実行に移していく。「下手な鉄砲、数撃ちゃ当たる」と言いたいのかと問われれば、イエスでもありノーでもある。数を打たなければならないという点ではイエスだ。しかし無駄な時間や労力をたれ流す「下手な鉄砲」を撃つ余裕は我々にはない。「ディフィカルト」に立ち向かう起業家に求められているのは「うまい鉄砲、数撃って奇跡を当てよ」ということである。
起業後、自らの事業を拡大していくためにDMをまくことを思いついたとする。そのDMに書くユニークなキャッチフレーズも突き抜けている。しかし、そのフレーズがどんなに魅力的であってもそこで満足してはいけないということだ。DMをまけば、何がしかの結果が得られるかもしれない。しかし100%ということはない。いやむしろあなたが思い付いた程度のフレーズなど、日本中を探せばもっと良いものをつくれる人がいると考えるべきだ。起業家のあなたが取り組まなければならない問題は「イージー」ではない。「ディフィカルト」なのだ。たったひとつの武器で立ち向かおうとする習慣を、ただちに改めるべきだ。
起業家として成功している人の多くがこのことに薄々気付いており、意識的なのか、無意識的なのか、この「継続的アプローチ」を行う習慣を持っている。DMを出すと同時に、インターネットでの対策を考える。同時にスタッフの顧客対応の方法を変えてみる。やろうと思えばいくらでも実行できることはある。起業家は満足しない。休むことなくより良い方法を求め、常に自らを進化させることを最優先するのだ。ほんの一瞬でも時間ができれば、もう一歩何かを実行する習慣を持つこと、これが起業家を目指すあなたに必要な資質なのだ。
できることは打率を上げることのみ
私自身、この習慣を意図的に持ち続けてきた。そのおかげで自分の会社に「望ましい結果」を何度も導くことができた。その典型的な例をひとつ紹介してみよう。会社設立数年目に、自分の会社をより多くの人に利用してもらうための対策を考えていた。当時口コミでアクティブラーニングが広まりつつはあったが、ゆるやかなものであった。よりスピーディに多くの人に利用してもらう対策を打ちたかったのだ。そこでまず新聞や雑誌の広告を打つということを行ってみた。様々な戦略を練り、我々の会社としてはかなり大規模な予算を費やすことにした。しかし、その広告を申し込むと同時に、次の手を考えた。広告の結果が出るまで指をくわえて待つのは「機会の喪失」である。予算をかけずにできることはないかと即座に考えたのだ。広告を申し込んだ日、夜中の2時に、突然、新聞社にニュースリリースを打つことを思い付いた。それまで一度もニュースリリースを行ったことはなかった。1時間で文章を書き上げ、数社に配信した。すると翌朝、日経新聞から早速電話がかかってきた。取材の申し入れであった。その後、日経新聞の一面にカラー写真で弊社のことが紹介された。それから全国から問い合わせが殺到するようになった。ちなみに、この時、同時に行った新聞広告の結果は、「可もなく不可もなく」であった。広告には数百万円をつぎ込んだ。ニュースリリースにはたった1時間の労力をつぎ込んだのみである。ではこの新聞広告は無駄であったのか? そうではない。実際、これ以外の対策もこの時に打っている。その中のメディアリリースがたまたま花開いたのだ。事前にどの花が咲くかを完全に予測することはできない。我々にできることは、最善と思われる対策を次々に打ち続け、その「打率」を上げることなのだ。
日々の自分の習慣をしっかり見直してみよう。簡単なところで「単発的アプローチ」で終わっているケースをいくらでも見つけることができるはずだ。ひとつの対策を実行した時、その流れでそのまま次の新たな手を打つことを習慣化しよう。
実際に起業家になった時、この「継続的アプローチ」の習慣が自分を助けてくれるだろう。
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アクティブラーニングスクール代表
羽根拓也 |
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日本で塾・予備校の講師を務めた後、1991年渡米。ペンシルバニア大学、ハーバード大学等で語学専任講師として活躍。独自の教授法はアメリカで高い評価を受け、94年、ハーバード大学より優秀指導教授賞(Certificate
of Distinction in Teaching)を受賞。日米10年以上にわたる教育活動の集大成として、97年、東京・神田に「アクティブラーニングスクール」開校。これまで日本になかった「学ぶ力」を指導育成する教育機関として各界より高い評価を得ている。新世代教育の旗手として教育機関、政府関係機関、有名企業などより指導依頼がたえない。
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