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 ●第3回 希望的対策と必然的対策


起業し、事業を開始しても、多くの起業家が
その途中で挫折し、消え去っていく。
事業を継続できる人とできない人の違いは何なのか?
違いは「対策」の立て方にある。
今回は、自分の思いを実現していくために必要な
「対策」の立て方についてお話ししてみよう。

 

神様に近づくための方法はきっとある!
 事業を開始して、半年になるという起業家に出会った。彼は起業前に私の講演に何度か来てくれ、その後このコラムの愛読者となり、結果的に起業にまで結びつけることができたという。しかし、久しぶりに会った彼の横顔はあまり芳しくなかった。お店を始めたのだが思うように客が集まらなくて四苦八苦しているいという。どんな対策を打ったのかを聞いてみた。
「チラシをまいて集客を狙ってみたんですよ。開業当初はかなりお客さんも来てくれました。これは調子がいいぞって思って、同じようにちらしをまき続けたんですけど、だんだんと客足が遠のいてきて……。ご存じのようにチラシをまくとコストがかかります。これが経営を圧迫してきて、今ではもうあと数回のチラシをまくほどの余裕しかないんです……」
「事業やるって大変でしょ?」と苦労をねぎらうと彼はこう言った。「雇われの時は経営者のやり方を見ては、腹を立ててね。自分がやればもっとうまくいくと思ってたんですけどね。実際には、そうですね……。甘かったっていうことでしょうね。このままいくと事業をたたむのも時間の問題です。やれることは全部やってみたつもりなんですけど、思うようにいきません。自分は起業家には向いていないのかもしれませんね。恥ずかしい話なんですけど、今日この後、困った時の神頼みで、神社にお参りに行こうと思っているんです。神様が自分の思いをかなえてくれたらなって……甘いですかね?」
 もちろんこの事業家を責めるつもりはない。多くの起業家が経営に失敗している。起業し事業を継続するということは容易なことではないのだ。私自身、事業を継続するにあたって何度も「これで終わりか」といった瀬戸際に追い込まれてきた。正直、神頼みに走りたいという彼の気持ちはよくわかる。
 神様と同等の力を持つことができればどれほどすばらしいことだろう。客が必要なら即座に集めることができる、従業員が問題を起こしてもさっとその問題を解決することができる。そんなスーパーパワーがあればどんな事業でもうまく続けていけるに違いない。
「神様になることはできないでしょうが、神様に近づくことはできますよ!」 
 事業継続をあきらめようとしている彼にこんな言葉をかけてみた。

事業を継続できる人できない人
 私自身、起業し事業を継続してきたが、7年たってようやくわかってきたことがある。それは事業を継続するとは、限りなく「神様に近づこうとする行為である」ということだ。事業継続のためには、文字通り神様のごとく、将来を希望する方向に導ける力がなければならない。神様に近づく秘訣とは? カギは「対策」の立て方にある。
 自分の思いを実現できる人、事業を継続的に成長させることができる人は、思いを確実に実現するために「必然的対策」を立てようとする。それに対し、思いを実現できない人、事業を失敗へと追いやってしまう人は、対策が「希望的対策」で終わっている場合が多い。
 集客のためにチラシをまくとする。あなたならどんなふうにチラシをまくだろう? 集客がうまくいかないという彼に、どんなふうにチラシをまいたのか聞いてみた。「そうですね、商品の写真をできるだけたくさん並べて、好評発売中! みたいなキャッチーな言葉を並べてみたんですけど……」
 彼はこのチラシを何回もまき続けたのだという。彼が求めているのはこのチラシを見た客が彼の店に足を運ぶという「結果」だ。しかし、このチラシからそんな「結果」を導くことができるのだろうか? 商品の写真を並べただけでお客さんはわざわざ足を運んでくるのだろうか? 「好評発売中!」という言葉を見て、客の心はひきつけられるだろうか? 彼が行った対策は、残念ながら「希望的対策」にしかすぎないといわざるを得ない。
 思いを確実に実現させるために、彼はチラシをつくる段階で自分自身にこう問い掛けるべきであった。「このチラシを見て、お客さんは絶対に来るといえるだろうか?」。100%絶対に客を寄せ付けられると言い切ることは不可能かもしれない。しかし、100%に近づけることはできる。例えば、もしチラシにこんなことが書いてあったらどうだろう? 「今週土曜日、ご来店のお客さまには全員もれなく1万円差し上げます!」。こうなればぐっと客が来る可能性が高まることは疑いない。なぜか? 当たり前である。行くだけで1万円をくれるのであれば誰だって行きたいと思うに違いない。あるいはこれならどうだろう?「ご来店のお客さま、1名様に限り1万円差し上げます!」。こらならさっきのチラシほどは客足は増えないだろう。来店客が多くいる中で自分がもらえるとは限らないという心理が働くからだ。
 この単純な2つの事例の中に、事業を継続的に発展させていくための重要なカギが隠されている。
 ビジネスを行っていくうえで大切なことは、「原因」と「結果」を明確に追求するということだ。どういった「原因」をつくり出せば、希望する「結果」を導けるのか、これを徹底的に考え、できることできないことを試行錯誤しながら、対策を考えていくのだ。「チラシをまく」という原因から、「客が来る」という結果を導くためにやれることは数多くある。しかし多くの失敗する起業家は「希望的対策」程度のことしかやっていない。

必然的対策が希望する結果を導いてくれる
「ゴミを捨てないようにしましょう!」。田舎でこんな看板をよく見かける。こういう看板で、望ましい結果を得られるであろうか? この看板にあるのは、「ゴミを捨てる人がこの看板を見て、捨てるをのやめてくれればいいなあ」という「希望的観測」だ。こういう看板の下に限ってゴミが山積みになっていたりする。この看板を笑うことはできない。
 驚いたことに有名企業でさえも「希望的対策」で満足しているケースが多い。「お客さまが喜ぶサービスを!」と書かれた張り紙のすぐそばで、スタッフが客を無視してぺちゃくちゃと話している大手ファストフード店を見たことがある。この「希望的張り紙」が希望する結果を得られていないことは言うまでもない。大企業だけではない。日本という国が出す対策もまた、その大部分は「希望的対策」である場合が多いい。例えば環境問題。「環境のためにゴミを出すことはやめましょう!」こんなお題目を聞いたことがあるだろう。これをテレビCMで流してみたところで、効果のほどは知れている。
 環境問題の先進国ドイツでは、環境問題に対する「必然的対策」を行っている。ゴミの回収を有料とし、プラスチックなど自然への還元率が悪いものほど、高い回収費用がかかるようにルール設定を行っているのだ。ゴミを出せばお金がかかるので、消費者は過剰包装などを嫌い、ゴミが少ない商品をこぞって買うようになった。結果、企業もこぞって自社製品から無駄な包装を省くようになっていった。効果は劇的であった。「必然的対策」を立てれば、自分が希望する結果を手に入れることができる。「必然的対策」が我々を一歩、神様に近づけてくれるということだ。
 起業家は計画を立て、そしてそれを実行する。その時、起業家の頭の中で必要なものは、「必然的結果」を導こうとする思考回路だ。なんとなくそうなればいいなという程度の考えならやらない方がましだ。生き残っていくために必要なのは、常に希望どおりの結果を得ようとする「必然的対策」を導こうとする思考回路だ。
 今日、あたなが立てた対策をもう一度振り返ってみよう。「その対策から100%希望できるような結果を得ることができるのであろうか?」。その可能性が1%でも高められる努力を行っていけば、我々は一歩ずつ神様に近づくことができるようになる。


PROFILE
photo アクティブラーニングスクール代表
羽根拓也
日本で塾・予備校の講師を務めた後、1991年渡米。ペンシルバニア大学、ハーバード大学等で語学専任講師として活躍。独自の教授法はアメリカで高い評価を受け、94年、ハーバード大学より優秀指導教授賞(Certificate of Distinction in Teaching)を受賞。日米10年以上にわたる教育活動の集大成として、97年、東京・神田に「アクティブラーニングスクール」開校。これまで日本になかった「学ぶ力」を指導育成する教育機関として各界より高い評価を得ている。新世代教育の旗手として教育機関、政府関係機関、有名企業などより指導依頼がたえない。


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