お店で独立を目指す人必読! いろんな業種で独立した先輩たちに立ち上げから運営まで全部聞いた!
OH! MY SHOP 先輩達の開業実録
注)記事内で表記されている金額はすべて取材時のものです。
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Vol.106,日本茶カフェ
佐人  の場合
インタビュー
佐人
オーナー・佐々千尋さん(61歳)

おいしいお茶と会話を楽しめる。
大人が長居できる店をつくりたかった
PROFILE
さっさちひろ/1946年、京都府生まれの大阪育ち。大学卒業後、大手製薬会社に入社。営業職に就く。広島、山口、札幌への転勤を経て、14年前に東京へ。55歳で早期退職をし、2002年5月、妻の知子さんとともに、「佐人」をオープンする。写真右は妻の知子さん。
開業のノウハウ
 
 店内には、中年の女性客たちと、オーナーの佐々さん夫妻の笑い声が響いている。女性客は、佐々さんが入れる日本茶と、佐々さんとの会話を堪能し、満足した顔で店を後にする。お客をエレベーターまで見送り、佐々さんの接客が終了。
 自身が厳選したお茶と甘味を提供し、お客との会話を楽しみ、お客の姿が見えなくなるまで見送りをする。これが、「茶遊処 銀座 佐人」を経営する佐々さんの“オレ流のおもてなし”。そして、佐々さんが実現したかったお店の姿でもある。
 体力があるうちにと、銀座で日本茶の喫茶店を開くために会社を辞めたのは、55歳の時だった。
 「以前から、自分たち世代が、一人でお茶を飲みながらゆっくりくつろげる場がないと感じていました。それなら自分がつくろうと思ったのです」
 開業場所は、銀座と決めていた。
 「お茶だけでなく、店の空間づくりにもこだわりたかった。日本の文化を感じられるように、茶室の要素を取り入れました。そんな自分の信念を理解してくれる大人が集まる場所は、銀座しかないと思ったのです」
写真
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お茶と木、土、和紙……。日本文化が凝縮された店内

 店は銀座の中心部、ビルの地下にある。ドアを開けたそこには、都心の喧騒とは全く無縁の、まるでマイナスイオンが放たれているかのようなすがすがしい空気が流れている。その理由は、店内を見渡すとよくわかる。天然の木でつくられたカウンターやテーブル。壁には、空気の浄化機能を持つ珪藻土という土が塗られ、天井には和紙が張られている。古くから守り伝えてきた、日本の風土に合った素材で覆われた空間。
 さらに、壁には書画が飾られ、季節を感じる生け花が、店内のところどころに配されている。余計なもの、華美なものなどは一切なく、日本茶を飲むためだけにつくられたかのような、和の空間。
 かといって、静まり返り、声をひそめて話さないといけない雰囲気は一切ない。ここには、お客と佐々さんの、または初対面のお客同士の会話があり、笑い声がある。
 「お客さんと、または初めて出会ったお客さん同士が会話できるというのは、とてもぜいたくなことだと思うんです。大人が、日本茶をゆっくり飲みながら会話を楽しめる店をつくりたかった。ここは、銀座で一番長居できる喫茶店だと思いますよ(笑)」

メニューはお茶と甘味と雑煮。価格は1260〜1470円

 お茶のメニューは、和または洋菓子付きの煎茶が7種類、玉露、抹茶が各1種類、せんべい付きの焙じ茶が1種類の計10種類。
 お茶には「島田の美波」「薩摩の光」といった名前が付けられていて、どれも佐々さんのネーミング。
 また、メニューには、「美しい水色、まろやかな味」「個性的な玉露風味の煎茶」などの注釈が付いていて、お茶の色や味への想像がわく。それを一つ一つ、佐々さんがもっともおいしい状態で入れ、「砂時計の砂が落ちきったら飲んでください。1煎目と2煎目では味が違いますから、それもぜひ楽しんでください」と一言を添えて出す。お茶のうまみを思い知らされると同時に、繊細さ、奥深さを感じずにはいられない。
 お茶以外にも、わらび餅やあんみつなど、妻の知子さんがつくる甘味や雑煮もあり、その味はどれも味わい深く、こちらを目当てに訪れる客も多い。
 メニューはお茶と甘味と雑煮のみで、価格は1260〜1470円。お茶の料金としては安くはないが、この金額がそのまま客単価と考えると、この形態の店を、銀座で経営していくのは、かなり厳しいはずだ。
 「そのとおりです。6年目でやっと黒字になるかならないかですから、儲からない商売です。最初の1年間は赤字覚悟でしたが、さすがに5年も続くとは、正直思っていなかったですね」
 銀座という土地柄、客は全国からやって来る。アーティストやマスコミ関係者など客層も幅広く、週に1度は来店する常連客も増えた。
 「味、空間、接客……、最高のおもてなしをしていても、利益を確保するのは大変なこと。これが現実であり、銀座で商売をする難しさなんです」
 とはいえ、新規店舗の平均寿命が1年半ともいわれる銀座で6年目を迎えたのは、「銀座の地に恥じないおもてなし」を継続する努力をしてきたから。
 「店を持たなければ、これほどたくさんの人と出会うことはなかった。“人”が私の財産です。だから、毎日お客さんと楽しく過ごせるんだと思います。その分、妻には苦労かけていますが(笑)。もう少しで黒字になります。コンスタントな黒字経営と、70歳まで続ける、これが当面の目標ですね」

■オープンまでの経緯
 
2001年4月 日本茶の喫茶店を開業することを決意
2001年10月 物件探しを開始
2001年12月 物件が決まる
2002年4月 内装工事着工
2002年5月 18日オープン
 
SHOP DATA
所在地
東京都中央区銀座6-11-14
アセンド銀座6丁目B1
平均客単価
1400円
最寄り駅
東京メトロ銀座駅
平均来客数
25人/1日
アクセス
03-5537-1245
売り上げ
非公開
営業時間
11:00〜20:00(日曜・祝日は〜18:00)
経費
50万円/月(家賃、光熱費)
定休日
月曜
仕入れ
売り上げの20〜25%/月
広さ・席数
16坪・16席

開業のノウハウ