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成長し続ける仕組みを持つことが重要
少し前までは、売れる商品やサービス、強い販売力やマネジメント手法の有無が強いビジネスの象徴だった。しかし今は違う。どれだけ優れた商品や手法であってもすぐに時代遅れとなってしまう。大切なのは既存の商品や手法そのものではなく、常に新しい何かを「生み出し続けられる力」の有無が問われる時代になってきたのだ。
結局、企業活動、あるいは人間活動をつきつめると、「前より良くすること」。つまり、「成長すること」が求められているというわけだ。21世紀に入りインターネットが世界をつなげたことで、変化の速度が加速され、より一層そのことが明確になってきた。
どんな優れた商品を開発しても、すぐにそれを上回る商品やサービスが台頭してくる。そこで勝ち続けるためには、常に成長し続けられるような仕組み、仕掛け、さらには成長のDNAともいうべき装置を企業内にすえることが成長のための最重要課題になってくる。アメリカの企業はいち早くこのことに気づいていた。社内に成長や学びを引き起こしやすくするための役職、「CLO(=Chief Learning Officer)」を設置する企業が増えているのもその一例だといえる。
アメリカの超一流企業・GEでは、早くからこのCLO職を社内に設置し、自らが優れた「成長エンジン」を有する企業であることを世界に訴え続けてきた。もちろん、その流れは今も変わらない。あるいはより一層、その姿勢が明確になってきているとさえいえる。この原稿を書いている時点で、現在のGEのホームページを見てみると、あちこちに「成長」の言葉が並べられており、自社が成長企業であることを印象づけようとしているのがよくわかる。例えば、企業紹介のページに「プロセスとしての成長(Growth as a Process)」というタイトルで、現・会長兼CEOのジェフリー・R・イメルト氏とハーバードビジネスレビュー誌との対談を掲載している。そのリポートの中でも、成長はGEにとってはプロセスの一部。つまり、企業の中に完全に組み込まれたものなのだと言い放ち、その成功事例を具体的なケーススタディを掲げて紹介している。
自社がいかに優れた「成長エンジン」を持っているかを競い合い、その優位性を株主や市場に訴えていく。企業にとって、これからはそのような競争が強いられる時代になっていくに違いない。当然、マーケットもこのような姿勢を企業に求めるようになっていく。優れた成長エンジンを持つ企業は優秀な企業と認められ、持たない企業であればそれが企業価値を下げる要因となる。どんなに優れた商品であろうがそれは一過性のものであり、成長が見えなければ不安定であると判断されるからだ。すでに「成長エンジン」の資質を測る指標は様々な視点から数値化されつつあるが、ROEのように、企業の評価基準としてなくてはならないものが、今後より明確化されるであろうことは疑いない。
個人の「成長エンジン」を求める流れ
この流れは、何も企業だけにとどまる話ではない。個人の資質を表す評価基準も大きく変わりつつある。これまでの日本企業においては、どこの大学を出たかが人材評価の一つの基準であった。しかし、実際のビジネスの現場で力が発揮できる人材であるかどうかを見定めるためには、出身大学は関係ないと判断する企業も数多く出始めている。大学名ではなく、その人自身にどのような可能性があるのか? つまり、成長可能性を持っているかを問うべきであると考え、学歴をあえて無視するという採用方針をとっている会社もある。「ソニー」の学歴不問採用は、新聞記事にもなったのでご存じの方も多いだろう。
多くの優れた人材を世の中に輩出している「リクルート」の場合、新卒採用の面接担当だけで100名近い人材を抱えていた時期があり、かつ、ひとりの学生に対して1対1の面接を10回近くも繰り返していたというから驚きだ。そのプロセスを通して、成長する資質を持った人材であるかどうかを徹底的に見極めようとしていたのだ。「リクルート」が欲しがる人材、それはずばり「成長エンジン」を持った人材であるといえるだろう。
米国大学における変化。
〜専門性から成長性へ〜
私は、このような時代になることを、90年代にアメリカの大学で指導していた時期から感じとっていた。ハーバード大学、ペンシルバニア大学といった超一流大学で指導する経験を持ったのだが、90年代に入り、学生たちは時代の変化に翻弄されつつあった。
アメリカでインターネットが一般化した90年代に、これまで見たこともなかった様々な新しいビジネスやサービスが社会を席巻していった。「これまでの知識が通用しないではないか……」。多くの学生たちがそんな不安を口にするようになっていった。
アメリカの大学で、知識武装をするために2つ以上の異なった専門を持つ「ダブルメジャー」という言葉がはやりだしたのもこの時期だ。1つの修士号、博士号を持っていてもその内容だけではもう古い。そこで2つの専門を持つことで、新しい専門性を有した人材になることを目指すといったものだ。
しかし、ここで大切なことは専門領域の数ではない。異なった専門領域をぶつけ合わせることで、新しい考え方、可能性を生み出すことを目指しているということだ。異なったものを組み合わせること、これは「成長技術」の基本法則の一つである。生物は何億年も前からこの手法をとり入れ、進化してきた(=生殖活動)。しかし、時代は更なる進化を我々に求め始めている。何世代も交配を繰り返して進化につなげていくのではなく、数カ月、数日間という短期間での進化が可能になってきた。ネットが成長の速度を変えた。インターネットの登場である。Webで人材をつなぎ合わせれば、時間や空間を超えて、相互学習が可能になる。企業はネット上で、社内外の情報が活発に交流され得る仕組みを考え、バーチャルな世界でで新しいアイデアが生まれやすいフィールドをつくった。数時間のうちに、知識や知恵がどんどん飛び交い、交配し、新しい優れた知が生まれてくる。時代は、「ナレッジセックス(=知的交配)」の時代へと突入していったのだ。
「成長エンジン」をインストールしよう
このような時代の中で、あなたは今、起業を目指している。言わずもがな、これからはあなた自身がいかに成長の速度を早めるかを考え、かつ自身が成長し続けることができるということをPRしていかなければならない。金融機関で資金を調達する時、従業員を雇う時、さらには顧客に対して商品価値を説明する時でさえも、自分の事業に、あるいは自分自身に「成長エンジン」がインストールされていることを説明し続けなければならない。そしてその成長エンジンの質にこだわり続ければ、おのずと多くの資金が集まり、優れた従業員を集めることができ、かつ顧客もあなたの商品やサービスを買い続けることになるだろう。
ここで自分自身に問いかけてみてほしい。自分はここ数年でどういう成長をしてきたのか? 成長のためにどんな仕組みや仕掛けを生活の中に取り入れているのか? そしてこれからやろうとしている事業が常に成長するために、どのような戦略があるのか? こういった質問を自分自身に何度も何度もぶつけ、答えを探し、実行を繰り返してほしい。そうすることでいつしか、成長は当たり前のものになり、あなた自身のオリジナルの成長法が見いだせるようになってくるだろう。
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アクティブラーニングスクール代表 羽根拓也 |
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ハーバード大学などで語学専任講師として活躍。独自の教授法が高い評価を受け、94年、ハーバード大学より優秀指導教授賞(Certificate of Distinction in Teaching)を受賞。日米10年以上の教育活動の集大成として、97年、東京で「アクティブラーニングスクール」開校。これまで日本になかった「学ぶ力」を指導育成する教育機関として各界より高い評価を得る。新世代教育の旗手として教育機関、政府関係機関、有名企業などから指導依頼がたえない。現在は、デジタルハリウッド大学・大学院専任教授兼CLOも兼任。
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