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自分でつくり出した幻影。「不安」を分析する
「そうですね。起業したいんですけど、不安なんですよ。うまくいくのかな〜って。だからどうしても一歩前に踏み出せなくて……」 起業に興味はあるが、起業後、うまく事業を運営していけるかどうかが不安で、どうしても実際に起業するまでには至らないという人が数多くいる。しかし、起業前も起業後も「不安」がなくなるということはない。起業は「挑戦」するということである。挑戦する以上、常に不安はつきまとう。やったことがないことをやることが挑戦なのだから、起業前も起業後も100%不安が取り除かれるという状況が訪れることはない。つまり、「起業」と「不安」は切っても切れない関係にある。起業を目指すのであれば、「不安」とうまくつきあう術を身につけなければならない。 子供のころ、夜中にトイレに行くことが怖くなかっただろうか? 昼間は怖くないトイレが夜になると怖くなる。なぜか? 答えは簡単。夜になると、周囲が見えなくなるからだ。暗いと何が起こるかわからない。暗闇から何かが飛び出してくるかもしれない。そんな思いが子供を「不安」にする。つまり視覚できない状況が「悪いこと」を連想させるのだ。しかし実際に、自分の家にあるトイレの周辺から、何かが飛び出てきたという経験を持つ人はほとんどいない。経験や計算から不安になるのではない。「自分でつくり出した幻影」によって、不安を感じるのだ。 学生の頃、好きな人への告白がなかなかできなかった。そんな思い出を持つ人は多いだろう。普段は、その人と普通に話すことができるのに、いざ告白するとなると、とたんに声が震え何も言えなくなる。ではなぜ、告白する段になって急に不安になってしまうのか? 答えは簡単。相手の反応が予測できないからだ。イエスと言ってくれるのか、ノーと言われてしまうのか? あるいは中途半端に照れて、そのままだまりこんでしまうのか? 頭の中をぐるぐると連想がかけめぐる。ここでも「自分でつくり出した幻影」によって、一喜一憂する。
「不確かさ」が生む不安には「確かなもの」の準備で対抗
不安をつくり上げているもの。これを一言でいうと「不確かさ」である。物事が不安定で不確かな状況に対し、我々はすぐに不安を感じる。しかし、この不安は我々を動かす原動力でもある。以前にもこのコラムで書いたが、不安は心のレーダーだ。目の前に広がる不安定な要因に対して、脳が警報を出している状態が「不安」であると考えるとわかりやすい。目の前の現象が、不慣れなことであったり、不確かなものであれば、当然、様々な危険が伴う。であれば「不安」というかたちで、問題解決へと向かうエネルギーを発生させていると考えられる。 それゆえ我々は、はっきりとした「確か」なものに対して「不安」を感じることは少ない。もし夜トイレに行った際、暗闇の向こうを赤外線で見ることができたなら、あるいは愛の告白の結果が100%受け入れてもらえるとわかっていたら……。 あなたがもし、起業したいのであれば、起業関連で不確かなことを、ひとつひとつ「確か」なものに変えていけばいい。あなたが飲食ビジネスを始めたいと思っているとしよう。売り上げを継続的に挙げられるかどうかが不安だ。売り上げを継続的に持続させるために必要なものは何か? 例えば、料理の味がある。どこよりもおいしい料理を提供できれば、おのずと客は来てくれるだろう。これまで、飲食ビジネスをやってみたいという気持ちはあったが、この部分が「不確か」であったから、起業することを戸惑っていたのではないか? この「不確かさ」を「確かなもの」に変えるためにできることは、数多くある。調理学校に行く、飲食店に弟子入りする、料理を多くの人に食べてもらうなどなど。これらの準備を確実にこなしていくことが、「不確かさ」を「確かなもの」へと変えていく。 もしあなたが、資金に不安があるとしよう。不安を取り除くためには、文字どおり、お金を稼ぎ、貯蓄することから始めなければならない。 あなたがITビジネスを始めたいと考えているとしよう。今はやりのSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)を提供するビジネスをやればうまくいくのではないかと。しかし、そんな夢は持っているのだが、果たしてそのビジネスをやるのに必要コストがいくらぐらいかかるのか、実際に調べたことがない。意外と起業予備軍の中にはそんな人が多い。たいがいの情報は今の時代、ちょっと調べればすぐにわかる。本、雑誌、インターネット、すでに起業した人に問い合わせてみるなど。これらの情報を集め始めると、次第に不安と思っていたことが不安ではなくなってくる。 調べてみると、そのビジネスを行うのにかかる最低限の費用は、簡易なものであれば30万円もあればできるということがわかった。30万円なら、ちょっと頑張れば数カ月でためられそうな額だ。俄然、やる気が出てきた。「よし、頑張って30万円をためて、起業を実現しよう!」 不安定な要因をクリアにすれば、強いエネルギーが発生する。このエネルギーが我々を前に押し出してくれる。不安定な要因がマイナスのエネルギーだとすれば、クリアになったことで発生するエネルギーはプラスのエネルギーだといえる。この否定と肯定の両方のエネルギーこそが、我々を前進させてくれるエネルギー源なのだ。起業家として成功する人の多くが、この両エネルギー使いの達人である。
「とらえ方」の問題を克服し心を「確か」なものにする
さて、これまでお話ししてきたとおり、起業家を目指す以上、不安要因がなくなるということはない。ひとつ「確か」なものが生まれても、一段階上がったところで、必ずそれ以上の「不確かさ」が発生してくる。事業を続ける限り、未来永劫、不安要因が消えることはない。 さて、ここまでわかると、もうひとつ確かにすることができるものがある。「心の安定」だ。そもそも、不安と安定とは心の問題であり、自分が目の前の現象をどうとらえたかということがすべてである。暗闇を恐れない子供もいるし、告白することを恐れない若者もいる。同様に、何の準備もできていないのに平気で起業していく人もいる。 そのことに気がつくと、今、自分が悩んでいること、苦しんでいることは、自分自身の「とらえ方」の問題であり、とらえ方を変えればどうにでもなる問題であるということがわかる。悩んでも仕方がないということに気がついた時に、あなたは起業家として一歩大きく前進したことになる。 実は多くの起業家がこのような開き直り気質をもっている。「そんなに苦しんでも仕方ない」「うまくいくかどうかなんて神様だってわかりゃしない」、こういった一見、いい加減な開き直りとも取れる視点を、多くの成功した起業家は持っているのだ。100%成功するということなどあり得ないことなので、この考え方は正しい。ただ、投げやりになっているわけではない。一方で緻密な計算をし、できる限りの準備をしつつも、もう一方で、「すべてがうまくいくわけではないので、うまくいかなくても悲観的になることはない」、という相矛盾する意識を交互に使い分けているのだ。この二重人格が、起業家を成功に導く「交流思考」なのだ。 起業を成功させるためには徹底した準備を行う。そして、それらが全部失敗することも恐れていない。この両方の思考を同時に持てるようになってきたら、自分の心が安定してくるのがよくわかる。自分の心が「確かなもの」になった時、あなたは真の起業家としての資質を手に入れたことになる。
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アクティブラーニングスクール代表
羽根拓也 |
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ハーバード大学などで語学専任講師として活躍。独自の教授法が高い評価を受け、94年、ハーバード大学より優秀指導教授賞(Certificate of Distinction in Teaching)を受賞。日米10年以上の教育活動の集大成として、97年、東京で「アクティブラーニングスクール」開校。これまで日本になかった「学ぶ力」を指導育成する教育機関として各界より高い評価を得る。新世代教育の旗手として教育機関、政府関係機関、有名企業などから指導依頼がたえない。現在は、デジタルハリウッド大学・大学院専任教授兼CLOも兼任。
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