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海外で入学式を行うデジタルハリウッド大学
先日、オーストラリアに行ってきた。私が教鞭をとっているデジタルハリウッド大学の入学式に参加するためだ。この大学について少し説明しておこう。デジタルハリウッドは、コンピュータグラフィックス(CG)、Webデザインなどの制作に携わる人材を育成する教育機関として、94年に東京で設立された。日本初の実践的マルチメディアスクールとして、これまで多くのクリエイター育成を手がけてきた。 そのデジタルハリウッドが2004年、政府の構造改革特区推進会議が推し進める特区制度を利用して、日本で初めて株式会社立の大学院を、そして翌年には大学を設立した。株式会社が経営する日本初の大学ということで、マスメディアにも大きく紹介されたのでご存じの方も多いだろう。 この大学で、私は全学生に「アクティブラーニング・学ぶ技術」を指導している。アクティブラーニングの基本理念である「自己成長力」を身につけてもらい、変化の激しいデジタル社会の中で生き残ってもらうためだ。 さて、様々なユニークな試みに取り組んでいるデジタルハリウッド大学であるが、入学式を外国で行うということも話題のひとつとなっている。昨年はアメリカのハリウッドへ、今年はオーストラリアのクイーンズランドへ、それぞれ220名の学生を連れて行った。なぜ入学式を行うために、わざわざ外国にまで行くのか? それはデジタルハリウッドの学生たちに、将来のはっきりとした「ゴールイメージ」を持ってもらうためである。
体感することが強いモチベーションを生む
デジタルハリウッド大学では、世界に通用するデジタル・クリエイターを育成することを目指している。実際にデジタル業界では、ほかのどの分野と比較しても世界で活躍する人材が生まれやすい環境が整っているのだ。なぜか? デジタル業界では、世界共通語ができ上がっている。フォトショップ、イラストレーターといったソフトウェアは世界中のクリエイターによって使われている。それらのソフトを使いこなすことができれば、アメリカでもシンガポールでもヨーロッパでも活躍することが可能なのだ。 実際に、ハリウッドで活躍するCGクリエイターの中には日本人も数多く存在している。デジタルハリウッド大学では、まず入学と同時に学生を海外に連れ出し、これらのデジタル業界の現場を肌で体感してもらう。第一線で活躍するクリエイターの働いている現場を自分の目で見ることで、それが彼らの強いモチベーションとなって、学生生活が何倍も生産的なものになることを目指しているのだ。 昨年はハリウッドに学生を連れていき、映画制作の本場の仕事プロセスを、今年はオーストラリアのクイーンズランドに行き、世界的に有名なデジタル系制作会社の現場を体感してもらった。1億円するというソフトウェアで素晴らしい映像をつくり出す様子を見せてもらい、学生たちも興奮さめやらぬという様子であった。またそれらの会社をつくった社長から、直接学生向けのお話も頂戴した。そういった世界的な企業で働くためにはどんな資質を学生時代に育てておくべきかといった貴重なお話を聞くこともできた。
エネルギーを実現につなげる
自分自身の目で見た業界最先端の「映像」は、学生たちの心に深く刻みこまれる。「映像クリエイターになれば、どんな世界でも自由につくり出せるんだ、なんて素晴らしい仕事なんだろう」「世界で活躍するってカッコいい」「将来は、こんな会社で働いてみたい。こんなところに住んでみたい」。現地で生まれたこれらのモチベーションが、学生である彼らを動かす源泉となる。 エネルギーが生まれたら、それを生産的に利用する計画が必要になる。そこで学生達には次の様な話をする。 「もし、君たちがこういった現場で働きたいのなら学生時代に何をしておくべきだろうか? 4年間はあっという間に過ぎていく。卒業後、ここに帰ってくるために、この4年間をかけて自分は何をしたいのか? すべきなのか? しっかりとした計画を立てよう!」 そして学生達は、4年間の自己目標を作成し、これを実現するための計画を立て、グループ内で発表するというワークショップを行っていく。どの学生も真剣で、本気でこれから始まる自分の4年間を充実したものにしようという決意とともに帰国することになる。 教える立場から見ても、こういう教育を受けられるデジタルハリウッドの学生たちのことを本当にうらやましく思う。実際、この海外研修ツアーの教育効果は、極めて高いと思われる。昨年、ハリウッドを訪問した学生たちは今年2年生になるが、すでに成果を出し始めているのだ。「学生時代にきちんとした実績を残すことが、将来、海外で働くために必要なことだ!」と教えられた学生たちは、1年次から多くの貴重な成果を残している。 Web系の制作コンテストで1位になり、全国から講演に招かれるようになった学生。テレビ番組でアイドルグループを紹介するCG映像を作成し、大きく取り上げられた学生などなど。とても1年間でやりとげたこととは思えない。それがたったの220名の学生の中から出てきているのだ。
自分に栄養を与える行動を実践しよう!
さて、起業家を目指すアントレ読者の皆さんにこれらのお話をしたのは、皆さん自身にも同様の行動を取っていただきたいからにほかならない。大切なことは、「自分のゴールイメージとなるような体験をできるだけ多くすること」である。デジタル業界での活躍を目指す学生をデジタルの現場に初期の段階で連れて行ったように、皆さんが起業家を目指されるのであれば、そのイメージを喚起してくれるような現場に、できるだけ早いうちに足を運ぶことをお勧めしたい。 もしもあなたが将来レストランを開業したいと考えているのなら、すでに成功し、多くのお客さんを集めているレストランに足を運んでみてほしい。そしてその現場に立って、将来自分がこのような店を経営しているシーンをリアルに想像してみてほしい。自宅でテレビの前に座って、成功した起業家紹介番組をただ見る場合に比べ、何百倍も強いエネルギーが発生することを保証する。 もしもあなたが起業家として成功し、将来リッチにリゾート地で生活したいと考えるのなら、ありったけのお金を出してそのリゾート地に行ってみてほしい。そして豪華なリゾートホテルで食事だけでもしてほしい。きっと「よし絶対にまたここに帰ってこよう!」という強いエネルギーがわき上がってくるだろう。 自分のゴールイメージを持つことの重要性が、多くの成功した起業家によって説かれている。手帳に自分の目標を書き留めるということがひとつのブームになっているのもその流れである。 しかし目標を書こうにも、何を書いていいのかわからない人が多くいるのもまた事実だ。これらの人に共通するのは、自分のゴールイメージとなり得る「素材」がそもそも自分の中に入っていないのだ。その状態でいくら目標を書き込もうにも、机上の空論となり、強いエネルギーは発生しにくい。 ゴールイメージを持ちたければ、「体感」を交えた経験を増やすことが不可欠だ。この週末、あるいは次の長期休暇、ぜひ自分自身に「栄養」を与えるような行動を取ってほしい。そして可能な限り、高い理想につながるような体験をしてみること。自分のゴールイメージといえるにふさわしい体験をするために、自分が持っている時間と資金ともっともっと投入してみよう。そのあとの自分の行動が、驚くほど変わっていくことを保証しよう。
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アクティブラーニングスクール代表
羽根拓也 |
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ハーバード大学などで語学専任講師として活躍。独自の教授法が高い評価を受け、94年、ハーバード大学より優秀指導教授賞(Certificate of Distinction in Teaching)を受賞。日米10年以上の教育活動の集大成として、97年、東京で「アクティブラーニングスクール」開校。これまで日本になかった「学ぶ力」を指導育成する教育機関として各界より高い評価を得る。新世代教育の旗手として教育機関、政府関係機関、有名企業などから指導依頼がたえない。現在は、デジタルハリウッド大学・大学院専任教授兼CLOも兼任。
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